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第80話 次の一手

「マーカス。シェリー。ありがとう」

 俺は二人に頭を下げて感謝する。

 屋敷のエントランスでの()め事が終わり、俺達は自分の執務室へ戻ってきた。

「このマーカス。身に余る光栄でございます」

 俺の言葉に恐縮しているマーカス。

 彼がパイル男爵の手下を倒してくれなければ、今頃俺は軟禁されていた。

「マーカスさんのおかげで、うちも話がやり易かったよ」

 手下を失い動揺している絶妙なタイミングでシェリーがパイル男爵を論破。

 おかげでパイル男爵がウォーカー男爵家当主代行への就任を保留する事が出来た。

「ただ、問題を先延ばしただけで状況は悪いままだよね」 

 シェリーの言う通りだ。

 署名も紋章印も本物である以上、ポール兄さんの意思でパイル男爵を当主代行に任命したのだろう。

 日付が抜けていたのは単純なミスをしたに過ぎない。

 兄さんに確認をしたところで、パイル男爵が当主代行に就任する事には変わりない。

 しかしながら、自分の領地を他の貴族、それも敵対行為をしてきた者に任せるのは異常だ。

 一体何を考えているのだろう。

「王都へ行かれるのですか」

「何も言っていないのによく分かったな」

「リック様のお考えは、エセルにはお見通しです」

 毎度の事ながらエセルの洞察力(どうさつりょく)には感心する。

 そもそも、このような事態を招いたのはポール兄さんがふざけた命令をしたからだ。

 事態を収拾させるには、兄さんから命令を撤回してもらうしかない。

「ポール様に直接会っても難しいかもしれないよ」

「そうだな、シェリー。俺も難しい事は分かっている」

 兄さん自身の意思で発している命令だ。本人の面子(めんつ)もあるから簡単に撤回はしないだろう。

「それでも直接会えば真意を聞き出せるはずだ」

 真意が分かれば俺も動きようがある。

 願わくは俺が納得できる理由であって欲しい。

「ただ、俺がいない間、パイル男爵が変な動きをしないか心配だな」

 現在、パイル男爵一行は屋敷の別館、来客用をもてなす為の施設に滞在している。

 町の宿屋にでも泊めさせようかと思ったのだが、目の届く場所で動きを監視した方が良いと判断したからだ。

 現在、別館の周辺には屋敷の使用人達を配置。パイル男爵の動向は逐一入るようなっている。

 しかし、この世界には携帯電話どころか電信技術自体が出来上がっていない。

 屋敷不在の間はパイル男爵に関する情報が一切入ってこない。

 何かあった時に対応が遅れてしまう事が気掛かりである。

「少しの間なら大丈夫よ」

 それまで黙っていたノーマが口を開く。

「さっきパイルの食事に下剤を入れたの」

「いつの間に!」

 俺達は驚く。

 パイル男爵は用心深く、手下を調理場へ送り、料理中に変な真似をされないように監視していた。

「あれは監視とは言えないわ。あたしの目からすれば節穴(ふしあな)だらけね」

 事も無げに言うノーマ。腐っても鯛、ポンコツでもスパイと例えれば良いのだろうか。

「下剤を持ったのは凄いけど、パイル男爵は用心しているから、簡単には食べないと思うよ」

「誰かに毒味をさせるのではないでしょうか」

 エセルとシェリーはそれぞれ懸念(けねん)を述べる。

「それも分かっているわ。だから特別な下剤を用意したの」

 ノーマの説明によると、パイル男爵に盛った下剤は無味無臭で持続性が長い事が特徴だが、効果が弱いのが難点で普通の人なら異変すら感じないレベルだと言う。

「だけど、それが狙いなの」

「パイル男爵は胃腸が弱いからか」

「さすがご主人様。ご名答」

 効果が弱い下剤でも胃腸が弱いパイル男爵なら効果てきめんらしい。

 毒味が食べても何もなければ、さすがのパイル男爵も安心して食べるだろう。

「しかしながら、そんなに上手にいくのでしょうか」

「大丈夫よ。あたしは薬でそんなヘマはしない」

 エセルの心配を一蹴(いっしゅう)する。

 たいした自信である。 

 とはいえ、エセルもシェリーもマーカスも本当かどうか(うたが)っているのは事実である。

 それは下剤の効果を含め色々な点で。

 俺はノーマの目を見る。

 男性が苦手な彼女は、サッと目を逸らす………が、ゆっくりと視線を動かして俺と目を合わせようと頑張っている。

 それを見ていると、まるでマラソン大会でビリながら一生懸命に走っている人を応援している気分になる。

「ノーマ。下剤の効果はいつまで続くか」

 ようやく視線が合い、俺は質問をする。

「そうね………3日~5日くらいかしら。その間、パイルはトイレとお友達になる事は保証するわ」

 ギリギリだな。

 だが、これだけ纏まった時間足止めしてくれるのはありがたい。

「エセル、旅支度をしてくれ」

「はい!かしこまりました。少しお待ちください」

 エセルが言う少しとは、本当に僅かな時だった。

 3分も経っていない。

前以(まえもっ)て用意をしてくれていたようだ。

 彼女が抱えて来た荷物の中にはL字型の例の物も含まれている。

「これ背負子(しょいこ)だよね。懐かしいね」

 背負(せお)って荷物を運ぶ時に使う道具。町の大火災の時、救助活動で大活躍した。

「はい。新しい『背負子君2号』です。耐久力と快適性を上げました」

 俺の考えている事はお見通しですというエセルの自負は伊達ではない。 

 今回、俺は『超人』の力を使って王都へ行こうと考えている。

 ウォーカー男爵領から王都へは、早馬で昼夜問わず駆けても2日~3日を要するほど長い距離だ。

 しかし、それは道中、険しい山道を登り、深い谷を迂回(うかい)するから。

 直線距離で進めば短い距離で済む。

 『超人』の力は、新幹線より速く走れる上、谷や(がけ)を跳び越える事が出来る。

 確かめた事はないが、短時間で王都に着けると思っている。

 ただ『超人』の力は俺個人にしか効果が出ないので、荷物や人を運ぶ時は、背負子を用意する必要がある。

「残念ながら、荷物を積みますと、乗れる人は一人しかいません」

 すまなさそうに言うエセル。

 言われて俺は気が付く。

 連れて行けるのは一人だけか。

 全員を連れて行くつもりは無かったが、難しい選択だ。

 俺の理解者で痒い所に手が届くサポートまで期待できるエセル。

 博識で教会関係者にも顔が効くシェリー。

 剣の達人マーカス。

 意外性のありそうなノーマ。

 誰にしようか。

 俺は悩んだのであった。


読んで頂いてありがとうございます。

リックは誰を連れて行くのでしょうか?

次回もよろしくお願いします。

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