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第61話 恨み

前回のあらすじ

 パイル男爵はスパイの女の噓の情報を鵜呑みにしてしまった。

「こんにちは、リック君」

 黒い雲が鍋の(ふた)のように空を覆い、小雨が降り続けるある日の事。

 オリーヴ義姉さんが愛息ティム君を抱きかかえながら俺の執務室にやって来る。

「やあ、こんにちは」

 俺はオリーヴ義姉さんに挨拶すると、ティム君へ向けて「いないいない」と言いながら両手で顔を隠し「ばあ」と言いながら顔を見せる。

 日本ではお馴染みだった「いないいないばあ」だ。

 ティム君がキャッキャッと笑う。

 その様子を見て オリーヴ義姉さんが微笑(ほほえ)む。

 相変わらず綺麗だ。

「うふふ。ありがとう。ところで、さっきお父様から手紙が届いたの」

「マイエット子爵から」

「ええ、そうよ。パイル男爵の事について書かれていたわ」

 オリーヴ義姉さんの話によると、パイル男爵はスパイの女が報告書に書いた嘘の情報を鵜呑(うの)みにしたそうだ。

 それによりパイル男爵が属しているマルカヌ公爵の派閥内は一時期混乱したが、後にパイル男爵の情報は嘘だったと判明、現在パイル男爵はほぼ失脚している状態で肩身が狭い思いで日々過ごしているという。

「ここまで上手くいくとは思わなかったよ」

 立案者のシェリーは満足そうだ。

 味方なら頼もしいが敵に回したら怖いタイプだ。気をつけよう。

「だけど『パイル男爵は相当な恨みを抱いているから、重々気をつけるように』と書いてあったわ」

 先に仕掛けたのはパイル男爵だし、都合の良い噓の情報を鵜呑みにした事にも問題は有るので、恨まれる筋合いはないと思う。

 だが、それは俺側の理屈。痛手を受けたパイル男爵の気持ちは分からないでもない。

「肝に銘じておくよ」

「しかし、相手はここから遠く離れた王都にいます。気にする必要はないと思いますが」

 エセルが言う事はもっともだ。

 ただ、日本には平安時代、乱を起こして討ち取られた平将門(たいらのまさかど)の首が、怨念(おんねん)のあまり京都から関東まで空を飛んで行ったという伝説がある。

 人の恨みというのは、時として常識では計り知れない力を発することがある。

 それに戦争にしても(いじ)めにしても、やった方は早々に忘れるが、やられた方はいつまでも根に持っているものだ。                 

 どこで足を(すく)われるか分からない。

 マイエット子爵の忠告通り気をつけるに越したことはない。

 俺はその旨をエセルに丁寧に説明する。

「分かりました。エセルも気をつけます」

 エセルは納得した様子だし、それを見ていたオリーヴ義姉さんも安心した表情をする。

「ところで(あるじ)さん」

 話が一区切りついた所でシェリーが話し掛ける。

「パイル男爵と聞いて思い出したけど、あの女、どうするのかな」

「あっ!」

 パイル男爵が送り込んだスパイの女の事か。

 ピーター父さんが倒れてから何かと忙しかったから失念していた。

 何か忘れているなぁとは思っていたのだが。

「どうしたら良いのか、牢屋番の方が困っていました」

 エセル。そういう事は早く教えてくれ。

 最後に女と会ったのは報告書に偽の情報を加筆させた時、おそらく一か月以上前だと思う。

 つまり、その後の長い間、女は牢屋に放置していた事になる。

「処遇はリック君に任せるとお義父様は言っていたわね」

「うーるー」

 オリーヴ義姉さんの言葉に「そうだ」と言わんばかりに声をあげるティム君。

 君はその場にはいなかっただろう。

「とりあえず牢屋へ行って、本人と話をしてみるか」

 忘れてはいたものの、俺の頭の中では女をどうするのか考えは固めてはある。

 女の態度を見て最終判断を下そう。

「エセルもお供致します」

「うちも一緒に行くよ」

「私はティムがいるから行かないわね」

 こうして、俺はエセルとシェリーを連れてスパイの女が捕まっている牢屋へ向かったのであった。 

読んで頂いてありがとうございます。

今回はいつもより短くてすみません。

大雪でご苦労されている方、お体や安全に十分にお気を付けください。

次回もよろしくお願いします。

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