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第38話 暗闇

 メラビアンの法則を知っているだろうか。

 人が他人に話を聞く時、見た目やしぐさ等の視覚情報が55%、声の質や口調等の聴覚情報が38%、言葉そのものの内容である言語情報が7%の比率で判断をすると言われている法則で、要するに人は見た目がとても大切ですと言いたい法則である。

 アメリカの心理学者アルバート・メラビアンが行った実験に基づいてはいるが、実験よりも誇張(こちょう)されて出来上がった法則とも言われている。ただ、調べる前に俺は転生してしまったので詳しい事は分からない。

 しかしながら、日頃生活していく上で、視覚、目に入る情報はとても大切である事は間違いないだろう。

 だからこそ人間の文明で文字や絵が生まれたのだと俺は考える。

 では、その大切である目に入る情報が突然無くなってしまったらどうなるだろう。

 答えは簡単だ。

 とても不安になる。

 そして、今、俺はそんな状況に置かれている。

 突然、(した)()がっていった洞窟神殿の床。

 明かりを持った者達と離れ、光が届かない暗闇の中に俺はいた。

 俺は取り敢えず手を伸ばす。

 すると手に固い感触が伝わる。

 少しザラザラしているが(たい)らで広い。

 おそらく壁だ。

 俺は手で壁を触りながら前へ進んでみる。

 しばらくすると、手が空を切る。

 壁が無くなっている。

 俺は慎重に手を周囲に伸ばしてみる。

 どうやら、二方向に分かれる分岐点(ぶんきてん)らしい。

 どうするか。

 このまま、どちらかに進むか、それとも止まって救助を待つか。

 明かりが無いのがきつい。

 暗闇の中、得体のしれない洞窟の中を進む事は危険だ。

 山で遭難した時は下手に動かない方が良いと言われている。

 ここは救助を待とう。

 そう考え、俺は床に座る。

 その時だった。

 床に着いた左手が妙な感触を感じたのだ。

 得体知れない物体は表面はヌルヌルしていて、その奥はゴムみたいな弾力がある。

 例えるなら、(くさ)った蒟蒻(こんにゃく)

 なんだこれ!?

 前世、テレビで見たお笑い芸人が箱の中に手を入れて中身を当てるゲームをしているみたいだ。

「痛!」

 左手がチクッと針が刺されるような痛みを感じる。

 慌てて振り払う。

 得体知れない物体に攻撃されたみたいだ。

 耐えられない程の激痛ではないが、チクチクとした痛みが続く。

 傷の状態を確認しようにも暗くて分からない。

 しかも、手が(ぬめ)っているので、触っただけでは血が出ているのか、腫れているのかも分からない。

 水で手を洗いたいが、こういう状況では水は貴重品。

 水筒(すいとう)は持っているが、これは水分補給に使いたい。

 とりあえず持っているハンカチで手を拭く。

 手の(ぬめ)りはかなり取れる。それでも手はベトベトしているが。

 ハンカチ越しで触った感覚ではあるが、出血はしていない……たぶん。

 見えないって本当に不便だ。

 ところで、見えないと言えば、得体の知れない物体はどうしたのだろうか。

 振り払ったが殺したわけではない。

 暗いから見えないが、その辺にいるはずだ。

 俺がたまたま触ったから攻撃してきただけなら良いが、獰猛(どうもう)な性質だったらどうなるだろう。

 また襲ってくるのではないだろうか。

 そう考えると、とても怖くなる。

 俺は立ち上がる。

 見えない恐怖からすぐにでも遠ざかりたい。

 俺は壁に手を当てながら再び前へ進む事にした。


 俺は『超人』の力を使おうか迷った。

 身体能力と共に五感も上がるので、このような状況下、それなりに効果はあるかと思う。

 だが、温存する事にした。

 この力は使うと寿命を一日分消耗するのが問題であるが、それ以上に連続して使えない方がより深刻な問題だからだ。

 最近は、実力はあるのにチャンスに打てないプロ野球選手のように、ここぞという場面で力の効果が切れる事が多かった。

 だから俺は、使いどころを見極めようと考えている。

 手の痛みは残っている。

 毒があったのかもしれないが、そんなに強くはないだろう。

 息苦しくなるとか、目眩(めまい)がするとか変な兆候(ちょうこう)はない。

 体も普通に動かす事が出来る。

 遅効性(ちこうせい)の毒なら話は別だが……。

 恐る恐るではあるが、前に進む事も出来ている。

「わぁー!」

 俺は叫び声をあげる。

 突然、床が無くなったからだ。

 重力に任せて体が下へ落ちる。

 落とし穴!?

 一瞬そう思ったが違った。

 どうやらここには階段があるらしい。

 一段、二段、三段と転がり落ちる。

 ただ、不幸中の幸いか、階段は三段と短かった。

 床に転がる俺。

 起き上がろうとは思うが、力が入らない。

 大怪我はしていないと思う。

 受け身は取れたので頭は無事だ。

 腕に鈍い痛みは感じるが、これは軽い打撲(だぼく)だろう。動かす事も出来る。

 体は大丈夫。しかし、心は限界だった。

 視界が無い暗闇というのがこんなに(つら)いとは思わなかった。

 今は階段から落ちただけで済んだが、これが落とし穴だったら、底に針山があったら、どうなっていただろうか。

 腐った蒟蒻みたいな得体知れない物体。

 あれが一匹だけいるとは思えない。

 今も目の前にいるのかもしれない。

 強い毒を持った種がいるかもしれない。

 そんなのに攻撃されたらどうなるだろうか。

 動く事が怖い。

 一歩を踏み出す事が怖い。

 周囲の情報が一切入らない不安。

 見えない存在への恐怖。

 俺の精神に大きな負担を()いていた。

 きっと『超人』の力を使っても好転しないだろう。

 絶望。

 それが俺の心を支配しようとしていた。


 

 

 オギャー オギャー

 

 かすかに聞こえる。

 幻聴か。

 いや違う。本物の赤ちゃんの泣き声だ。

 赤ちゃんの泣き声は人が最も反応しやすい周波数を出していると聞いたことがある。

 それは、人に助けてもらわないと生きていけない赤ちゃんが自身の存在を知らせる為の生存本能なのだろう。

「おーい」

 俺は起き上がり大声で叫ぶ。

 すると泣き声とは違う声が返って来る。

 何を言っているのかは聞き取れない。

 だが、誰かがいるのは確かだ。

 おそらく赤ちゃんの泣き声はティム君で、聞き取れない返事の主はオリーヴ義姉さんだろう。

 彼女達も俺と同じく皆と(はぐ)れてしまったのだろう。

 一筋の希望が差し込んできた気持ちになる。

 俺は立ち上がる。

 そして、前へ進む。

 時々聞こえる赤ちゃんの泣き声。

 泣いていない時はお互い声を出し合い、存在位置を確認する。

 声が聞こえる方向へ俺は進む。

 所々段差があり、俺はその度に転んだ。

 しかし、すぐに立ち上がり、前へ進む。

 暗闇の中で人の気配が感じられるというのが、これほど心強いとは思わなかった。

 少しずつ、声は大きく聞こえるようになった。

 近づいている証拠だ。

 進む、進む、ひたすら進む。

 そして待ち望んだ時が来た。

 俺が伸ばした右手が誰かの手に触れる。

 俺はその手を握る。相手も握る。

 手に(ぬく)もりが伝わる。

 あぁ、人の温もりがこんなに素晴らしいとは。

「オリーヴ義姉さん!」

「リック君!」

 俺の想像通り、赤ちゃんはティム君で一緒にいたのはオリーヴ義姉さんだった。

 お互いの無事を確認できた安堵、そして絶望の中で出会えた仲間。

 喜びのあまり、俺はティム君を抱いているオリーヴ義姉さんを抱きしめたのであった。


読んで頂いてありがとうございます。

これからもよろしくお願いします。

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