第50話 強敵
前回までのあらすじ
突如現れた白いローブの人物。
どうやら今回の騒動の黒幕らしい。
強そうだが、リックは覚悟を決めて戦う事になった。
全速力で駆け出した俺は手に力を込めてパンチする。
「くらえ!」
しかし、白いローブの人物は軽やかに避け、パンチは空振りする。
「これは、予を楽しませてくれそうだな」
腹が立つくらい上から目線だ。
「これならどうだ」
俺はパンチとキックを連続して繰り出す。
「速くて見えません」
エセルの声が聞こえる。
彼女の言う通り『超人』の力を使った俺の攻撃はとても速い。
普通の人相手なら、目で追えず避けるどころか防御する事も出来ないだろう。
しかし、普通の人ではない白いローブの人物は、俺の攻撃を全て避ける。
全く当たらない。
くそっ
俺は内心悪態をつく。
攻撃が当たらない原因は分かる。
出鱈目に手足を振り回しているだけだからだ。
前世でも今世でも俺は体術を習った事がない。
技術がないのだ。
『超人』の力で力押しが出来るかと思っていたが、白いローブの人物には通用しない。
世の中、甘くない。
こんな事になるなら、体術を習っておくべきだった。
後悔するが、もう遅い。
何とか頑張るしかない。
奇跡的に当たる事を期待するしかないのか……。
ヒュン
そんな時、風を裂く音と例えるには大げさではあるが、何かが飛んでくる音が聞こえ、白いローブの人物に命中する。
それは石。
丸い形をした単なる石ころ。
投げたのはエセル。
彼女は顔を紅潮させ、大魔神を想像させるかの如く仁王立ちしている。
「リック様、加勢します!」
右手に石を持った彼女は、左足を大きく挙げると、その足を自身の前方に勢いをつけて降ろす。
着地した左足は勢いに抗って踏ん張り、それによって溜められた力を利用して右腕を振り、石を投げる。
そう。その投げ方は野球の投手そのものだ。
投手は下半身が基本と言われているが、山道でも苦労せず歩け、俺を背負っても歩けるエセルの足腰は、相当鍛えられているのだろう。
彼女が投じた石は直線に近い軌道を描きながら飛んでいき、またもや白いローブの人物に命中する。
凄いぞエセル。
石を命中させた事も凄いが、なにより投球フォームが綺麗だ。
この世界には野球はない。当然、投げ方を教えるコーチもいない。そんな中、我流でこの投げ方を会得したエセルは野球の天才と言っても過言ではない。
もしも、この世界に野球があれば、歴史に名を遺す名投手になっていたかもしれない。
「小癪な!」
ただ、石をぶつけられた張本人、白いローブは怒っている。
当然だろう。
投石と聞くと原始的な印象が強いが、石が固い事は誰もが知っている事実だ。石を投げれば窓ガラスを割る事も出来るし、車を凹ませることも出来る。やってはいけないが。
戦国時代では、農民の主力の武器は投石だったそうで、戦場での死傷者も刀より投石の方が多かったらしい。
それだけ投石の攻撃力は高い。
はっきり言って、白いローブの人物には、長老の『荷造り』の魔法よりも投石による命中の方が効果有ると思う。
しかし、加勢してくれるエセルの気持ちは嬉しいが、このままだと奴の怒りを買い、長老みたいに火球を投げられてしまう。
俺は危惧する。
だが、白いローブの人物はエセルに構わないでいる。
どういうことだ?
俺は疑問に思いながらパンチをするが、それは避けられる。
「あっ!」
シェリーが何かに気が付いたようだ。
「うちも加勢するよ」
彼女も石を投げだす。
エセルと比べると山なりで遅いが、それでも白いローブの人物に当たる。
「私も」
槍が無くなったオリーヴ義姉さんも続いて投げる。
しかし、槍と石では勝手が違うのか、エセルよりもスピードは速いが白いローブの人物には命中しない。
エセルと比べると粗削りな投げ方だ。上半身だけで投げている。下半身を上手く使わないと。
前世では野球観戦が趣味だった俺は、そんな分析をしつつも白いローブの人物にパンチを繰り出すが、またもや避けられる。
くそっ!何で当たらない。
エセル達の投石は避けようともしないのに、俺の攻撃だけ避けていく。
俺の攻撃だけ………そうか!
ようやく俺も分かった。
白いローブの人物は石を避けないのではない、避ける事が出来ないのだ。
通常であれば投石を避ける事は容易なのだろうが、避ける時に隙が生じてしまう。
そこに『超人』の力で攻撃力が激増している俺のパンチを受けてしまえば、大ダメージを受けてしまう。
余裕綽々かと思ったが、白いローブの人物も俺の攻撃を避ける事で手一杯らしい。
考えてみれば攻撃を仕掛けてきていないしな。
希望が湧いてくる。
ただ、俺達側も決め手を欠いている事には違いない。
投石は着実に白いローブの人物にダメージを与えているが、規模は小さい。
RPG風に例えるなら、HP9999のボスに毎回10程度のダメージを与えている状態だろう。
これだと倒すのに1000回の攻撃が必要になるし、万が一回復魔法なんかを使われれば、振り出しに戻ってしまう。
現実的に考えて、エセル、シェリー、オリーヴ義姉さんの投石三人娘が、石をそれだけの数投げ切れるかも疑問だ。
野球だって最近は100球程度投げたら交代しようという機運が強まっている。
専門的な練習もせず、成り行きで実戦登板になってしまった彼女達はそこまで投げ切れる体力が有るか不明だし、肘や肩を痛める危険だってある。
それに俺の『超人』の力の残り時間も長くは無いだろう。
『超人』の力の効果が切れると、俺の攻撃は牽制にもならない。
瞬時に投石三人娘が制圧されてしまうだろう。
だからこそ、早く白いローブの人物を何とかしないといけない。
俺はキックをする。
またもや避けられる。
そこに石が3個飛んできて白いローブの人物に命中する。
あれっ?
3個の石とは違う風を切る音が聞こえる。
白いローブの人物が慌ててしゃがむ。
その上を剣が通過していく。
「惜しかったですな」
マーカスだ。
彼は白いローブの人物の背後に回り込み、隙を伺っていたのだ。
「生意気な!」
白いローブの人物は怒り心頭だ。
だが、この好機を逃すわけにはいかない。
しゃがんで体制を崩した白いローブの人物に俺は左足でキックをする。
白いローブの人物はそれを辛うじて避ける。
奴から見て背後にはマーカスがいるし、右側からは俺のキック。
左側、俺から見て右側に避けたのは自然な流れだ。
予想通り。
そこへ俺は右手でパンチをする。
しかし、それすらも僅かな距離で躱される。
ここで諦めてはいけない。
俺は右手を伸ばして、何とかローブを掴む事に成功する。
「しまった!」
「やああああああああ!」
俺は力いっぱいローブを引っ張る。
そのまま床に投げ転がそうと思ったが、俺はある事を忘れていた。
『超人』に力は、力つまりパワーも強くなっている。
無理やり引っ張られたローブは、そのまま引き千切られる。
ローブはフードと一体型らしい、引き千切られたローブはフード共々床に落ちる。
それと同時に俺は全身に脱力を感じる。
『超人』の力の発動が終了したのだ。
時間切れか。
「隙ありですぞ」
しかし、まだマーカスが残っている。
彼が剣で斬りかかる。
白いローブを着ていた人物は紙一重の差で斬撃を躱すが、身体は避けられて着ているものまでは避けられなかった。
白いローブ下に着ている衣服、下着までもが上から下へ向かって一直線に切られる。
はらりと全ての衣類が落ちる。
ある意味神業だ。
そこには、素っ裸になった女性が立っている。
白いローブの人物の中身は女だった。
美しい。
彼女を表現するなら、その一言で十分だ。
長い手足に細い腰、スレンダーで綺麗なスタイル。
整い過ぎている顔。
ただ、俺達はその美しさ以上に印象的な存在があった。
「め、め、女神様!なぜここに!」
小人の長老が泡を吹いている。
「長老、違うと思うぞ。あれとは顔が違う」
俺は違いを指摘するが、長老が驚くのも無理はない。
彼女の耳は長く尖っている。
日本ではエルフ耳と呼ばれる耳。
そう。白いローブの人物の中身は、洞窟神殿の女神像と同じ姿をしていたのであった。
今回も読んで頂いてありがとうございます。
次回の更新は28日水曜日を予定しておりますが、作者のプライベートが忙しく、一~二日程度更新が遅れるかもしれません。いずれにせよ、来週中には更新します。
これからも頑張りますので応援よろしくお願いします。




