第28話 リックの仕事
本日2回目の投稿です。
「主さん、教えて欲しい事があるんだけれど」
「なんだ?」
俺への呼び方が決まり、一息ついたところでシェリーが質問してくる。
「うん。うちはこれから何のお仕事をするのかな」
そうだった!
働いてもらう事は決めていたが、何をしてもらうか、全く考えていなかった。
「主さんは釣った魚に餌をやらないタイプかな」
「そ、そんな事はないぞ」
慌てて誤魔化すが、シェリーは俺をジト目で見る。
バレてる。
「とりあえず、屋敷での礼拝は取り仕切ってもらえないか」
「教会にいた時にやっていたから大丈夫だよ」
この世界の教会でも、地球のキリスト教の日曜礼拝のように定期的な礼拝が行われる。
今までは礼拝の日は、教会から屋敷へ修道士を派遣してもらい、礼拝をしていた。
シェリーがいれば、その必要はなくなる。
ただ、それだけだと仕事不足だな。
「シェリーが得意なのは何だ」
分からない時は聞いてみよう。
「そうだね。料理や裁縫とかは一通り出来るよ」
「料理人やメイドがいるから間に合っているな。教会では、他にどんな仕事をやっていたんだ」
「寄付金集めかな。神父様に言われて、町とか村とかよくお願いに回っていたよ」
苦笑いするシェリー。
彼女みたいに年端もいかない未成年の少女にも寄付金を集めさせていたのか。
だけど、シェリーは美少女で巨乳だからな、可愛らしくお願いすれば、男達がどんどんと寄付しそうだ。
「主さんの想像の通り。うちは教会の中でも寄付金をたくさん集める方だったよ。ただ、多くの人から寄付を頂いたからお金を数えるのは大変だったかな」
金を数える。
キラーン。
俺の目が光る。実際に光るわけではないが。
「シェリー。計算はできるか」
「うん。できるよ。計算できないと、うちの取り分が減っちゃうし」
なんと!寄付金を集めるとその一部を貰う事が出来るそうだ。歩合制だな。
だから教会の人間は一生懸命に寄付金を集めに回るのだそうだ。
ただ、貰う額の計算がとても複雑だという。
計算ミスをして余分に取ってしまうとすぐに処罰を受けるし、本来貰える額より少なくとったら何も教えないで、そのまま教会のお金にしてしまう。
「うちに限らず教会の人は皆、計算が得意だよ」
どれだけお金が好きなんだ。教会の人間達は。
呆れてしまうが、計算が得意というのは朗報だ
「計算が得意なら、ぴったりの仕事がある」
「なにかな」
期待している目で俺を見る。
「俺の仕事の助手だ」
「主さんの?」
「そうだ」
具体的にどんな仕事をしているのか。
説明しようとした時だ。
コンコン
扉をノックする音が聞こえる。
俺が声を出すよりも先に扉が開く。
大きな箱を抱えたメイドのエセルが部屋に入って来る。
「本日の書類をお持ちしました」
そう言って大きな箱を机の上に置く。
「何かな」
興味津々に箱を見るシェリー。
「これが俺の仕事だ」
俺は箱の中から書類を一枚取り出してシェリーへと渡す。
「うわー、数字がたくさん」
驚きの声をあげるシェリー。
俺の仕事。それはこの屋敷の家計管理だ。
「だけど、書類だけでお金は無いよ」
「それは、お金を管理する人が別にいるからです」
シェリーの疑問をエセルが答える。
屋敷には現金管理専門の使用人がいる。所謂、金庫番だ。
金庫番がお金を数え、入ったお金、出て行ったお金を書類に纏める。日本では現金出納帳と呼ばれる書類だな。
今、シェリーに見せたのは、現金出納帳の一部だ。
「お金は数えてもらって書類に纏めてもらえるのなら、そんなに難しくないのかな」
「そう思うだろう」
シェリーのような感想を抱くのが普通だ。
「含みのある言い方だね。そうだ、金庫番の人が数えたお金を誤魔化さないようにチェックする必要はあるのかな」
「鋭いな」
「まあね。教会でもお金を誤魔化して自分の財布に入れていた人は多かったからね。王都から教会の偉い人達がやって来てお金をチェックする事がよくあったよ」
教会は腐敗していないか?大丈夫だろうか。
ただ、シェリーの指摘の通り、不正の恐れがあるので、屋敷ではお金のチェック、監査とも言われるが、定期的に行われている。
「俺もお金のチェックをしているから、その時はシェリーも一緒にチェックを頼む」
「分かったよ」
教会でお金を数えていたなら、これもシェリーは問題なくやってくれるだろう。
「だけどなシェリー。金庫のお金をチェックするのと同じくらい大変な仕事があるんだ」
「ええぇー!そんな大変な仕事があるの」
大袈裟に驚くシェリー。ノリが良いな。
「それはな、予算があるんだ」
「予算?」
ウォーカー男爵家はお金持ちなのでお金はたくさんある。
しかし、屋敷で使う事が出来るお金の額は決まっている。それが予算だ。
予算と聞くと俺は何故か日本の役所を思い出す。
日本の役所では細目の一つ一つまで予算に縛られている。
不正を防止する為に大切なのだが、それ故、融通が利かないと批判されることがある。
しかし、ここの予算はそこまで厳しくなく、総額の中で自由に使って良い。
また、日本の役所だと予算よりも少ない金額を使ってお金を余らせると、翌年以降予算を減らされるので無理やり予算を使い切る場合があるらしいが、ここでは余ったお金はそのまま繰り越しても問題はない。
その点では自由度は高いのだが。
「予算超過する事がよくあるんだ」
ウォーカー男爵家の屋敷は広いし、使用人の人数も多い。
それだけお金を使う用途も多いし、使う金額も多いのだ。
うっかり気を抜くと、予算よりも多くのお金を使ってしまう。
「予算超過するとどうなるの」
「まず反省文を書かせられる」
なぜ予算を超過してしまったのか原因、今後どのようにするか対策、これらを紙に書いて、締め切りまでにピーター父さんへ提出しないといけない。
それも適当に書くと書き直しを命じられる。
締め切りの時間も短いので、徹夜で書き上げる時もある。
これが結構大変だ。
「それから、オヤツ抜きになる」
子供じゃあるまいし、たかだかオヤツと思うかもしれない。
それは甘い。オヤツなだけに………失礼、ブリザードの魔法が発動した………。
オヤツ抜きは一日だけだが、その日に限って父さんは料理人に最高のオヤツをつくらせる。
そして、そのオヤツを「ひっひっひ。このケーキは最高だ!美味いな!!あぁ美味しい!!!」と言って自慢しながら俺の目の前で食べるのだ。
「地味に嫌だね」
「ああ」
こういったところは、ピーター父さんは実に上手いのだ。
これまでの苦労を思い出してしまい、俺はため息をつく。
エセルが肩を叩いて慰めてくれる。
「これまでは、エセルにも手伝って貰っていたが、メイドの仕事もあるから忙しいんだ」
エセルが申し訳なさそうにしているが、彼女は朝早くから夜遅くまでは働いている。
この世界のメイドとしては当たり前の事かもしれないけど、いい仕事をするためには十分な休憩も必要だと俺は思う。
彼女の負担を軽くしてあげる対応も必要なのだ。
「分かったよ」
その意図はシェリーも分かってくれたみたいだ。
「だけどね、主さん、これって貴族の息子がやる事なの」
シェリーが根本的な事を聞いてくる。
ロイレア王国広しといえども、こんなことをやっているのはウォーカー男爵家だけだと思う。
念の為、オリーヴ義姉さんにも聞いてみたが、マイエット子爵家でもやっていなかった。
「それはな、ピーター父さんの方針なんだ」
父さん曰く、お金持ちなると金銭感覚がおかしくなるのだそうだ。
「ひっひっひ。以前、ある貴族で金を使い過ぎて貧乏になった奴がいたんだ」
そう父さんが話していたが、俺も前世で散財して破産した人間をたくさん見てきた。
「貴族が貧乏になるとな、一番苦労するのは領民なんだよ。税金は重たくなるのに、貴族は何もしてくれない。領民は、今日食う物に困り、明日生きられるのかも分からない。そんな絶望を味わわせるのは避けたいのさ。ひっひっひ」
だから、父さんは家計の管理を俺に課した。
ちなみにポール兄さんも別分野で予算管理をやらされている。兄さんは兄さんで苦労しているらしい。
こうして、俺達は金銭感覚を養っている
「男爵様ってすごい方なんだね」
シェリーが感心している。
俺もそう思う。ただ、たまにウォーカー家は貴族の家ではなくて、商人の家なのではないかと錯覚する事はある。
「そういう訳で、シェリーには俺と一緒に家計管理を手伝ってもらうからな」
「……分かった。頑張るよ」
シェリーは自信が無さそうに返事をしたのであった。
読んで頂き、ありがとうございました。
次回の更新は6月24日水曜日を予定しております。




