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第73話 新しい 取り組み

前回のあらすじ

 父ピーターの葬儀、忌明けの儀式は無事に終わった。

「それでは行ってくるよ」

 旅支度を整えたポール兄さんが馬車に乗り込む。

 忌明けの儀式は終わったが、新しい当主になった兄さんは休む暇がない。

 王宮へ赴き、襲爵(しゅうしゃく)の儀式を受ける為だ。

 ロイレア王国の貴族は世襲制であるが、この儀式を受けないと貴族として認められない。

「行ってくるわね」

「だぁ~」

 オリーヴ義姉とティム君も兄さんと一緒だ。

 それにしてもティム君は俺達と一緒に地下空間を彷徨(さまよ)ったり、今回の長旅があったり赤ちゃんながらハードな生活を送っている。

「二人とも気をつけて」

 俺はティム君の頭を優しく撫でると彼は「きゃっ」と喜ぶ。

「うふふ。ありがとう」

 そう言ってオリーヴ義姉さんはティム君を抱きかかえて馬車に乗り込む。

 俺や使用人達に見送られてポール兄さんたちは王都へ向かって出発した。


 さて、俺も忌明けの儀式を終えたから暇になるという訳ではない。

 兄さんが不在の間は当主の代理として領内の統治する事になっている。

 忌明けの儀式に時間を割かれていたので、領内の運営は滞っている。

 兄さんが戻って来るまでのつなぎ役なので、急を要する案件だけ対処するつもりだが、それでも仕事量は多そうだ。

 また、俺は兄さんから特別な使命を受けている。

「リック様。アーノルド様がお見えになりました」

 兄さんが王都へ旅立った数日後、エセルが来客を告げる。

 俺はターミガン商会のアーノルドが待っている応接室へ向かう。

 彼と会うのはラストを購入して以来となる。

「失礼する」

 応接室に入るとアーノルドが神妙な面持ちで立っている。

「この度は心からお悔やみ申し上げます」

 アーノルドが祈りを捧げる仕草をしながら言う。

「この前はとんでもない薬を売ってくれたな」

 俺はアーノルドを睨む。

「しかしながら、御父上とお話が出来て良かったのではございませんか」

 平然としているアーノルド。

いつもの事であるが、笑っている子も泣き出す俺の睨みは彼には通用しない。 

「父さんと話が出来て良かったのは認めるが、ラストの効果は教えて欲しかった」

 たまたまノーマがラストの事を知っていたから良かったが、何も知らないで使っていたら大変な事になっていたと思う。

「リック様ならご存知だと思っておりました」

 いけしゃあしゃあと言う。

 ふてぶてしい奴である。

 これくらい図太くないと商人という職業は務まらないのかもしれないが。

「それで、本日はどのようなご用件でございますか」

「そうだった。とりあえず座ってくれ」

 今回は俺がアーノルドを呼び出したのだ。

 俺とアーノルドは向かい合って椅子に座る。

「ウォーカー男爵領の新しい産業について話をしたい」

「新規産業でございますか?」

「そうだ……」

 俺はアーノルドに説明する。

 ピーター父さんが亡くなった影響は各方面に有るのだが、最も影響が大きいのがお金に関する問題だ。

 王国内でも有数の大金持ちであるウォーカー男爵家だが、その財源は、穀物や嗜好品(しこうひん)を安い時大量に買い付け、値段が高くなった時に売り払った際に得られる差額分の利益である。

 この方法でお金を稼ぎ、財産を築いてきた。

 しかし、成功した時の実入りは大きいが、失敗した時の損失は大きい。

 例えば、買い付けた後に、その品物の値段が下がってしまえば、売り払った時に差額分だけ損をする。

 値上がりを待って保有し続ける選択肢もあるが、いくら保存が利く品物でも時間が長く経過すれば劣化するので、品そのものの価値が下がってしまう。結局損をする。

 売買の時期が少し違うだけでも損得の格差が激しい。

 タイミングの見極めが重要なのだ。

 ピーター父さんはその感覚がとても優れていた。

 未来を見て来たのではないかと思える程、買い付けた品物は価格が必ず高騰するし、ほぼ最高額の状態で売り払っていた。

 大火災による損失を除けば、失敗は無かったと思う。

 俺が前世で死ぬ直前にチートという新語が誕生したが、この方面で父さんはリアルチートな存在であった。

 そのチートがいなくなってしまった今、ウォーカー男爵家は最大の収益源を失った。

 生前、父さんもこの事は心配していて、父さんがいなくてもある程度は稼げる仕組みを作ってくれたが、父さんに比べるとその額は足元にも及ばない。

 ウォーカー男爵家は、新しい収益源を確立する必要がある。

 それがポール兄さんと俺の共通認識だ。

「領内の産業振興に力を入れてくれ」

 これが兄さんから受けた使命。  

 領内の産業が活況(かっきょう)になれば、領民達は(うるお)うし、ウォーカー男爵家も潤う。一石(いっせき)二鳥(にちょう)だ。

 幸い、これまで父さんが稼ぎに稼いでくれたので、資金は潤沢(じゅんたく)にある。

 ただ、せっかく領内で良い物を作っても俺達は領外への販路を持っていない。

 どうしても商人の力が必要になる。

「それでターミガン商会にご用命頂いたのでございますか」

「そうだ」

 他にも付き合いのある商人はいるのだが、アーノルドの実力は他と比べて頭一つ抜き出ているように感じる。

 その分、癖も強いのだが。

「ポール様とリック様が抱いておられる懸念は、手前共も感じていました。かしこまりました。微力ながらターミガン商会は、リック様から期待に添えるよう頑張らせて頂きます」

「よろしく頼む」

 俺とアーノルドは握手を交わす。

「それでは早速、始めるとしよう」

 こうして俺はアーノルドと新しい産業について色々と話し合いをしたのであった。



読んで頂いてありがとうございます。

今回より父ピーターがいなくなり、リックの生活も色々と変化していきます。

これからもお付き合い頂きますようお願いします。

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