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第34話 儀式

 ティム君が産まれてから三ヶ月()った。

 この頃になるとお祭り騒ぎだった誕生フィーバーは終息していたし、訪問客も大幅に減っていた。

 落ち着きを取り戻したウォーカー男爵領は、大火災の復興へ向けて、本格的に動き出していた。

「ひっひっひ。立派な町にしないとな」

 復興に対するピーター父さんの意気込みは凄い。

 わざわざ王都から設計士を呼び寄せるほどだ。

 せっかくなので、俺も前世の知識を活用して、町の設計に関わらせてもらった。

「リック様はお詳しいですね。どこかで学ばれたのですか」

 設計士は俺の知識に豊富さに驚いていた。

 前世、日本人だった頃、旅行が好きで色々な場所へ行っていた。

 町を見るのが好きで、素人ながら町の作り方について、色々と勉強をしていた。

 その時の経験が生きたようだ。

「お世話になっております」

 復興の状況を見に町へ行くと、童顔の商人アーノルドとよく会う。

「リック様のおかげでこちらでの商売も順調でございます」

 人懐っこい笑顔を見せるアーノルド。

「アーノルドが用意した資材は全て質が高いと評判だ」

 これはお世辞でも社交辞令もなく、本当の話。

 他の商会よりも資材の単価は高いのだが、それ以上に品質が良い。

 そのため、費用対効果が高いと現場では好評だ。

「お()めの言葉を頂戴して、ありがとうございます。これからもターミガン商会をよろしくお願いします」

「分かった」

 こんな風に、俺は忙しい毎日を過ごしていた。

 そんなある日の事だ。

「ポール、リック、明日()けておけよ」

 朝食を食べているとピーター父さんがそのような事を言ってくる。

「父上、明日何があるのですか」

 ポール兄さんが怪訝(けげん)そうな表情をしながら質問する。

 俺だって同じだ。

 忙しいのに突然予定を空けろと言われても困る。

儀式(ぎしき)だ」

「「儀式?」」

 ポール兄さんと俺は声を合わせて聞き返す。

「ウォーカー男爵家に代々伝わる儀式だ。ティムも産まれてから百日()ったからな。そろそろ儀式を受けないといけない」

 産まれてから百日経ったらする儀式か。

 日本だと「お()()め」という儀式がある。 

 一生、食べることに困らないようにという願いを込めて赤ちゃんに食事をする真似(まね)をさせるのだ。

 ここでも似たような事をやるのだろうか。

「代々伝わるという事は、僕もリックも儀式を受けたのですか」

 兄さんの質問に父さんは「もちろんさ」と答える。

 俺も受けたのか。母さんのお腹の中にいる時から記憶があるが、そんな事、あったかな。

 まあ、その儀式を見たら思い出すだろう。

「当日、用意する物とか、細かい話は(すで)にメイド達に伝えてあるからな。それじゃ、頼むぞ」

 そう言って、父さんはベーコンの切れ端を口に入れモゴモゴしながら去っていった。


 翌朝。

「リック様、起きてください」

 寝ている俺をエセルが起こしに来る。

「まだ日之出(ひので)前じゃないか。もう少し寝かせてくれ」

 空は白んで明るくなり始めているが、まだ陽は出ていない。

 俺は頭から布団を(かぶ)り抵抗する。

「駄目です」

 エセルは力づくで布団を()ぎ取る

 こういう時の彼女は容赦(ようしゃ)ない。  

「早く起きられないと儀式に遅刻します」

「こんな早い時間から儀式をするのか」

 眠い目を(こす)りながら俺は起き上がる。

「あれっ?エセル、こんな格好をしてどうしたんだ」

 起きて初めてエセルの服装の変化に気が付く。

 メイド服を着ているのはいつも通りだが、ブーツは履いているし、帽子は(かぶ)っているし、外套(がいとう)羽織(はお)っている。

 まるでどこか遠くへ行くような服装だ。

「どこかへ行くのか」

「何をおっしゃっているのですか。儀式に行かれるのではないですか。エセルもリック様に同行させて頂きます。急がれないと馬車が出発します」

「馬車?」

 儀式とはいったい何をするのだろうか。

「リック様、パンツをお脱ぎください」

 エセルは両手で変えのパンツを持って俺に(せま)る。

「それは俺が着替える」

 下着こそ自分で着替えた。

 だが、それ以外の着替えや準備は全てエセルに手伝って(もら)った。

 こういう時は、エセル様様だ。

 彼女がいなくなったら、俺は生活する事が出来るのか不安になる時もあるが……。


 身支度(みじたく)を整え、屋敷の玄関から外に出ると、既に人が集まっている。

「ひっひっひ。リック、遅かったな。一人だけ置いて行こうと思ったぞ」

 どうやら俺が一番遅かったらしい。

 屋敷の前には馬車が4台停まっている。

 それぞれの馬車に分乗するようだ。

 集まっているメンバーは俺の他にピーター父さん、ポール兄さん、オリーヴ義姉さん、ティム君、エセル、シェリー、馬車の御者、執事やメイド等の使用人達だ。

 その中には(なつ)かしい人物もいた。

「若様、ご無沙汰(ごぶさた)しております」

 白髪頭の老兵士マーカスだ。

「久しぶりだな。だけど、仕事は良いのか?」

 マーカスは町の兵士隊長を務めている。

 この前の大火災の時、人的被害(じんてきひがい)が少なかったのも彼の指揮によるところが大きかった。

四六時中(しろくじちゅう)、町にいる必要はないが、復興で町が忙しい最中(さなか)、こんなところにいても大丈夫なのだろうか。 

「先日、兵士隊長を引退いたしました」

「えっ!?引退したのか」

「町の大半が燃えてしまった大火災。兵士隊長として防げなかった以上、責任は取るべきですからな」

 本当はすぐに辞めるつもりだったが、火災の後処理が一区切りつくまで務めたのだそうだ。

「それに、若い者達も育っています。このマーカス、まだまだ若い者は負けませんが、そろそろ後進に道を(ゆず)った方が良いと考えましてな。後任の兵士隊長はベンジャミンが()いております」 

 ベンジャミンって、歯がキラリと輝く爽やかな兵士か。

 彼なら大丈夫そうな気がする。

「それで、引退したのに何でここにいるんだ」

「男爵様から誘われましてな」

「ピーター父さんが?」

「はい。「どうせ(ひま)なら付いてこい」と言われましてな。今回は男爵家の皆様方の護衛を務めさせて頂いております」

 護衛か。マーカスってどれくらい強いのだろうか。兵士隊長を務めた程だから、それなりに強い気もする。

「そうか。何かあったら頼むな」

「畏まりましたぞ。何かあった時はこのマーカスにお任せください」

 自信満々のマーカス。

 そうそう何かあっても困るけどな。


 遠い山から太陽が顔をのぞかせ、鶏がコケコッコーと鳴き出す頃、ウォーカー男爵家一行を乗せた馬車は屋敷を出発した。

 それにしても俺達はいったいどこへ行くのだろうな。


いつも読んで頂いてありがとうございます。

次回は今週土曜日に更新するかもしれません(出来なかったらごめんなさい)。

これからもよろしくお願いします。

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