第51話 はだか
前回までのあらすじ
白いローブの人物と戦うリック達。
その最中、リックとマーカスの奇跡的な連携で白いローブの人物を裸にしてしまう。
白いローブの人物の正体は女神像と同じ尖った耳、通称エルフ耳を持つ女性だった。
「予をここまで愚弄しおって」
白いローブの人物の中身であるエルフ耳の女性は、体を震わせ、白い肌を真っ赤にして怒っている。
見事な紅白だ。
ただ、怒ってはいるが、全裸というのは、恥ずかしいのだろう。
腕や脚で隠すべきところは隠している。
小人達の生活を混乱させたのだ。悪行の報いで片付けても良いが、なんだか可哀想になってきた。
「エセル、何かないか」
「これならありますが」
タオルを渡される。
バスタオルのように全身を隠せる大きさではないが、腰に巻くことぐらいは出来そうだ。
「ほらっ」
俺はエルフ耳の女性に向かってタオルを投げる。
睨んではいるが、素直にタオルを拾い腰に巻き付けている。
「まだ続けるつもりか」
俺はファイティングポーズを取る。
これはハッタリだ。
『超人』の力が発動終了した俺は確実に太刀打ちできない。
マーカスは健在だが、エセル、シェリー、オリーヴ義姉さんの投石三人娘の肩や肘も疲れが出ているだろう。
エルフ耳の女性には幸い羞恥心があるようだ。
ここで退却してくれれば助かる。
「この屈辱、いつか晴らしてくれる!」
やった!帰るつもりらしい。
「予の名はソランジュ。覚えておけ!」
ソランジュと名乗ったエルフ耳の女性は呪文を唱えると姿が消える。
登場した時のように透明になっただけかもしれないので、念のために石を投げてみるが、空を切り、コツーンと音を立てて床に落ちる。
本当にいなくなったらしい。瞬間転移の魔法でも使ったのだろうか。
「助かった」
俺はその場に座り込む。
「リック様!」
エセルが俺に抱きついてくる。
オリーヴ義姉さんもシェリーもマーカスも小人達も俺の元へ駆け寄って来る。
この場を切り抜けられて良かった。
「みんな、ありがとう」
感謝しかない。
俺一人だけでは無理だった。皆が力を合わせたから切り抜ける事ができた。
「それにしても、こんなに大量の石、よくあったな」
投石三人娘が投げた石の数は数十個あった。
そこまでの数の石、ここには無かったはずだが。
「「それは「僕」と「私」のおかげだよぉ~♪」
小人のアーちゃんとシーちゃん踊りだす。
「主さん、これを見て」
シェリーが指差す場所、そこは床が抉られていた。
アーちゃんとシーちゃんが魔法を使って床の石材を砕き、投石用の石を作り出してくれたそうだ。
「ありがとう」
俺はアーちゃんとシーちゃんの頭を撫でる。
「「えへへ」」
二人とも嬉しそうだ。
「……なぜ女神様が……」
皆が喜ぶ中、唯一人、長老だけがブツブツと独り言を呟いている。
女神像の女性とソランジュはどちらも美女ではあるが、顔は違うので、別人であると俺は思っているし、長老もそれは分かるだろう。
長老が言いたいのは、女神と同族の人物がこのような行為をした事がショックなのだろう。
「人間だって良い人間と悪い人間がいるんだ。女神様達だって色々な人物がいても変ではないだろう」
俺は長老を慰める。慰めになっているのかは分からないが……。
「長老様。ソランジュが持っていた宝石は特別な力が有るのかな」
知りたがりのシェリーが質問してくる。
彼女の手には深緑の宝石がある。
裸になった時に落としたらしい。
目的の品を忘れてまで帰ってしまうとは、ソランジュは相当慌てていたらしい。
「おお!取り戻してくれたのか」
「落ちていただけだけどね」
シェリーは深緑の宝石を長老に渡す。
「これは女神様の力が込められた宝石じゃ」
宝石を大切に抱えながら長老は言う
「この地が混沌に満ちていたことは以前話したはずじゃ」
俺は頷く。
女神様が光の魔法で混沌を浄化した話は聞いた記憶がある。
「女神様は混沌を浄化したが、問題は残っておった。この地には混沌が湧き出て来る穴があったのじゃ」
「それは厄介だな」
「その通り、せっかく浄化しても再び出現しては意味がない。そこで女神様は穴を封印した。その宝石は封印を守っておるのじゃ」
「つまり、混沌とやらが穴から出てこないように蓋をして、その蓋が開けられないように鍵を掛けたと解釈して良いか」
俺の言葉に長老は「粗い例えじゃが、そう考えて良いじゃろう」と苦笑いする。
「長老様。もしかしてその穴はここにあるのかな」
シェリーの質問に長老は否定する。
「ここにはない。正直言うと我らもその穴がどこにあるのか分からない。遠くない場所にあるのは確かだと思うのだがのぉ」
穴の場所は分からないのか。どんな状況なのか確認したい気持ちはあるが。
ソランジュは知っているのだろうか。
知らない事を願うしかない。
「色々あったが、宝石が手元に残って良かったな」
「その通りじゃ。盗まれておったら封印が解かれていたかもしれん」
混沌がどんなモノかは分からないが、背筋が凍りつく事態になっていただろう。
さて、ソランジュという面倒な敵も去ったので、俺達は吸血ゲル駆除の仕上げに入る。
小人達の案内の元、俺達は次々と吸血ゲルを倒していく。
オリーヴ義姉さんは槍を失ったので戦力ダウンは否めないが、吸血ゲルは投石の一撃で倒す事が可能であり、コントロールが良いエセルは次々と吸血ゲルを倒していった。
また、女王ゲルがいなくなった影響は大きいらしく、俺達が最初に大群と遭遇して苦戦した部屋でもあの時とは比べられないほど吸血ゲルは混乱しており、俺達は難なく倒す事が出来た。
「「クロクロテカテカいなくなったよぉ」」
アーちゃんとシーちゃんが終息宣言を出す。
それを聞いて小人達が大喜びしている。
ようやく終わったか。
「世話になったのぉ」
長老が俺達に頭を下げる。
「お礼と言ってはなんじゃが、お主らにこれをあげよう」
長老の傍に控えていた小人がお盆を持ってやって来る。
お猪口サイズのコップが6個あり、その中に透明な液体が入っている。
「女神様のご加護が込められている神聖な水じゃ。ご利益が有るはずじゃ」
一人一杯ずつか。
「有難く頂こう」
俺、オリーヴ義姉さん、ティム君、エセル、シェリー、マーカスの六人は夫々水を飲む。
なんだか力が湧いてくる!…………そんな気がする。
「ところで、これからどうするんだ」
俺は気がかりな事がある。
今回はソランジュを撃退できたが、彼女は狙っていた深緑の宝石を奪いに再び襲撃するはずだ。
こちらだって準備は整えるが、それは相手だって同じだろう。
次は宝石を守り切れるのだろうか。
「大丈夫だ。心配するでない」
俺の心配とは裏腹に長老は明るい。
「昔から悪しき存在によって宝石が狙われる危険がある事は想定しておった。その時が今来ただけなのじゃ。同朋は各地にいる。ここを捨て我らは同朋の元へ身を寄せる」
引越するという意味か。
長老は辺りを見渡す。その表情はどことなく寂しそうだ。
長年住み慣れた場所を離れる。その事に様々な感情が入り混じっているのだろう。
「しばらくの間、我らと会う事は出来ないじゃろう。だが、いつの日か再会できた時、我らはお主らを盟友として厚くもてなす事を約束しよう」
そう言って長老は右手を差し出す。
俺も右手を差し出し、長老の小さな手と握手を交す。
いつか小人達と笑顔で再会できる日が来ますように。
俺は切に願ったのであった。
読んで頂いてありがとうございます。
ソフトバンク、3年ぶりのリーグ優勝おめでとうございます!
……私はファンではないですが。
次回の更新は11月5日(木)を目指し執筆中です。
間に合わなかったらごめんなさい。
これからも頑張りますので、よろしくお願いします。




