第54話 デートした翌朝の話
前話までのあらすじ
エセルとデートをしたリック。
二人はキスをしたのであった。
ふぁ~
俺は目を覚ます。
窓の外を見ると朝なのに薄暗い。
黒い雲が空を覆っている。
昨日とは打って変わって一雨ありそうな天気だ。
「リック様、おはようございます」
エセルが部屋に入って来る。
いつも通りのメイド姿だ。
日常の光景。
「昨日は楽しかったな」
俺は指で自分の唇を触る。
なんだか、昨日のデートは夢でも見ていたような気分だ。
「はい」
エセルは言葉少なに返事して、俺の服の準備を始める。
いつも通り、見慣れた朝の光景。本当に昨日の出来事は夢だったのか。
だが、顔を赤くして照れている彼女を見ると、昨日の出来事は現実であったと分かる。
そう思うとなんだかムラムラしてくる。
今まで我慢してきた反動だろうか。
ああ、我慢できない。
俺は立ち上がり、エセルを抱きしめる。
「えっ!あっ!」
突然の事に戸惑うエセル。
「ここには二人しかいない」
「……もう。仕方ないですね。今だけですよ」
顔をエセルに近づけ、キスをする。
俺は幸せな気分で朝を迎えた。
「父さん、おはよう」
着替えを済ませた俺は食堂へ向かう。
食事を取っているのはピーター父さん一人だけだ。
ポール兄さん、オリーヴ義姉さん、ティム君はいない。
どこか出かけたのだろうか。
俺は自分の席に座る。
今日の朝食はオムレツだ。
フワフワした卵をナイフで切ると中からチーズが蕩け出る。
美味そうだ。
フォークでオムレツを刺すとそれを口へ運ぶ。
「ひっひっひ。昨日はお楽しみだったか」
この人は俺を驚かせて、食べ物を噴き出させようとしているのだろうか。
そうとしか思えないような絶妙のタイミングで話し掛けて来る。
噴き出してなるものか。
「ああ。楽しかったよ。最高だった」
俺はなんとかオムレツを飲み込んで返事する。
そんな俺を見ながら父さんはニヤニヤ笑う。
「それは良かったな。愛した女は死ぬまで愛し通せよ」
「言われなくてもそのつもりだ」
ただ、父さんが言うように人を愛し通すというは案外難しいのかもしれない。
前世で聞いた話だが、この世で一番理解しあえない人間は国や生まれの違いではなく、男と女だという。言われてみれば体のつくり自体が違っている。男の俺は出産の痛みを永久に体験できないし、そうした男女の細かな違いが、考え方や価値観の違いを作り出していくのだろう。
日本でも永遠の愛を誓い合って結婚したはずの夫婦が価値観の相違で離婚するのはよく聞く話だった。
男と女が付き合うのは覚悟を決める必要があるという意味だろうか。
いや、父さんが言っているのはその意味合いも含まれているだろうが、真意は別にある。
この世界では離婚は少ない。それは男女仲が良いというよりも男尊女卑の風潮が強いためだ。
離婚歴がある女性は一人で生きていくことが厳しい。売春婦になったりホームレスになったりする者も多い。
俺とエセルのように御主人様とメイドが恋愛するという話はよく聞くが、一方で飽きてしまいメイドが捨てられてしまうという話もよく聞く。
もちろん俺はそんな酷い真似をするつもりは全くない。
俺がした事はエセルの人生に強い影響を与えた。
俺は彼女の人生に責任を負った。
何が有ろうと俺はエセルを不幸な目に遭わせるつもりはない。
心にそう誓う。
「ひっひっひ。だいぶ考え込んでいたが、その様子を見ると大丈夫そうだな」
父さんは水を飲む。
「ところでリック。お前が言っていた小人の話だがな」
父さんは少しだけ真面目な顔になる。
「このウォーカー男爵領は今から約100年前、パーシー・ウォーカーという人物がこの地を訪れたことによって始まった」
ウォーカー男爵家がこの地の領主になったのはその頃だと、シェリーが地下空間で言っていたな。
「それまでここは未開の地で、悪魔が暴虐の限りを尽くし原住民達を苦しめていたそうだ」
悪魔というのは、小人の長老が言っていた混沌なる存在の事か。
「パーシー・ウォーカーは女神様とその従者たちと協力して悪魔を倒し、この地に平和をもたらす。原住民達はパーシーを勇者と讃え、ウォーカー男爵領初代当主として迎え入れた」
「俺達は勇者の子孫なのか」
「ひっひっひ。そうだな。もっとも、そんな伝承は貴族ならどこの家でも持っているけどな」
己の権威を上げる為に事実を水増ししたり捏造したりした伝承をつくるのは、貴族ではよくある話。貴族の家の数だけ勇者や賢者や聖者がいるのだそうだ。
「ちなみに、女神の従者というのが小人達なのか」
俺の質問に父さんは首を横に振る。
「おいらはそこまで聞いたことがない」
「そうか」
そこまでは伝わっていないのか。ただ、小人の長老の話を聞いた限り、従者は小人である可能性が高いだろう
「この話はな、ウォーカー男爵家の代々の当主に受け継がれている。初代当パーシー・ウォーカーは何があろうとこの地を守るように言っている。それがウォーカー男爵領、ひいては世界の平和に繋がるとな」
世界平和とは壮大な話だ。さすが勇者。
「ポール兄さんには話したのか」
兄さんは次期当主だからな。俺の予想通り父さんは「話した」と言う。
「ただ、ポールは悪魔なんて迷信だと言って信じていなかったがな。まっ、おいらだって完全に信じきれてはいないけどな」
それは仕方のないことかもしれない。
こんな事、小説家でもなければ、想像する事すら難しいだろう。
俺だって小人達と出会ったり、白いローブの人物ソランジュの異質なる力を目の当たりしたりしなければ信じなかったはずだ。
父さんは再び水を飲む。長く話したので喉が渇いたのだろうか、ゴクゴクとコップが空になるまで飲み干す。
「それからもう一つ。大切な話がある」
「なんだ」
父さんの顔は一段と真面目になる。
俺はゴクリと唾を飲み込み、続く言葉を待つ。
「ここでは人もいるから、おいらの部屋で話そう。ただ、これから用事があるから昼下がりの鐘が鳴った後にでも、おいらの部屋に来てくれ」
「分かった」
昼下がりの鐘は、日本なら14時頃を示す。
今は朝なのでまだ時間がある。
「ひっひっひ。じゃあな」
食事を終えた父さんは席を立ち食堂を出ていく。
俺も残ったチーズオムレツを食べて朝食を終えると、仕事をするため執務室へ向かったのであった。
読んで頂いてありがとうございます。
今回は更新が遅くなりましてすみませんでした。
次回は予定通り25日水曜日に更新する予定でいます。
これからもよろしくお願いします。




