↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

37/309

番外編6 女たちの夜 お風呂編3

前回のあらすじ

 夜遅くにお風呂に入っていたエセルとシェリー

 そこにポールの妻オリーヴが入って来る

 オリーヴ様?

 こんな時間に?

 まさかと思って浴室の扉へ向かうと、シェリーさんの言葉の通り、そこにはオリーヴ様がいらっしゃいました。

「エセルさん、こんばんは」

 丁寧に挨拶をして頂きました。

 エセルも慌ててお辞儀をします。

「そんなに畏(かしこ)まらないで、ここはお風呂よ。皆、裸(はだか)だから、気楽にしましょう」

 オリーヴ様はもともと気さくな方でしたが、ウォーカー男爵家に嫁(とつ)がれてから、より気さくになられた気がします。

 夫であるポール様は礼儀や形式に厳しい方なのですが。

 リック様やピーター様の影響を強く受けられているのでしょうか。

 思い起こせば、一年前。婚礼の為(ため)に王都からお連(つ)れした時も、道中メイドのアニーに変装されていましたが、違和感がないどころか、メイド業に馴染(なじ)まれていました。

 もともとの性格なのかもしれません。

「お腹大きくなられましたね、オリーヴ様」

 シェリーさんも物怖(ものお)じをされない方です

 エセルは、アニーの頃からの付き合いですので、オリーヴ様とは気楽にお話しできます。

 しかし、他の使用人達は、いくら気さくでも貴族であるオリーヴ様には恐れ多くてなかなか話しかける事は出来ません。

 身分の壁(かべ)というのでしょうか。

 例え目上の貴族であっても、気軽に話す事が出来るシェリーさんは凄いと思います。

 教会という貴族とは一線を画(かく)す場所で育った事と、彼女自身が持っている天性の才能、両方を備えているからこそ為(な)せる業(わざ)なのかもしれません

「うふふ。お医者様のお話だといつ産まれても良いらしいの。最近はお腹の中で元気に動き回っているのよ」

 そう言ってオリーヴ様は大きくなられたお腹(なか)を優しく撫(な)でられます。

 あの中に赤ちゃんが入られているなんて、生命の神秘(しんぴ)です。

 エセルもいつかはお腹の中に赤ちゃんを宿(やど)す日が来るのでしょうか。

 その子のお父さんは、もちろんリック様。

 まだ手は出して頂いていませんが、近いうちにリック様と一つになれる事をエセルは切に願っています。

「お腹、触(さわ)ってもいいかな」

「良いわよ。今はこの辺にいるわ」

 エセルが妄想している間にシェリーさんはオリーヴ様のお腹を触っています。

「わぁ!蹴(け)っている!」

「うふふ」

 赤ちゃんがお腹の中から蹴っているようです。

 シェリーさんもオリーヴ様も燥(はしゃ)いでいます。 

「エセルさんも触らない」

「エセルですか?」

 突然、シェリーさんが振ってきます。

 オリーヴ様の顔を見ますが、笑顔で頷(うなづ)かれています。

 触っても良いみたいです。

「失礼します」

 実はエセルも興味がありました。

 手をオリーヴ様のお腹に当てます。

 ドン ドン ドン

 結構強く蹴ってきます。

 ポコ ポコ ポコ みたいな可愛らしい蹴りを想像していたので意外です。

 相当元気なお子様みたいです。

「待っているからね」

 オリーヴ様はとても愛(いと)おしそうにお腹を撫(な)で声を掛けています。

 その姿はとても美しく、天使の様です。

 同性のエセルでも見惚(みと)れてしまいます。

 リック様が惚(ほ)れてしまったのも分かります。

「ところでオリーヴ様は、まだお風呂に入られていなかったのかな」

 そうです。

 ウォーカー男爵家のご家族の方は皆さま最初に入られているはずです。

 仮にオリーヴ様が入られていなかったのなら、先に入った使用人は大問題です。

「お風呂は夕食前に入っているわ。だけど、足が冷えて眠れなかったから、お湯で温めようと思ったの」

 なるほどそういう事ですか。

 妊婦になると手足が浮腫(むく)み冷えやすいと聞いた事があります。

 お腹の中に命を抱えるというのは大変な事なのですね。

「オリーヴ様、よろしければ、こちらに座って頂けませんか」

 エセルは良い事を思い出しました。

「良いわよ」

 何かしら?という感じでオリーヴ様は、エセルが用意した椅子に座られます。

「失礼します」

 エセルはオリーヴ様の脚(あし)、脹脛(ふくらはぎ)を触ります。 

 だいぶ浮腫(むく)んでいらっしゃいますね。

 まず、|桶にお湯を入れ、そこに少しの間、オリーヴ様の足を入れます。足首くらいまでの高さで良いですね。

 このために、オリーヴ様はお風呂へ来られたのですよね。

 これだけでも冷えには効果あると思いますが、せっかくですので、もう一手間を加えます。

 足をお湯から出した後、掌(てのひら)全体でオリーヴ様の脹脛を押します。

 ここで注意するのは、痛いと感じる程強く押し過ぎない事です。やさしく触(さわ)るのがポイントです。

 次に、脹脛(ふくらはぎ)を押したまま手を膝(ひざ)の裏まで動かします。下から上へ押し上げるように押す感じでしょうか。

 これを何回か繰り返します。

「足が軽くなったわ」

 オリーヴ様が驚かれています。

「お母さんに教えてもらいました」

 お母さんがエセルの弟や妹を妊娠した時、よくお母さんにしてあげていました。

 ただ、妊婦さんの体調が悪い時、押されて変だと感じた時はすぐに止めた方が良いとも言っていました。

 しばらく会っていませんが、皆元気でいるでしょうか。

「凄いお母さんだね」

 シェリーさんは感心しています。

 これもお母さんの出産経験が豊富だからでしょうか。

「エセル、ありがとう」

 オリーヴ様はとても喜ばれています。

 少し不安でしたが、やって良かったです。

 教えてくれたお母さんにも感謝しないといけません。

「これで今夜はよく眠れそうだわ」

 オリーヴ様が立ち上がられます。

 大変そうだったのでエセルも手伝います。

 その時です。

「あっ!」

 オリーヴ様が何かに驚かれた声をあげます。

「いかがされましたか」

「なっ、何でもないわ」

 何でもないような慌て方です。

「あの、オリーヴ様、何か落ちたよ」

 シェリーさんが指摘するのはオリーヴ様の足元。

 水で濡(ぬ)れている浴室の床ですが、そこだけ、薄い黄色の液体で濡(ぬ)れています。

「漏(も)らしたかしら」

 オリーヴ様は恥ずかしそうにしています。

 妊婦さんになると尿(にょう)漏(も)れをしやすくなるとお母さんから聞いたことがあります。

「新しい命を守っているのだから恥ずかしがる必要なんてないの!むしろ胸を張るべきよ!」

お母さんがそう言っていましたがエセルも同感です。

 ただ、シェリーさんの言葉の雰囲気は、オリーヴ様の尿漏れを嘲笑(あざわら)っているのではなく、緊張感が含まれた言い方です。 

 エセルも薄い黄色の液体を見てみます。

 なるほど。

 シェリーさんと目が合います。彼女も頷(うなず)きます。どうやら同じ考えのようです。

「オリーヴ様、たぶん破水(はすい)だよ」

 破水とはお腹の中の赤ちゃんを守る羊水(ようすい)という液体が漏れ出す事です。

「しかし、破水はバケツをひっくり返した感じで激しく出て来るのではないかしら」

「そういう時もあるけど、こんな感じでちょろちょろと出て来る時もあるんだ」

「シェリーさんの言う通りです。エセルのお母さんも弟や妹を産む時に破水していましたが、弟を産む時はオリーヴ様が言われる通りバケツをひっくり返したみたいに羊水が激しく出ましたが、妹を産む時は今身みたいに少しずつ出ていました」

 破水であれば一大事です。

 間もなく赤ちゃんが産まれます。

「シェリーさん、オリーヴ様をお願いします」

「分かったよ」

 エセルは急いで助けを呼びに行きます。


「エセル、なんて格好をしているんだ!?」

 風呂場を出て廊下へ出たところでリック様と会います。

「リック様、眠られたのではないのですか?」

「少し寝付けなくてな……って、それより何で裸なんだ」

 リック様に言われてエセルは裸のままである事に気が付きました。

 冷静でいるつもりでしたが、動揺(どうよう)していたようです。

「オリーヴ様が風呂場で破水されました」

「オリーヴ義姉さんが!すぐに医者を呼んでくる。エセルは服を着てこい」

 リック様は走って行かれます。

 それにしても裸(はだか)姿(すがた)を見られたのがリック様だったのが不幸中の幸いでした。

 これが他の男性でしたらエセルは立ち直れませんでした。

    

 しばらくして、オリーヴ様の担当の医師と助産師さんが駆けつけてくれました。

 オリーヴ様は別室へ連れていかれました。

 これから出産をされるのでしょう。

 新しい生命の誕生を控(ひか)え、屋敷中が賑(にぎ)やかになりました。



読んで頂いてありがとうございます。

次回の更新は予定通り7月8日水曜日を予定しております。

これからもよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。