第67話 くすり
ブックマーク登録が100を超えました。
ありがとうございます!
「本当に毒薬なのか」
「そうよ」
ノーマは頷く。
アーノルドの奴!薬と言ってなんて物を売りつけたんだ!
俺を当主にさせようと焚きつけようしたり、目に余る行為が多い。
逮捕して懲らしめた方が良さそうだ。
「リック様、落ち着いて下さい」
俺のただならない様子を見て、エセルが宥める。
「気をつけていれば問題ないから、心配しなくても大丈夫よ」
「ノーマ、これどれくらい強い毒なのかな」
シェリーが黄色い液体が入ったガラス瓶を指差して質問する。
「飲むと5日以内に命を落とす程度かしら」
「猛毒だよ!」
シェリーがツッコミを入れる。
「大丈夫と言ったのには理由があるわよ。瓶の蓋を開けてみて」
ノーマに言われて俺はガラス製の瓶の蓋を開けてみる。
「うっ!?」
顔をしかめる。
悪臭が俺の嗅覚を襲う。
ゴミ箱?いや違う。これは昭和の時代の悪しき香り、長い間掃除がされていない真夏の公衆トイレの臭いだ。
俺は急いで蓋を閉める
「臭いを嗅いだだけなら身体に影響しないから大丈夫よ」
「臭いだけでも凶器だぞ」
「だけど、これだけ臭いと飲もうと思わないわよね」
なるほど。飲めば死ぬ危険はあるが、そもそも好き好んで飲もうと思う人がいないのか。
「この毒薬はタイム オブ ザ ラスト。長いからラストと呼ばれているの」
最後の時間か。毒薬に似合う名前だ。
「カイケの木の根とミササの木の根を乾燥させて磨り潰して、ハワイの花びらと一緒に煮込むと出来上がるのよ」
皆生、三朝、羽合、鳥取の温泉みたいな名前の植物だな。
「だけど、カイケは乾燥肌、ミササは咳で苦しい時、ハワイは関節痛の薬として使っているよ」
シェリーの説明によると、それぞれは薬草として扱われていて、教会でも薬として配っているそうだ。
薬もたくさん掛け合わせると猛毒になるらしい。
「ただ、配合するのがとても難しくて、少しでも量を間違えると失敗するから、量は少ない。市場に出る事はまずないの」
それで高かったのか。
「それにしても、一目見ただけでよく分かったな」
この手の知識はシェリーが一番詳しいのだが、そのシェリーでも知らなかった事を知っていたノーマに驚く。
「毒の知識は仕事柄勉強していたから」
仕事柄というとスパイの事か。大変な世界なんだな。
「毒に詳しい……つまり………掃除というのは………やっぱり…………」
シェリーが何やら呟いているが放っておこう。
ノーマはこの毒薬の説明を続ける。
「ラストは悪臭のせいで暗殺では使われない。だけど、薬として使われる事があるのよ」
「こんな猛毒、薬として使えるのか」
いったい何の効果が有るのだろうか。
「今すぐ死にそうな病人や怪我人でもラストを飲ませるとたちまち元気になるの」
「しかし、飲むと5日以内に死ぬのではないのですか」
エセルの疑問の通りだ。
5日以内に死ぬのに、すぐに元気になる、矛盾している。
「その通りよ。元気にはなるけど、それは一時的な事。その後はすぐに死んでしまう」
「ややこしい薬ですね」
「そうね。だけど重宝されているのよ。例えば、戦場で騎士が致命傷を負った時に敵に一矢報いる目的とか、一子相伝の秘術を伝えないまま死にそうな職人から情報を教えてもらう目的とか」
最後の力を振り絞ってという表現が当て嵌まる。
本人の為というより周りの人たちの為に存在する薬だな。
「そう言えば昔、毒を盛られて昏睡状態になっていた教皇が『神の力』で目覚めて真犯人を暴き、その直後に天に召されたという話があるけど。もしかして」
「確実にラストの力ね」
「そうか。やっぱり神様はいないのかな」
修道女としてあるまじき発言をするシェリー。
改めて俺は黄色い液体が入ったガラス瓶を見る。
気付け薬とは上手に言ったものだ。
もしかしてアーノルドは「この先どうするのか、親子でしっかり話し合いをしてみたらどうでしょうか」という意味を込めて渡したのではないだろうか。
余計なお世話だ。
しかし、このラスト、使ってみたいという誘惑が俺に芽生える。
最近父さんが俺に伝えようとしている何か、そして聞きそびれてしまった大切な話。
今のままでは永久に分からないままだろう。
だけど、使えば父さんは確実に命を落とす。
この先長くはないかもしれないが、使えば俺が殺したと同じ意味になる。
使う事はできない。
執務室で一人になった時を見計らい、俺は自分の机の引き出しの奥にガラス瓶をしまう。
そして、鍵を掛けたのであった。
読んで頂いてありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。




