表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/299

第22話 絶望と希望

「ヒョットコーン殿、何があったのですかな」

「リッ、いえ、ヒョットコーン様、お体は大丈夫ですか」

 エセルが動揺(どうよう)のあまり俺の正体を言いそうになっていた。

 戻って来た俺の様子を見て、雰囲気は一変する。

 そうだろう。

 俺が抱き抱えている元盗賊で奴隷のゲブは意識を失っているままだし、背負われているドズーター神父は骨折し苦悶(くもん)の表情を浮かべている。

 そして俺は怪我こそしていないが、落下した時の衝撃で衣服はところどころ破けている。

「二人を頼む。俺はシェリーを助けに戻る」

 ドズーター神父とゲブを兵士達に預ける。

彼らは担架(たんか)に乗せられ運ばれていく。

 医師も待機しているらしいので、二人の事は彼らに任せるしかないだろう。

 それよりもシェリーだ。時間がもったいない。

 彼女がいる場所は炎が差し迫っている。一瞬の間が生死を分ける事だって()()る状況だ。

 俺は足に力を込めて跳躍する。目指すは屋根の上。

 いざ出発!

 勢い良く跳んだつもりの俺。

 しかし、その跳躍(ちょうやく)は階段五段分程度の高さまで飛んで失速する。

 ドテッ

 驚きのあまり着地に失敗して転ぶ。

 全身に脱力感を感じる。

 またかよ!

 俺は両手を力いっぱい地面に叩きつける。

 手は痛い。だが、それだけだった。

 地面に(ひび)も入らなければ(へこ)みもない。

 そう。『超人』の力の発動時間が終了したのだ。

 さっき、木から落ちた時のごたごたで時間を(つい)やしてしまったらしい。

 俺は力を失い、人相の悪い、ただの少年に戻っていた。

 何というタイミングの悪さだ。

「シェリー!!」

 俺は咆哮(ほうこう)(ごと)く、助けを待つ少女の名を叫ぶ。

 これで彼女を助ける(すべ)は無くなった。

 炎に(かこ)まれた中から自力で脱出する事は不可能だ。

 心にあるのは(くや)しさと(あせ)り。

 俺の尋常(じんじょう)ではない様子に、エセルですら声を掛けられずに戸惑(とまど)っている。


「ヒョットコーン殿、よろしいですかな」

 そんな近寄りがたい雰囲気を放っている俺に話しかける人物がいた。

 白髪(しらが)頭の兵士隊長マーカスだ。

 俺はマーカスを(にら)みつける。

 ひょっとこのお面を付けていても、威圧感(いあつかん)はあるだろう。

 しかし、マーカスは動じていない。

 むしろ、(おだ)やかな表情をしている。

 彼はしゃがむ。俺と目線の高さを合わせるためだ。

 落ち着かせようとしているのか。

 さすがは年長者だな。

 俺は少し冷静になる。

「ヒョットコーン殿は、何らかの事情であの凄い力を使う事が出来ないのですな」

 俺は黙って(うなづ)く。

 悔しいけど事実だ。

「分かりましたぞ」

 何が分かったんだ。

 だが、それに続く言葉に俺は驚く。

「これより先はこのマーカスにお任せください。必ずやシェリー殿を助け出しますぞ」

 マーカスはその()(しの)ぎで言っている様子ではない。

 確固たる決意を持って言っている。 

「待て。助けに行っても炎に焼かれるだけだぞ」

 シェリーが助けを待っているあの場所は炎に囲まれている。

 ここには炎を消せる手段も道具もない。

 彼女の元へ行くには『超人』の力で炎を飛び越えるしか方法がない。

「ヒョットコーン殿は感じませんかな」

「感じる?」

 ………あっ!

 『超人』の力が切れたショックで感覚が鈍っていたのだろうか。

 俺は皮膚に冷たい感触を受けている事に気が付いた。

 水だ。

 そういえば、月が見えないくらい雲が出ていたな。

 ………………ポツン……………ポツン…………ポツン………ポツン……ポツン…

 最初は(わず)しか当たらなかった雨滴(うてき)だが、降る間隔は少しずつ短くなる。

「雨だ!」

 誰かが叫ぶ。

 そう雨が降って来たのだ。

 ザーーーーーーーーーーーーーー

 強い雨だ。炎の勢いが徐々に弱まっていく。

「もっと降れ、どんどん降れ」

 俺が叫ぶ。

 しかし、その願いは届かず、雨脚(あまあし)は少しずつ弱まっていく。

「あぁ!」

 どこからか聞こえる悲嘆(ひたん)の声。

 雨は()んでいないが、小雨(こさめ)程度の弱い雨になった。

「もう少し降って欲しかったですな。しかし、可能性は出来(でき)たかもしれませんぞ」

「そうだな」

 俺が頷くのを見て、マーカスはニッと笑みを見せる。

 炎は完全には消えていないが、今の雨で火が消えた場所もある。

 今まで通れなかった場所が通れる可能性が出てきた。

 そこを通ればシェリーの元へ辿(たど)り着ける可能性も出来た。

「ベンジャミン。救助隊の選抜をしますぞ」

「了解」

 マーカスの言葉に彼の部下ベンジャミンが親指を立てる。

 歯がキラッと輝いている。無駄に(さわ)やかな兵士だ。

「お疲れのところ申し訳ないですが、ヒョットコーン殿にはシェリー殿がいる場所まで案内を頼みますぞ」

「もちろんだ。こちらこそ頼む」

 俺はマーカスと握手を交わす。

「エセルも行きます」

「エセル殿。お気持ちは感謝するが、年端(としは)もいかぬ少女が行くべき場所ではありませんぞ」

 エセルの申し入れを断るマーカス。

 しかし、エセルは退()かない。

「マーカス様。ヒョットコーン様は歩くことも大変なくらい疲れております。(そば)で支える者が必要ではありませんか」

 そう言ってエセルは俺の腕を握る。

「ヒョットコーン様のお考えは如何(いかが)ですかな」

 ここで俺に振るか。

 エセルが覚悟を決めているのは分かる。

「エセルはここに残ってくれ」

 あぁ。エセルが目を(うる)ませている。

 そんな顔をしないでくれ。

 俺を助けてくれると申し出てくれた事はとても嬉しい。

 エセルが傍にいてくれたら心強い事も本音だ。

 だけど、火災の中に入るのはとても危険なんだ。

 前世の日本での記憶だけど、家が火事になって一度は屋外へ避難(ひなん)したものの、逃げ遅れた家族を助ける為に、燃え盛る家の中へ再び入って亡くなった人は多くいる。

 屋外避難後に燃える建物への再進入は自殺行為(じさつこうい)だからやめて欲しいと、前世での知り合いの消防士(しょうぼうし)が言っていた。

「俺達が戻って来た時、体や心が(くつろ)げる準備をしていてくれ」

 おそらく俺も兵士達も疲れ果てて戻って来るだろう。

 エセルは優秀なメイドだ。この方が実力を発揮できるだろう。

 現場の仕事も大事だが、それを後方から支援する仕事も大事なのだ。

「かしこまりました」

 俺の意図を分かってくれたのか、エセルは了解する。

「頼むな。楽しみにしている」

 俺はエセルの頭を優しく撫でる。

「皆さまが無事に戻られることを心より願っております」

 真剣な眼差しで俺を見つめるエセル。

 こんな時に不謹慎(ふきんしん)なのかもしれないが、エセルの瞳がとても綺麗に見えた。


 シェリー救助隊は迅速(じんそく)に編成された。

 隊員の構成は、俺、マーカス、ベンジャミン、他三人の兵士、合計六人で、隊長はマーカスが務める。

「それでは行きますぞ。必ず少女を助け出しますぞ」

「「「「「「おー」」」」」」

 マーカスの号令の元、俺達は掛け声をあげる。

 

 シェリー、あと少しだ。無事でいてくれ。


 炎の中へ向かって、救助隊は出発したのであった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ