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第45話 小人の長老

 小人のアーちゃんとシーちゃんに連れられて、長い階段を降りる。

「「ここだよぉ」」

 ようやく下に着く。

 そこにはテニスコート一面分の広さがある空間があった。

 ちなみに畳で換算すると約80畳の広さになる。大規模な温泉旅館の宴会場と比べると小さい。

 ここには大勢の小人がいて、突然の来訪者である俺達を遠巻きにしてみている。

「何事じゃ」

 小人達の中から、長い(ひげ)(たくわ)えた小人が現れる。

「長老様。人間です」

 アーちゃんが俺達を紹介する。

「お前さん達はこんな時に厄介事を持ち込みしおって」  

 どうやら俺達は歓迎されていない様子だ。

「それにしてもどうやって、ここまで来たのじゃ」

 俺達は地下神殿に入ってからの経緯を説明する。

「……なるほど。どうやら秘密のスイッチを押してしまったようじゃな」

 俺の予想した通り、洞窟神殿に女神像の頭部に地下空間へ行くためのスイッチがあったらしい。

 水差しが像の頭部を直撃した時にスイッチに当たり地下空間へ行く装置が作動したようだ。

「あのぉ、長老様。この怖い顔のお兄さん、顔色が悪いのぉ」

 怖い顔は余計だ、シーちゃん。

 長老は「ふぅむ」と言いながら俺を眺める。

「クロクロテカテカの毒にでもやられたようじゃの。これでも飲んでおけ」

 そう言って長老は、丸薬を取り出して俺の口の中に投げ込む。

 形といい、匂いといい、ラッパのマークで有名なあの丸薬に似ている。

「痛くない!」

 飲み込んでから(わず)か数秒。俺を苦しめていた痛みが急速に治まり元気になる。  

「リック様、良かったです!」

 エセルが抱き着いてくる。

 オリーヴ義姉さんもシェリーもマーカスも喜んでいる。

「みんな、ありがとう」

 足手まといの俺を見捨てず、ここまで連れてきてくれた事に感謝の念しかない。  

 特にエセルは長い間、俺を背負っていて大変だっただろう。

 本当にありがとう。

「治ったなら早く出て行ってくれ。こっちは大変なのじゃ。まったく」

 相変わらず長老は冷たい。

 ただ、俺の痛みを治してくれたのも長老だ。

「何かお礼がしたい。俺達が出来る事はないか」

「ふん。そんなものなど………」

「長老様ぁ」

 長老の言葉を(さえぎ)ってアーちゃんが喋りだす。

「このおじいさん、クロクロテカテカを一撃で倒したんだよぉ」

 その言葉に遠巻きに見ていた小人達がざわめく。

「クロクロテカテカを倒したじゃと」

 長老ですら驚きの表情を見せている。

 そういえば、吸血ゲルへ反撃して蹴散(けち)らされたと言っていたな。

 その対応に苦慮(くりょ)しているのだろう。

「長老。俺達も吸血ゲルの退治に協力させてもらえないか」

 これは小人達への恩返しの意図もあるが、俺達にとっても必要な事だ。

 あんな凶悪な生物が領内にやってきたら大変な事になる。

 そうなる前に駆逐する必要がある。

 幸い、俺達には、オリーヴ義姉さんとマーカスという猛者、吸血ゲルの生態を知っているシェリーがいる。

 俺の『超人』の力も温存されている。

 最初の遭遇では不意打ちに近い形で苦戦したが、準備をしっかり行えば倒せるだろう。

 ただ、戦闘では申し分ない力を有するが、ランタンの油は尽きて光源は失われているし、土地勘も無い。俺達だけで吸血ゲルを倒す事は無理だ。

 だから俺達だけではなく、協力という形で提案してみた。

 お互い不足している部分を補完できる。

 お互いの為に良い提案だと思う。

「むむむむむ」

 長老は難しい顔をして考え込んでいる。

 たぶんこの人、マーカスよりも年上だと思うが、仕草の一つ一つが可愛らしい。

 アーちゃんもシーちゃんも可愛らしいので小人の特性なのかもしれない。

 オリーヴ義姉さんなんか長老を()でたくて、うずうずしている。

「分かった。その話、受けよう」

 良かった。交渉成立だ。

「その決断は有難(ありがた)い。お互い力を合わせ、この地に平和を取り戻そう」

 俺は長老の小さな手と握手をする。

 こうして俺達は小人達と一緒にクロクロテカテカこと吸血ゲルを倒すことになった。

 

 (かれ)()(おのれ)()れば百戦(ひゃくせん)(あやう)からず。


 紀元前の中国の春秋時代に孫武(そんぶ)が書いた兵法書『孫子』にある格言だ。

 孫子の兵法は有名なので、聞いたことがある人も多いのではないだろうか。

 戦う時は勢いに任せるのではなく、敵の事をよく知る、自分の実力を冷静に把握する、その上で戦えば大丈、要するに戦う前に情報はしっかり集めておけよという意味であると俺は解釈している。

 そういう訳で、俺は小人達と情報交換をする。

 

 まず敵、(すなわ)ち吸血ゲルについてだ。

 女王ゲルと働きゲルがいる事。

 生き物の血を栄養にしている事。

 火を嫌う事。

 本来は熱帯に住んでいる事。

 等々、シェリーが持っている知識、俺達が戦いで得た経験を全て話す。

 これに対し、小人達は女王ゲルと思われる一際(ひときわ)大きな吸血ゲルがいる場所を教えてくれる。

 そこは小人達が住居として使っていた地域の一角だそうだ。また、女王ゲルの傍には大量の働きゲルがいる事も分かる。どうやら護衛らしい。

 

 続いて、俺達の実力だ。

 オリーヴ義姉さんとマーカスの実力は、小人のアーちゃんとシーちゃんがしっかり見ているので説明は簡単だった。

 俺の『超人』の力は隠すか迷ったが、戦力の出し()しみをしている場合ではないと判断し、説明する。ただし、使うと寿命を一日消費する事は話さなかった。これはエセル達を心配させないためでもある。

 一方の小人達は使える魔法などを教える。

 様々な魔法を使う事が出来るのだが、中心となるのは石を食べたり、周囲を明るくしたりする生活補助の色合いが濃い魔法が得意で、攻撃が出来る魔法は一切使えないそうだ。

 だから吸血ゲルの侵攻を防げなかったのか。

 そうなると、主戦力が俺達、サポート役が小人達という体制で戦闘を行う事になる。

 そんな事をしながら、俺達は作戦を練っていく。


「よし!完成だ!!」

 ようやく、吸血ゲルを倒す作戦が完成する。

 その名も『クロクロテカテカ駆除作戦!』……そのままなネーミングだな。

 準備も整っているし、あとは実行するのみだ。

「疲れているようじゃから、休んでからにしたらどうじゃ」

 長老が提案してくれる。

「「そうだよぉ。その方が良いよぉ」」

 アーちゃんもシーちゃんも同意している。

 たしかに俺達は長時間緊張を強いられてきた。

 マーカスは元気満々だが年齢的に心配がある。オリーヴ義姉さんの顔には疲れの色が少し見える。エセルやシェリーはとても疲れている。

 これは休んだ方が良いな。

「その提案、喜んで受けさせてもらう。ただ、一つ気になる事がある」

「なんじゃ?」

 俺が気になる事。それはこの地下空間に、俺達以外に迷い込んでしまった人がいるかもしれない事だ。

 もし、俺達以外にも迷い込んでいる人がいたら今頃大変な事になっているだろう。一刻も早い救助が必要だ。

「分かった。それは我々の方で探してやろう。お前さん達」

「「分かったよぉ」」

 長老の言葉にアーちゃんとシーちゃん他数名の小人達が立ち上がる。

 どうやら彼らが(さが)してくれるらしい。

「吸血ゲルがいて危ない中、すまない」

 俺は小人達に感謝する。

「大丈夫だよぉ。行ってきます」

 小人達は捜索(そうさく)に向かった。

「これで安心じゃろ。ゆっくり休むといい」

 最初にあった時は冷たく感じた長老だが、こうして接すると優しい人だな。

 俺達は小人の好意に甘え、しばしの休息をとったのであった。



読んで頂いてありがとうございます。

これからもよろしくお願いします。

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