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第46話 女神と小人

前回のあらすじ

 小人の長老に体を治してもらったリック。

 彼は小人達と一緒にクロクロテカテカこと吸血ゲル退治を提案し、長老も了承する。

 作戦も出来上がり、実行する前、リック達は疲れを癒すために休息をとったのであった。

 

 睡眠(すいみん)というのは人が生きていく上で必要な行為(こうい)である。

 日本では、猫型ロボットの漫画に出て来る男の子みたいに「眠る=怠け者」とか、働けば働くほど生活が豊かになった高度経済成長期の成功体験の呪縛(じゅばく)(とら)われ、寝る間を惜しんで働く事が美徳とするブラック企業が多かったりする等、睡眠を軽く見ている国だと、前世、俺は強く感じていた。

 だが、睡眠はただ体を休ませるだけではない。

 人は寝ている時に成長ホルモンを分泌(ぶんぴつ)させる。

 成長ホルモンは名前の通り身体の成長に影響するのだが、脳を含む損傷した細胞の修復にも影響している。

 睡眠不足になると頭がボーとして注意(ちゅうい)散漫(さんまん)になるが、それは脳の細胞の修復が不十分だからだ。

 細胞の修復が不十分だと、記憶力の低下、ストレスの増加、免疫力の低下等々、健康に悪影響を(およ)ぼす。

 しっかり眠る。これは人間が明るく、楽しく、健康に生きるための行為なのだ。


 さて、小人達の好意によって睡眠を取らせてもらった俺達は心身ともに元気になった。

 小人達の捜索(そうさく)の結果、俺たち以外にこの地下空間に迷い込んだ人はいなかったそうだ。

 おそらく、ピーター父さん達は、スイッチを起動させてしまったあの時、巻き込まれないで地下神殿に残れたのだろう。

 俺達がここに来てから長い時間が経過しているので、今頃、慌てふためいているかもしれないが、もうしばらく辛抱(しんぼう)して貰おう。

 これで心置きなく吸血ゲル退治が出来る。

 通称『クロクロテカテカ駆除作戦!』の参加者は俺、マーカス、オリーヴ義姉さん、シェリー、エセル、小人の長老、アーちゃんとシーちゃん、合計8人だ。

 赤ちゃんのティム君は残った小人達に面倒を見てもらっている。

 母親であるオリーヴ義姉さんは心配していたが、ティム君は小人達に(なつ)いていたので大丈夫だろう。

 道案内は小人達。

 吸血ゲルに侵略(しんりゃく)されたとはいえ、勝手知ったる自分の家。迷うことなく目的地へ向かって順調に進んでいる。

「はぁ」

 俺の耳元で小人の長老がため息を()く音が聞こえる。

 アーちゃんとシーちゃんは自分で歩いているが、長老は疲れるからと言って俺の肩に乗っている。

「ため息なんか吐いて、どうしたんだ」

「女神様からお預かりしたこの地をこんな目にしてしまった。なんとお詫びすれば良いのか」

「女神様って、耳が長く尖っている女性の像か」

 俺は洞窟神殿にあった女神像を思い出す。 

「そうじゃ。あそこにある像は女神様を(あが)めるために造られた像じゃ。かつてこの地は混沌(こんとん)に満ちておった」

 混沌に満ちた地か。

 山に囲まれ平地が少ない僻地(へきち)であるウォーカー男爵領は、豊かなではないが、長閑(のどか)な土地だ。

「この(あたり)は混沌とは無縁(むえん)に見えるけどな」

「それは女神様のおかげじゃ。女神様は光の魔法を使い、混沌に満ちたこの地を浄化した。荒れ果てた大地は、草木が茂る平和な大地に生まれ変わった。その光景は神々(こうごう)しく美しかった」

「まるで直接見たような言い方だな。長老は女神様に会ったのか」

 長老は首を横に振る。

「さすがにそれはない。女神さまに会ったのは(じい)様じゃ」

 爺様という言葉を素直に受け止めれば親の親、先々代(せんせんだい)だ。意外に近い時代だな。女神様から託されたと聞くと千年前以上昔のイメージが有るのだが。

 それとも小人達が長命なのだろうか。

「なあ、ウォーカー男爵家っていつ頃からこの辺の領主になったのか誰か知っているか」

 俺は周りに聞いてみる。

 先祖が開拓して、この地を領地にした話は聞いたことがある。ただ、いつ頃なのか、俺は知らない。

「100年前だったかな」

 物知りなシェリーが教えてくれる。よく人の家の歴史を知っているな。

 百年前だと俺の高祖父(こうそふ)かその親辺りの世代か。

 近くもないが遠くもない。

 ウォーカー男爵家で生まれた子供を女神像前に連れてきて、祈りを捧げる儀式が代々行われてきたという事は、俺の御先祖様である当主も何らかの形で女神様ご本人に関わったのかもしれない。

 ただ、俺はそんな話は一切聞いたことが無い。

 ピーター父さんなら何か知っているのだろうか。一子相伝(いっしそうでん)であれば嫡男(ちゃくなん)であるポール兄さんは何か聞いているのかもしれない。

「それで女神様はどうなったのかな」

 いつの間にかシェリーが俺の隣にいた。

 女神様の事に興味津々(きょうみしんしん)の様子。知識欲が旺盛だ。

「女神様はこの地の平和を我らに託された。そして旅立たれた」

「その後、女神様はどこへ行ったのかな」

 シェリーの質問に長老は「知らんのぉ」と答えたのであった。



「この先が、みんなが住んでいた場所だよぉ」

 シーちゃんが説明する先に有るのはただの壁。

 これは隠し扉だ。ここに来るまでも何回か隠し通路を通っている。

 アーちゃんが壁に触れて何やら呟くと、扉が出現する。

「開けますぞ」

 扉を開けるのはマーカスの役目。

 何かが出てくるかもしれないので、剣を構えながら扉を開ける。

 開いた先は、部屋になっている。

 これまでは石造りの無機質な空間だったが、この部屋にはドールハウスみたいな家がある。

 窓から中をのぞくとベッドがあったり、椅子や机があったり、小さな家具が置かれている。

「ここはムーちゃんのお家だよぉ」

 シーちゃんが教えてくれる。ムーちゃんが誰なのかよく分からないが、ここに来て初めて生活感を感じる。

 それからしばらくの間、俺達は小人達の家を通って行った。

 都市みたいに家が密集しているのではなく、北海道の大平原のように広い空間にポツンと一軒家がある光景が続く、どうやら小人一人当たり一部屋所有しているらしい。

 中には家の前にモヤシみたいな植物や(こけ)を育てている家もあった。

 ただ、進めば進むほど、小人達の家は荒らされていた。

「クロクロテカテカに壊されちゃった」

 アーちゃんが寂しそうに言う。

 粉々に破壊された家の前を通り過ぎた時、シェリーが立ち止まり、鼻をクンクンとする。

「嫌な臭いがしないかな」

 言われてみれば、(かす)かに生ゴミのような臭いがする。

「ティムを置いてきて正解だったわね」

 何かを察したのか、綺麗な顔をしかめるオリーヴ義姉さん。

「リック様、これを使われますか」

 エセルがハンカチを渡してくれる。

「ありがとう」

 手で押さえていると、いざという時に対応できないので、頭の後ろで縛って口と鼻を(おお)う。

 まるで西部劇に登場する強盗みたいだ。

 俺達は再び進みだすが、前へ進めば進むほど悪臭はどんどん(ひど)くなる。

 ハンカチで鼻や口を隠していても耐え難い臭いだ。

「覚悟を決めて下され」

 先頭を歩いているマーカスが突然、そんな事を言い出す。

 何事かと思うが、実際に見て、彼の言葉に意味を理解する。

 ネズミ

 モグラ

 小動物の死骸(しがい)が大量に積まれている。

 悪臭の原因はこれか。

「きっと、この辺に住んでいたネズミやモグラだよぉ」

 俺は注意しながら死骸を観察する。

 咬まれた傷口がある。

 それは俺の左手の傷口と同じ、つまり吸血ゲルに咬まれたのだろう。

 偶然にも吸血ゲルがやってくる。

 いつも集団行動をしているのに、今回は珍しく一匹での行動だ。

 口にはネズミを(くわ)えている。全く動いていないから死んでいるのだろう。

 他の吸血ゲルよりも一回り大きい気がする。

 まさか女王ゲル?

「女王ゲルはもっと大きいよ」

 シェリーが俺の考えを否定する。

 俺とシェリーがそんなやり取りをしている間にオリーヴ義姉さんが槍で吸血ゲルを突き刺す。

 吸血ゲルは一突きで絶命するが、傷口から大量の血が噴き出る。

 間合いを取って攻撃していたのでオリーヴ義姉さんが血で汚れる事は無かったが、今までとは違う。

「エセルは似たような経験したことがあります」

「それは奇遇だな。俺もある」

 蚊に刺された直後に叩き潰すと血が出てくる時がある。

 あれは蚊の血液ではなくて人間の血液だ。

 蚊は小さいので分かりにくいが、血を吸った直後は腹が(ふく)れている。

 この吸血ゲルもネズミの血を吸った直後で、血で膨張(ぼうちょう)していたのだろう。

 ちなみに蚊の血液は赤くなく、透明な色をしているそうだ。前世で得た知識によると人間の血液には赤い色素を持つヘモグロビンがいるが、蚊にはヘモグロビンがいないのがその理由らしい。

「吸血ゲルは血を吸った獲物を集める習性があるんだね」

 シェリーが感心している。どうやら彼女が知らなかった事らしい。

「シェリー殿の言う通りなら、あれも獲物ですかな」

 マーカスが指差す先、そこには(いのしし)の死骸が置かれている。

 調べてみると吸血ゲルに咬まれた跡がある。

 数十倍の大きさと強い力を持つ猪ですら倒せる力があるのか。

「あの時、助かって良かったな」

 吸血ゲルに囲まれたあの時、運が悪ければ俺達もここに置かれていたかもしれない。

 そう思うとぞっとする。

「猪を狩っていたという事は、地上にも出ているという事ですな」

 マーカスの言葉に俺はハッとする。

 ネズミやモグラはこの地下空間内にいたから襲われたのかもしれないが、猪はここにいたとは思えない。見れば猪の他にもタヌキやリスの死骸もある。

 想像以上に吸血ゲルの行動範囲が広い。

 これは早く駆除しないと大変なことになる。

 俺達は先を急ぐ。

 

「この先だよぉ」

 アーちゃんが教えてくれる。

 折れ曲がった通路、その先が目的の場所の様だ。

「皆、準備は良いか」

 マーカスは剣、オリーヴ義姉さんは槍を構える。

 エセル、シェリー、長老、アーちゃん、シーちゃんもそれぞれ打ち合わせた通りの準備を行う。

 もちろん俺も準備は出来ている。

 大丈夫だな。

「行くぞ!」

 突入する。

 俺達の目的地、それは女王ゲルがいる場所だ。

 そこは広い空間だった。

 そして大量の働きゲルと共に女王ゲルがいる。


『クロクロテカテカ駆除作戦!』

 

 俺達と吸血ゲルとの戦いの幕が切って落とされたのであった。


読んで頂いてありがとうございます。

最近は涼しくなりましたね。夏の暑さがウソのようです。

これからも頑張りますので、よろしくお願いします。

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