表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

68/299

番外編10 エセルとシェリー2

 二重底になっているチェストの本当の底。そこには二通の手紙が置かれている。

 手の込んだ隠し方をしている。きっと、重要な事が書かれているのだろう。

 一通は開封済み。もう一通は封が(ほどこ)されていない、未使用なのだろう。

 まずは、未使用の封筒に入っている手紙を読む。

 冒頭に「敬愛するパイル男爵へ」と書かれている。

 まずは証拠(しょうこ)獲得(かくとく)かな。

「報告書みたいですね」

「そうだね」

 ウォーカー男爵家の日常が書かれた手紙だ。

 これからパイル男爵へ送るつもりだったのかな。

 スパイの女が言っていた情報収集任務の一環なのだろう。

「意外に主さんへの評価が高いね」

 女の報告書には、主さんことリック・ウォーカーの事にも触れられていて「目立たないように努力しているが、かなり頭の切れる人物。要警戒」と書かれている。

「リック様を褒めて頂けるのは嬉しいですが、複雑な気分ですね」

「あはは。そうだね」

 主さんを(おとし)める噂を流したのも、女が主さんを警戒していたからなのかな。

 全部目を通してみるけど、他に気になるような事は書かれていない。

 それでもパイル男爵にとっては重要な情報になるのだろう。

「次はこの手紙だね」

 うちは、開封済みの手紙を調べる。

 この手紙の封筒には封蝋(ふうろう)(ほどこ)されていた。

 開封されているから(ろう)は中央から二つに割かれ、所々(くだ)けているが、合わせてみると、三日月(みかづき)の紋章が現れる。

「これはパイル男爵家の紋章でしょうか」

「たぶんね」

 貴族には自身の家を示す紋章がある。

 うちは、ウォーカー男爵家の図書館から借りた本をめくる

『貴族紋章辞典』

 ロイレア王国内全ての貴族と諸外国の有力貴族の紋章が書かれた辞典だ。

 うちが王都にいた頃、金貨2枚で売られていたのを覚えている。

 一般庶民はもちろん、下級貴族でも手が出し難い金額だね。

 さすがは資金力豊富なウォーカー男爵家かな。

「大当たりだよ」

 封蝋の紋章とパイル男爵家の紋章が合致(がっち)した。 

 これだけ証拠があれば、パイル男爵とあの女が繋がっていたと証明できるだろう。

 これで任務完了!

 ただ、うちは気になる事がある。

 それはこの封蝋されていた手紙の中身。

 貴族が、わざわざ身元が分かる紋章を押して、スパイに手紙を出すのだろうか。

 普通であれば、足が出るような真似(まね)はしない。

 紋章を(はぶ)いたり暗号を用意したりして、身元が分からないように工夫すると思う。

 軽率(けいそつ)と言えばそれまでだけど、王家に仕える法衣貴族はそこまで馬鹿ではない。

 つまり、この手紙はリスクを(おか)してでも命令を徹底させる必要がある超重要事項が書かれているのだ。 

 何が有るかな。

 読ませて頂こう。

 手紙は紙一枚に収められている。

 その中で、うちは気になる言葉を見つける。

「エセルさん、これ見て」

「えっ!?」

 エセルさんはそれを見て絶句する。

『ソランジュ』

 手紙にはその人物の名前が書かれている。

「ソランジュというと、小人さんの時の………」

「珍しい名前だからね。そうだと思うよ」

 小人達の住処に吸血ゲルを持ち込んで混乱に陥れ、深緑の宝石を盗もうとした尖った耳の女性。

 主さんは、えるふ耳と呼んでいた。えるふってどんな意味なのかな。

「ほら、ここを読んで『白いローブをまとった』と書いてある」

 パイル男爵の手紙を要約すると『ソランジュという白いローブをまとった人物が近々ウォーカー男爵領へ行く。もし来たら、パイル男爵の命令だと思い、身命(しんめい)()して仕えるように』と書かれている。

「あの女はソランジュと会ったのでしょうか」

「それは直接聞いてみないと分からないかな」

 それにしても、自分の部下を他人の為に命を投げ出してでも仕えろと命令を出す事態、有り得ない。

 パイル男爵とソランジュは繋がっている。単なる知り合いではない、うち達には計り知れない特別な関係。

 想像しなかった展開だ。

「この前、リック様はウォーカー男爵領が陰謀の坩堝(るつぼ)になるではと心配されていました」

「残念だけど、主さんの心配は現実のものになるかもしれないよ」

 訳が有って王都からやって来た時、ここウォーカー男爵領は長閑(のどか)なことが取り柄の土地だと思っていた。

 しかし、現実は違った。

 町が大火災でほとんどが焼失した。うちも死にかけたけど、あの火災は何者かに仕組まれていた。

 山奥の洞窟で吸血ゲルという凶悪生物が繁殖した。その黒幕であるソランジュの目的は小人達の混乱に乗じて深緑の宝石を手に入れる事が目的だったが、宝石を手にした後、次の目的が有るのは明らかだった。

 そしてパイル男爵。

 一連の出来事は偶然ではない。

「いったい何が起きようとしているのでしょうか」

「それは、うちが教えて欲しいくらいかな」

 エセルさんはとても不安そう。

 うちも不安だ。けれど、それ以上に別の感情が()き上がる。


 た の し み


 ここに来てからは御無沙汰(ごぶさた)しているが、それまでは権謀(けんぼう)術数(じゅっすう)渦巻(うずま)く王都の教会を生き抜いてきた。

 ウォーカー男爵家は、確実にこの陰謀に巻き込まれる。それも大きな陰謀だ。

 そして主さんは、その中心に立たされる。そんな予感がする。

 もちろん、主さんに仕えているうちも、只事(ただごと)ではない。

 ワクワクする!

 それはスリルを味わいたい感覚に近い。

 その場に居合わせられる事に、うちは感謝する。

 存在しない神様に。


 けれど、こんな事に心躍(こころおど)るなんて変だよね。

 長い教会暮らしで心が(ゆが)んでしまったのかな。

 うちは心の中で苦笑いした。

 

読んで頂いてありがとうございます。

次回の更新は12月24日木曜日を予定しております。

これからもよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ