第27話 呼び方
コンコンコン
扉をノックする音が聞こえる。
「どうぞ」
俺が許可を出すと扉が開き、一人の少女が入室する。
巨乳修道少女シェリーだ。
顔の右側を包帯で巻いているのは、お見舞いをした時と同じだが、今日は修道服を着ている。
「引っ越しは終わったか」
「うん。皆が手伝ってくれたし、荷物も少ないからすぐに終わったよ」
そう。彼女には教会からウォーカー男爵家の屋敷へ引っ越して貰った。
屋敷と教会は距離が長い。移動に時間が掛かる。
これから俺の側近として仕えるので、近くに住んでいた方が何かと都合が良い。
それに彼女の火傷は重傷で定期的な治療は必要だ。
ウォーカー男爵家に常駐している医師は優秀だし、最初からシェリーを診察している。
火傷の治療をする点でも、屋敷に住んでいる方が都合良い。
この屋敷は町から離れているし、男爵領の外からやって来て働く者も多いので、住み込みで働く使用人が多い。
そのため、屋敷内には使用人の居住スペース、寮が備わっている。
寮の部屋は多めに用意されているので、シェリーも簡単に引っ越す事が出来た。
「うちの部屋、入ってみて驚いたよ」
「どうしてだ?」
「だって、一人部屋だよ」
「もしかして、一人だと寂しいか」
考えてみれば、仕事を終えて暗くて誰もいない部屋に帰るというのは、寂しいのかもしれない。
「違うよ!」
シェリーは全力で否定する。
「教会の時は相部屋だったから、贅沢だなって思ったんだ」
そういう意味か。
「それに教会の時は屋根裏部屋で木の板の小さな窓しかなかったけど、ここは部屋にガラス窓が有って光が入るから驚いたんだ」
なるほど。
教会の時と比べて、ウォーカー男爵家の方が待遇は格段に良いらしい。
シェリーの部屋は他の使用人達と同じタイプの部屋で、六畳程度の広さ。
広くはない、だけど狭いとも言い切れない。
日本のワンルームタイプの賃貸物件だとよく見られる広さだと思う。
前世日本人だった頃と同じ感覚で見ていたから気が付かなかった。
この辺は前世の記憶を継承した弊害なのかもしれない。
「ひっひっひ。良い環境が良い仕事を生むのさ」
ピーター父さんは寮について、以前そんな事を言っていた。
その時は分からなかったが、シェリーに言われて分かった。
どうやらこの屋敷の寮設備は、この世界では破格の豪華さみたいだ。
俺も結構世間離れしているのかもしれない。気をつけよう。
「豪華な部屋を貰ったから、うち、一生懸命頑張るよ」
彼女の部屋、実は北向きで陽当たりが悪いという事は、黙っていた方が良さそうだ。
良い部屋に住めて喜んでいるシェリーだったが、ひとしきり喜ぶと姿勢を正して俺を向く。
「今日からお世話になります。よろしくお願いします」
そう言って畏まって挨拶をする。
「こちらこそ。よろしく。頼むぞ」
これまでのやり取りを考えると、ちょっと変な感じがするが、こういうケジメは大事だ。
「主さんのために頑張ります」
「あるじさん?」
なんか畏まっていそうでいない呼び方だな。
「変かな」
小首を可愛らしく傾げるシェリー。
「初めて聞く表現だ」
主という言葉はある。組織のトップ、物の所有者を表す時に使う。
ちなみに日本では主様という文字を見かける時があるが、これは「ぬしさま」と読む。江戸時代に女性が男性を敬う時に使ったらしい。
「うちも最初リック様を御主人様とお呼びしようと思ったけれど、それだとピーター様をお呼びしている気がして。主だと固いし、それで親しみやすくしようと思って『さん』付けにしたんだ」
なるほど、それで「主さん」になったのか。
「やっぱり変だったかな。変えた方が良いかな」
「いや。主さんで良い。その内に慣れるだろう」
シェリーが一生懸命に考えてくれた呼び方だ。
その気持ちに応えよう。
それに聞いているとなんだか可愛らしい。
こうして俺はシェリーから「主さん」と呼ばれるようになったのであった。
今回は短くてすみません。
次回ですが、本日中に投稿する予定です。
今後ともよろしくお願いします。




