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第60話 牢屋の女

※第58話の後書きで次回投稿は12月28日と発表しましたが、26日に第59話を投稿しています。


 俺が向かった先は、屋敷の一角にある牢屋(ろうや)

 半地下になっていて壁の上部に明かり取りの窓はあるが、空気はよどみ薄暗い。

「元気か」

 俺は鉄格子(てつごうし)の向こうにいる人物に声を掛ける。

「何の用かしら」

 そこに捕らわれているのはもちろん罪人。

 パイル男爵の手下であるスパイの女が敵意(あふ)れる目で俺を睨む。

 俺はわざとらしく肩をすくめる。

「威勢がいいな。だが、お前の生殺与奪(せいさつよだつ)の権利は俺が持っている」

 その言葉に女はビクッと体を震わせる。

「覚悟は出来ているか」

 俺は出来る限り冷酷に告げる。

「も、もちろんよ。こ、怖くなどない」

 女なりの意地なのだろう。

 精一杯の虚勢(きょせい)を張る。

 しかし、目には涙が浮かんでいる。

「助かる方法が一つだけある」

「な、な、なによ」

 女の瞳に希望の光が灯る。

「体が目当てかしら。胸でも尻でも唇でも好きなだけ捧げる」

 この女、男性が苦手だったはずだよな。

 それなのに、ここまで言わしめるとは。死の恐怖が女を追い詰めているようだ。

生憎(あいにく)、俺は女に困っていない」

 俺には、エセルがいるし、シェリーとの関係も良好だからな。

 ただ、この女に興味が無いのかと問われれば、そうではない。

 シェリー程の大きさはないが、胸の膨らみは大きいし、エセル程ではないが腰回りが細い。

 何よりぷっくりした唇が色気を(かも)し出している。

 しかし、今は構っている暇はない。残念ではあるが。

「お前には手紙を書いてもらう」

「手紙?」

 女が首を傾げる。

「そうだ。宛先はパイル男爵だ」

 俺は懐から手紙の入った封筒を渡す。

 女がパイル男爵へ送るつもりだった報告書だ。

「これから俺が指示する通りの内容で加筆をするんだ」

「そうしたら命を助けてくれるの」

「約束しよう」

 女は考え込む。

 この条件を()めば、主であるパイル男爵を裏切る事は、誰が見ても明白だ。

 優秀なスパイであれば絶対に受けない。

 身体は売れても主は売れない。

 例え命を失おうとも。 

「分かったわよ。何を書けば良いの」

 この女は優秀なスパイでは無かった。

 これまでの経緯を見ていて予想はしていたが。

「一文だけで良い『俺とヘストン子爵の令嬢との縁談(えんだん)が進んでいる』それだけを書いてくれ」

「それは本当なのかしら」

「世の中には知らない方が幸せな事が多いだろう」

「そうね」

 女は羽ペンを手に持ち、報告書に文字を書きだす。

 もちろん、俺の縁談が進んでいる話は真っ赤な(うそ)だ。 

 ヘストン子爵は法衣貴族の一人だ。

 シェリーの情報によると王宮には派閥(はばつ)がいくつも有る。

 法衣貴族はいずれかの派閥に属していて、ヘストン子爵とパイル男爵は同じ派閥に属しているという。

 凄い情報力だな、シェリー。

 ちなみにマイエット子爵はパイル男爵とは別派閥だ。

 今回はパイル男爵がウォーカー男爵家へ敵対的な行為を仕掛けてきたが、パイル男爵個人というより、その派閥がウォーカー男爵家を敵視しているのではないのか、それがシェリーの分析だ。

『ヘストン子爵が敵視しているウォーカー男爵家と仲良くなろうとしている』

 特大スキャンダルである。

 これを知れば、パイル男爵は何らかの行動を起こすはずだ。

 嘘だと見抜かれてしまう可能性もあるが、信じてしまうと、その情報は周囲に広めようとするから、派閥内は多かれ少なかれ混乱するはずだ。

 策が成功すれば、使者を送って抗議するよりもパイル男爵へ効果的な仕返しになる。

 倍返しどころか三倍返しにも四倍返しにもなりそうだ。

 シェリー恐るべし。敵に回したくない人物だ。

「書いたわ」

 殺されない事が分かり、気持ちに余裕が出たのだろうか。

 女の表情が幾分か柔らかくなる。

 俺は格子越しに手紙を受け取る。

「小細工しても無駄だからな」

「疑り深いわね。そんな事しないのに」

 唇を尖らせる女。

 その仕草も色っぽい。

 いかんいかん。このままだと本当に手を出してしまう。

 気を取り直して手紙に目を通すが、見た限り問題は無さそうではある。

 念の為、シェリーに確認させておこう。

 

 いったいどんな結果になるのだろうな。



2020年の投稿は本日で最終になります。

ここまで延べ70回214795文字を書いてきましたが、多くの方から読んで頂いていることが、作者にとって大きな励みになり、執筆する原動力になりました。

読者の皆様に感謝申し上げます。

ありがとうございます。

2021年の最初の投稿は1月7日木曜日を予定しております。

来年もよろしくお願いします。


それでは皆様、良いお年をお迎えください。


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