第44話 暗闇の中での再会
「きゃあ!かわいい!!!」
小人達を見て、オリーヴ義姉さんは喜ぶ。
全然驚いていない。
人型とはいえども相手は未知なる生き物小人。
俺だって初めて見た時は驚いたのだが……。
こういう姿を見るとオリーヴ義姉さんは肝が据わっている人だと感じる。
「リック様と一緒におりましたから、免疫が出来たのだと思います」
エセルの呟きは聞き流す。
何で俺と一緒にいると免疫が出来るんだ。
まるで俺が未知なる生物を呼び寄せているみたいじゃないか。
「お姉さん誰?」
女の子の小人が聞いてくる。
「うふふ。私はオリーヴよ」
「うちはシェリーだよ」
「エセルです」
いつの間にかシェリーとエセルまで加わっている。
女性はかわいいものが好きらしい。
自己紹介された小人達は踊りを始める。
あぁ、例のあれを歌うんだな。
「~♪~僕の名前はアーちゃん。私の名前はシーちゃん。二人仲良し小人だよ。いつも楽しく暮らしているよ~♪~」
どことなく似ている、某発動機メーカーが提供していたテレビの天気予報番組に流れていた曲。
まさか転生先でも聞けるとは思わなかった。
この前も歌っていたし、自己紹介する時はいつも歌わないと気が済まないのだろうか。
そして、アーちゃんとシーちゃんはなぜ、あの歌を知っているのだろうか………。
「素敵な名前ね」
笑顔で小人達の頭を撫でるオリーヴ義姉さん。
歌の謎は俺しか分からないから、皆は楽しい歌と踊りという認識になっている。
ちなみに男の子の小人がアーちゃん、女の子の小人がシーちゃんだ。
女性陣と小人達は、既に打ち解けている。
「ところでシーちゃん。あの人、見覚えない?」
「そうだよねぇ、アーちゃん。あの怖い顔を見た事あるよ」
俺を指差す小人達。怖い顔は余計だ。
「俺はリックだ。以前、揚げパンとリンゴをあげたのを覚えているか」
「「あの時の人だぁ」」
声がハモる小人達。
「美味しかったよぉ」
「ありがとう」
思い出してくれたらしい。
「ねえねえリック、顔色悪くない」
「そうだよねぇ。苦しそうだよねぇ」
俺の異変に気が付く小人達。よく分かったな。そんなに顔色が悪くなっているのだろうか。
「全身が痛くて体を動かせないんだ」
説明するとシーちゃんがトコトコと俺の元へ歩いてきて、小さな手で俺の体を触る。
くすぐったい。
「アーちゃん。お薬飲めば治りそうだよぉ」
希望が出る言葉が出て来たぞ。
「だけど今は持ってないよぉ」
希望は一瞬にして潰えた。
「ねえ、アーちゃん。お薬はどうしたら手に入るのかしら」
オリーヴ義姉さんが近くにいるアーちゃんに聞いてくれる。
「長老様だったら持っていると思うよぉ」
新しい名前が出たな。他にも小人がいるのか。
「長老様を紹介してもらえないかしら」
「良いよぉ。付いて来て」
簡単に交渉成立。
こうして、俺達は小人達に付いて行く事になった。
小人達は光を作り出す魔法が使えるらしい。
その明るさは例えるならLEDライト並みだ。
これまではランタン1個では薄暗かった通路も、昼間のように明るく見える。
「魔法って凄いね」
ランタン持ちから解放されティム君の抱っこに専念しているシェリーが興味津々の様子だ。
「そうかなぁ。いつも使っているから分からない」
対する小人達は当たり前に使っているので、そのような実感はないらしい。
「アーちゃんもシーちゃんも何でこんな所にいるのですか」
俺を背負いながらエセルが質問する。
それは俺も疑問に感じていた。
「ここは、みんなの家だよぉ。アーちゃんもシーちゃんも長老様も皆、ここに住んでいるよぉ」
何と!ここは小人達の家だったのか。
「もしかして、音が響かないのも、家だからなのか」
「そうだよぉ。うるさいと眠られないもん」
「昔、みんなで音を吸収する魔法を掛けたんだぁ」
なるほど。これで疑問は一つ解けた。
「ただ、家の割には生活感が無いな」
探索してきた中で、吸血ゲルを除けば、生き物が生活している痕跡が一切なかった。
「この辺は誰も住んでいない場所だからだよぉ。それにねぇ……」
アーちゃんが話している最中だった。
突如、前方から吸血ゲルが現れ、襲い掛かって来る。
スパァァァァァァァァァァァァ
いつもの如く、マーカスが吸血ゲルの集団を真っ二つに斬る。
「「おじいさん凄い!!」」
「これくらいの事、このマーカスには朝飯前ですぞ」
アーちゃんとシーちゃんから称賛されて、マーカスは得意げになっている。
「クロクロテカテカを簡単に倒したね」
クロクロテカテカ………どうやら吸血ゲルの事を言っているらしい。
「ねえ、あれってクロクロテカテカという名前なのかな」
吸血ゲルに詳しいシェリーが小人達に質問する。
「分かんなぁい」
アーちゃんからの回答。
「黒くてテカテカ光っているから、クロクロテカテカって呼んでいるよぉ」
ゴキブリみたいに脂ぎった黒い光沢が有るからな。それがその呼び名の由来だろう。
「クロクロテカテカが住み着いたから、皆、逃げて来たんだぁ」
「お家を追い出されて、みんなが困っているの」
小人達の説明によると、吸血ゲルが住み着いたのは最近らしい。少なくても俺が前に出会い、石を食べる事が出来る魔法を貰った時にはいなかった。
二人の話を聞くと、平和に過ごしていたある日突然吸血ゲルが出現し、小人達の住処を暴れまわったそうだ。
まるで、日本の怪獣映画のようだ。
小人達はパニックになりながら逃げ出す。
反撃も試みたが、逆に吸血ゲルに蹴散らされてしまった。
この辺も怪獣映画の序盤の展開に似ている。
そして現在、小人達は地下神殿のより奥深くで身を寄せ合って隠れているらしい。
アーちゃんとシーちゃんは、吸血ゲルの様子を偵察する為に出てきていて、偶然ティム君の泣き声が聞こえたので、見に来たのだそうだ。
「こっちだよぉ」
シーちゃんに指示されて丁字路を右に曲がる。
「あれっ?こっちは行き止まりではなかったか」
さっき俺達が行った場所だ。あそこは袋小路になっていた筈。
「ちょっと待ってねぇ」
シーちゃんが呪文を唱えると突き当りの壁が消え、下り階段が現れる。
「この先に皆がいるよぉ」
さらに降りるのか。
どんどん地上から離れていく。
俺達は小人達と一緒に、階段を降りていくのであった。
読んで頂いてありがとうございます。
次回ですが、9月24日木曜日に更新します。
これからもお付き合いのほど、お願いします。




