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第21話 後悔

「ヒョットコーン殿(どの)御助力(ごじょりょく)頂き感謝いたしますぞ」

 白髪(しらが)頭の兵士隊長マーカスが頭を下げて感謝を述べる。 

「ヒョットコーン(さま)バンザーイ」

 兵士達が万歳(ばんざい)を始める。

 最初、仮面をつけた俺を見た兵士達は予想通り不審者を見る目つきだったが、教会の人達を救助してきたと分かった途端、態度は一変して、俺は英雄扱いされた。

「お疲れ様です」

 エセルがやって来る。

 手には水筒を持っている。

 喉が渇いているのでちょうど良かったのだが、仮面をつけたままだと飲めないな。

 人目が無い所で飲むしかないな。

「救助された皆様は、こちらでお任せください。残りの方の救助をお願い……ぷぷっ」

 突然顔を背けるエセル。

 俺の姿を見て笑っただろう。表情が変だと思っていたが、今まで笑いをこらえていたらしい。

 こんな格好をさせたのはエセルなのに。

 屋敷に戻ったらお仕置きだな。

 何をしようか。あ~んな事とかこ~んな事とか。

 妄想(もうそう)をしながら俺は救助活動を続けた。

  


 救助対象者は、ドズーター神父、巨乳修道少女、元盗賊のゲブ、教会の修道士と修道女達6人、合計9人だ。

 1回の救助で、背負子(しょいこ)に2人乗せ、1人を抱きかかえて、合わせて3人を救助する事ができる。

 9÷3=3

 つまり、俺が3回救助活動を(おこな)えば全員を助け出すことが出来る。

 1回目の救助は無事に終了した。

 2回目の救助も無事に終わった。

 3回目、これで救助を済ませば完了だ。


「待たせたな。大丈夫か」

 俺は最後に残った救助者達の元へ戻って来る。

「うち達は大丈夫だよ」

 巨乳修道少女シェリーは笑顔で答える。

 ここまで救助活動が順調だったのは、彼女のおかげだな。炎が迫ってきている中、明るく振舞ってくれたことで、他の人達も落ち着くことが出来た。

「いつ焼かれるか心配でしたが、何とか助かりそうですね」

 甘いもの大好きなドズーター神父が安堵の表情を浮かべる。高位の聖職者らしく常に落ち着いていたが、やはり不安だった様子だ。

「はやくにげよう」

 元盗賊で今は奴隷のゲブ。最初に会った時は下卑(げび)た顔をしていたが、だいぶ顔がやわらかくなった。心境の変化があったようだ。

 背負子(しょいこ)にドズーター神父とゲブを乗せ、二人が落ちないようにシェリーに縄で縛ってもらう。

 そして、俺はシェリーを両手で()(かか)える。言い換えればお姫様抱っこだ。

 ()(かか)える相手は、俺の顔と至近距離になる。それならば男よりも美少女の方が絶対に良い。

「それでは行こう」

 俺は走り出す。

 経験則(けいけんそく)から、安全地帯(あんぜんちたい)へ着くまで「超人」の力が切れる事はない。もう一往復しても大丈夫なくらい時間は残っている。

 シェリー達を送り届けたら消火活動を手伝うとするか。

 そんな事を考えながら走っていると目の前に炎の壁が立ちはだかる。何度も見ている。

 これまでと同様、俺は跳躍(ちょうやく)する。その跳んだ高さにシェリーもドズーター神父もゲブも驚く。

 火の手が回っていない地面に着地し再び走り出す。

 周囲はかなり燃え広がっているが、問題はない。

 再び炎の壁が()く手を(はば)む。

 これは一回目に飛び越えた炎よりも大きい。

 跳躍(ジャンプ)

 両足に力を込め跳び上がった俺は、木の枝に着地する。

 枝と言っても大木だ。エセルやシェリーよりも太い。

 あっちとこっちと行き来するのに何回も足場に使ったが、ビクともしない頑丈な枝だ。

 だから俺は安心していた。言い換えれば油断していた。

 枝に着地、さらに先へ進むために足に力を込めて、跳躍!……しようとしたその時、事件は起きた。

 バキッ

 足場にしていた枝が折れたのだ。

 『超人』の力で込められた力は、知らない間に木にダメージを与えていたのだろう。

 (まず)い!

 跳躍はできたが、中途半端の力だった為に飛距離が足りない。しかも体勢を崩している。 

「わー」

「きゃー」

「うぉぉ」

 三人のそれぞれ悲鳴を聞きながら俺達は転落する。

 ドサッ

 俺は尻もちをつく。

 (かろ)うじて火が回っていない場所に落ちたが、四方が炎に囲まれていてヤバそうな場所だ。

「もう駄目かと思ったよ」

 笑顔を見せるシェリー。俺がしっかり抱きしめていたからな。

 だが、シェリーの表情が笑顔から急に青くなる。

「神父様!ゲブさん!」

 振り返るとドズーター神父とゲブが重なるように倒れている。

 背負子(しょいこ)が壊れている。落ちた衝撃で壊れて飛ばされたか。

「むう。足の骨が折れたようだ」

 ドズーター神父は顔を(しか)める。左脚(ひだりあし)が変に曲がっている。

「ゲブさん、大丈夫」

 ゲブは骨折したドズーター神父よりも深刻だった。

 神父の下敷きになって衝撃を全て受け止めたからだろう。

 顔は青ざめ意識はない。 

 息はしているので生きてはいるが、一刻も早く治療が必要だ。

 ただ、問題がある。

 背負子が壊れた。

 縄は使えそうなので、無理やり縛れば背中に一人は何とか背負える。これまで通り俺が()(かか)えればもう一人も運べる。

 現在いるのは俺を除いて三名。つまり一人は運ぶことが出来ない。

 片腕に一人ずつ抱えるか。それも出来そうではある。

 だが、なにかのはずみで落としてしまう危険が高い。

 危険を承知でやるしかないのか。

 迷う俺。

「うちが残るよ」

 シェリーの声。

 (かしこ)い娘だから、今置かれている状況が理解できたのだろう。

「若者が命を粗末(そまつ)にしてはいけません。ここは()い先短い私が残りましょう」

 ドズーター神父の言葉を聞いたシェリーは僅かに明るい表情を見せる。

 しかし、彼女は(うつむ)加減(かげん)に首を横に振る。

「神父様、それは駄目だよ。神父様に万が一の事が有ったら、教会とウォーカー男爵の関係がおかしくなっちゃうよ」

「むぅ」

 (うな)る神父。

 こんな時になってもゲブを置いていく選択肢はないんだな。

 俺は聖職者を見直した。

 元盗賊の奴隷しかも前科者(ぜんかもの)、口悪く言えば下賤(げせん)な身分だ。身内よりも切り捨てやすい存在だ。

 トイレ建立100周年の寄付を募りに来る金の亡者だと思っていたが、命に(かか)わる中でも慈愛(じあい)を持ち続けられるとは、(たい)したものだと思う。

「だからね、ヒョットコーンさん。うちがここで待っているよ」

 顔を上げたシェリーはニコニコとした笑顔であるが、固い決意を秘めた表情をしていた。

「分かった」

 俺はそれしか言えなかった。

 シェリーに手伝って貰ってドズーター神父を背中に縛ってもらう。未だ意識が戻らないゲブは両手で抱えていく。

「神父様とゲブさんをよろしくね」

 シェリーは自分の運命を(さと)った。

 そんな風にも感じ取れる。

「必ず助けに戻るからな」

「信じているよ」

「頑張ってくれ」

 俺は跳躍(ちょうやく)してこの場を去る。 

 炎が燃えはぜる音が妙に耳に残った。


「リック様はたまに調子に乗りすぎて失敗されることがございます」



 エセルの言葉を思い出す。

 気をつけて跳んでいればこんな事にならなかった。

 『超人』の力の無双(むそう)振りに調子に乗り過ぎていた。


 後悔(こうかい)


 この二文字が俺の心の中を占めたのであった。


【お知らせ】

 いつも読んで頂いてありがとうございます。

 これまで毎日更新してきましたが、プライベートが忙しくなり、来週より当面の間、更新の間隔を開けます。

 更新は毎週月曜日/水曜日/金曜日を予定しております。

 楽しみにして頂いた方、本当にすみません。

 これからも良い作品を提供できるように頑張りますので、応援よろしくお願いします。

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