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番外編11 パイル男爵

あけましておめでとうございます!

今年も『転生者リックの異世界人生』をよろしくお願いします。


前回のあらすじ

 父ピーターの判断で、ウォーカー男爵家に変な噂を流したパイル男爵へ仕返しをする事が決まった。

 リックはパイルの手下である女に命を助ける事を条件に、報告書にある一文を加筆させた。

 

「パイル男爵。ウォーカー男爵家に潜入している女より報告書が届いております」

「よこせ」

 小生(しょうせい)は執事から書類を受け取る。

「たったこれしかないのか」

「左様でございます」 

 小生の不満を淡々と受け流す執事。

 それが(しゃく)(さわ)る。

「なんだ!その態度は!」

 執事を怒鳴りつける。

「お前がそんな有り様だから、こんな報告書しか来ないのだ!」

 無表情で下を向いたまま黙っている執事。

 こいつは、小生の言っている事を本当に理解しているのか。

 声をさらに張り上げて説教を続ける。

 …

 ………

 ……………ハアハアハア

「それではパイル男爵。失礼いたします」

 小生の気が済んだ頃を見計らい、執事が立ち去る。

 最後の最後まで無表情だった。

 まったく!どいつもこいつも!

 怒りが再び込み上がるが、気を取り直す。

 報告書は羊皮紙三枚。

 何か月も待たせておいて、たったこれだけとは。

 前回の報告書も酷かった。

 毎日風呂に入れて気持ち良いだとか、夕食に出て来た肉が柔らかくて美味かっただとか、どうでもいい話ばかりを書いていた。

 小生なんか()れタオルで体を()くだけで、湯を溜めた風呂に何年間も入っていないし、肉だって塩辛くて硬い干し肉しか食べていない。

 なんて(うらや)ましい!

 相場よりも格安だから雇ってみたが、なんと役立たずなスパイなのか。

 今回駄目なら解雇だ。そう心に決め、小生は報告書に目を通す。 

 まず一枚目。

『敬愛するパイル男爵へ』

 報告書の書き出しだけは一人前だ。

 内容は前回よりも格段に進歩している。

 中でも目を()いたのが、成金貴族のピーター・ウォーカー男爵が病に倒れたという記述だ。

 快方に向かわず寝たきりになっているらしい。

 ざまあみろ

 笑みがこぼれる。

 まず、品が無い田舎貴族のくせに誇り高き法衣貴族である小生よりも金を持っている事がいけ好かない。

 それにマイエット子爵と縁戚(えんせき)になってからは、まるで(はえ)のように()(うるさ)い動きをしていたから目障りだった。

「これはマルカヌ公爵もお喜びになるだろう」

 小生が属している派閥の長もウォーカー男爵を嫌っている。

 他の貴族に出し抜かれる前にお知らせしよう。

 小生は上機嫌で報告書を読み進める。

 続いて、二枚目。

 スパイの女は、ウォーカー男爵が倒れて屋敷が動揺している隙を狙い、二男のリックが毒を盛ったという噂を流したらしい。

 噂は少しずつ広まっていて、混乱に陥るのは時間の問題と書かれている。

 あの女、今回ばかりはスパイらしい動きをしている。

 はっはっは。この先が楽しみだ。

「なにぃ!!」

 そして、三枚目、つまり報告書の最終ページを開けて、小生は驚きの声をあげてしまう。

「パイル男爵、如何なされました」

 声を聞いた執事が駆けつけてくるが、小生は「何でもない」と言って下がらせる。

『ウォーカー男爵家二男リックとヘストン子爵の令嬢との縁談(えんだん)が進んでいる』

 報告書にはそう書かれている。

 小生の手は震える。

 な、な、な、な、なんてことだ。 

 ヘストン子爵は小生と同じマルカヌ公爵派の貴族。

 それがあのウォーカー男爵家の縁戚になろうとしているとは。

 そう言えば、ヘストン子爵家には間もなく成人を控えている娘がいたはずだ。

 リックという輩も同じくらいの年齢と聞く。

 結婚は有り得る話。

 大事件だ。

「おいっ!」

 小生は執事に急いで賃貸馬車を用意させる。

 金は掛かるがそれを惜しむ暇はない。

 緊急事態だ!

 マルカヌ公爵に急いで報告しなくては!


 

「公爵様。急なお呼び出し。如何なされましたか」

 締まりのない身体を揺らしながらヘストン子爵がやって来る。

 愛想笑いを浮かべているが、気色悪い。

 相変わらず身体どころか表情まで締まりがない。

 一方のマルカヌ公爵は険しい顔をしている。

「ヘストン!貴様、私を裏切ったな」

「えっ!?何のことでございますか?」

 それでもヘストン子爵は愛想笑いを続けている。

「貴様は裏でウォーカー男爵と手を結ぼうとしているだろう」

 公爵の言葉にヘストン子爵はようやく驚きの表情を浮かべる。

「公爵様。私はそのような事は一切しておりません」

「ヘストン子爵。黙りなさい!」

 公爵の近くに控えていた小生は子爵を一喝する。

「パイル!誰に向かって言っている」

 愛想笑いから憤怒(ふんぬ)の表情に豹変(ひょうへん)させたヘストン子爵。

 だが、小生は意に介しない。これから失脚(しっきゃく)する者になんと思われても痛くも(かゆ)くもない。

「貴家のご令嬢とウォーカー男爵家の御子息と結婚させようとしている事は周知の事実なのですよ」

 それを聞いたヘストン子爵は顔面(がんめん)蒼白(そうはく)に…………なると想像していたが、意外にも愛想笑いを再び浮かべる。

「公爵様。当家にはそのような事実はございません。全てはパイルの妄想(もうそう)でございましょう」

 この期に及んで白を切るとは。呆れるほどの図々しさだ。

 小生も負けずに反撃する。

「マルカヌ公爵様。ヘストン子爵はこの場を逃れようとして嘘をついているに過ぎません。調べればすぐにでも事実は明らかになります」

 小生の言葉を聞いた公爵は力強く同意する。

「うむ。パイルの言う通りだ。ヘストン、貴様は謹慎(きんしん)だ。調査の結果が()次第(しだい)、処遇を決める」

「そんな」

 今度こそ顔面蒼白になるヘストン子爵。

「パイル!覚えておけ!」

 捨て台詞を吐きながら、公爵家の私兵に連行されるヘストン子爵。

 いい気味だ。

「パイルよ。よくぞ私に知らせてくれた。貴様のような優秀な者が仕えてくれること嬉しく思うぞ」

 マルカヌ公爵からお褒めの言葉を頂く。

「小生はマルカヌ公爵様の事を第一に考えております」

「それは頼もしい。これからホイストでもどうだ。一人足りなくてな」

「お誘い頂き光栄に存じます」

 なんと!公爵のカードゲームのメンバーに誘われた。

 マルカヌ公爵から気に入られたようだ。

 ヘストンに代わって小生が子爵に叙爵(じょしゃく)される日も近そうだ。

 今夜は祝杯だ!


 

 数日後……


「何だと!証拠が全然見つからないだと!」

「左様でございます」

 小生の不満を淡々と受け流す執事。

 それが(しゃく)(さわ)るが、今はそれに気にする余裕はない。

 マルカヌ公爵からの御命令で、ヘストン子爵の一件の調査の責任者に命じられた小生。

 最初は意気揚々と取り組んだものの、ヘストン子爵家とウォーカー男爵家が縁談を進めている証拠は一切見つからなかった。

 ヘストン子爵の屋敷も調べた。

 当事者である令嬢をはじめ関係者への聞き取りも行った。

 それでも縁談を匂わせるような情報は出てこなかった。

「やり方が悪いのだ。しっかりと調べるのだ」

「恐れながらパイル男爵」

 執事のくせに口答(くちごた)えしてくる。

「ウォーカー男爵家の者に(だま)されたのではございませんか」

 それは小生が最も聞きたくない言葉であった。

「そんな馬鹿な事があるか!探せ!!もっと探すのだ!!!」

 大きな声を張り上げる小生。

 いつもなら無表情で下を向いたまま黙っている執事だが、今回は違った。

「大変申し訳ございませんが、パイル男爵。私目はお(いとま)を頂きたいと存じます。貴方はもうお終いですよ」

 そう告げて立ち去る執事。

 一人きりになった小生は怒りの()け口までも失い、しばらくの間、その場にポツンと立ち続けた。



 調査は続けたが、以降も証拠を見つける事は出来なかった。

 マルカヌ公爵は、小生の情報が間違いであったと判断され、ヘストン子爵は無罪(むざい)放免(ほうめん)となった。

 小生のその後はまさに生き地獄となった。

 ヘストン子爵からは()(ぎぬ)を着せられたと恨まれ、派閥に属する貴族からは嘲笑(ちょうしょう)の対象となった。

 何よりマルカヌ公爵から失望された事が辛かった。

 失意の小生。

「パイル男爵」

 そんな小生が王宮に出仕しているある日、声を掛けて来る者がいた。

 マイエット子爵。

 憎きウォーカー男爵家に娘を嫁がせた人物だ。

「何の用だ」

 小生はマイエット子爵を睨むが、奴はどこぞの執事のように無表情。 

 指でクイッと眼鏡の位置を直している。

「今後は静かにしておいた方が身のためだぞ」

 抑揚のない声でそう告げるとマイエット子爵はその場を去る。

 小生は怒りで身を震わせた。

 

 忘れるなよ!

 マイエット子爵!

 そしてウォーカー男爵!

 小生はこのまま失脚しないぞ!

 いつの日か絶対に復讐してやるからな!



読んで頂いてありがとうございます。

前回のあとがきで投稿は1月7日と告知しましたが、予定より早く書きあがりましたので、一日繰り上げて投稿しました。

次回は予定通り1月13日を予定しております。

新型コロナウイルスが流行して、緊急事態宣言が発出されそうです。

暗い話題ばかりが多い最近ですが、空けない夜はありません。

絶望せず、希望を持ち続けましょう!

本作品を読んで、暗い気持ちを少しの間でも紛らわせることができたなら、作者として本望です。

これからも頑張りますので、よろしくお願いします。

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