第20話 教会の人達
「暑いな」
ハンカチで首筋を伝う汗を拭う。
炎のせいだ。『超人』の力で身体能力は上がっているが、暑い事には変わりない。
マーカスが教えてくれた情報によれば、教会関係者はこの辺にいるはずだ。
俺は『超人』の力を駆使してここまで来られたが、普通であれば無理であろう。
道は炎や倒壊した建物の瓦礫で塞がれている。
炎の勢いは衰えていないし、このままであれば炎や煙に巻かれて命を落とすだろう。
早く見つけないとな。
俺は五感を研ぎ澄ます。
発見。
あっちの方から物音が聞こえる。
まるで人間レーダーだ。
向かうと、そこには教会関係者と見られる修道服を着ている集団がいる。
見慣れた人物もいる。あれは、ポール兄さんとオリーヴ義姉さんの結婚式の立会人を務めたドズーター神父だ。
周囲を炎に囲まれて成す術が無いのだろう。
彼らは一様に神に祈りを捧げているが、その表情には絶望の色が浮かんでいる。
「大丈夫か。助けにきたぞ」
だから俺の言葉に全員の表情が喜びに変わる。
「えっ?」
が、俺の姿を見た瞬間、驚きの表情に変わる。
やっぱりそうだよな。
「貴方は誰だ?」
白髪の神父、甘い紅茶とお菓子が大好きなドズーター神父が皆を代表して訊ねる。
それは驚きから胡散臭い物を見る表情に変化している。
俺とは面識がある神父だが、誰だか分からない様子だ。
それもそのはず、俺は今、顔は仮面を着けている。
エセルがさっき持たせてくれた物だ。
俺の顔が分からないようにする為に用意してくれたのだ。
人知を超えるような力は隠しておいた方が、平穏な生活が送れるからな。
こうなる事を見越して用意してくれたエセルは、なかなか機転が利く。
ただ、仮面のデザインが、なんとも言えない残念感を漂わせている。
ギョロッとした目、すぼめた口、大きな鼻からはご丁寧に鼻毛が出ているように描かれている。
前世で見覚えがある。そう、ひょっとこだ。
なぜ、この世界にひょっとこの面があるのか不明だが。
宴会の余興ならまだしも、こんな場所では変な人にしか見えないだろう。
もっとセンスが良い物が無かったのだろうか。
……と文句を言っても仕方がない。
エセルが俺の事を案じて用意してくれたのだ。
今は、彼女に感謝しつつ、救助に尽力しよう。
「俺の名は、あっ!?」
しまった。
名前を考えるのを忘れていた。
本名を名乗ったら顔を隠している意味が無くなる。
「え~あ~その~」
返答に困る俺と訝し気な視線を向ける人々。
いっそのこと「変なおっさんです」と名乗って、踊ってごまかすか。
いや、待て、思いついた。
「正義の味方ヒョットコーン!」
両手片足を上げて決めポーズもとる。
大阪の道頓堀で長年親しまれたあのポーズだ。
これで緊迫した場も和むであろう。
ひゅぅぅぅぅぅぅぅ
炎に囲まれて暑かったこの場が瞬時にして凍り、皆固まる
どうやら俺は冷凍の魔法を使えるようになったようだ。
センス無いのは俺も一緒か。
「あはは。面白いね」
そんな凍り付いた場を溶かすように少女が笑う。
俺と同じ、いや一つか二つ年下だろう。修道服を着ている。教会の関係者の一人らしい。
銀色の髪をおさげにしている、大きな瞳が印象的な美少女。だが、それ以上に気になるのが胸だ。
大きい。
服越しからでもはっきり見える大きな二つの膨らみ。
グレープフルーツくらいの大きさはありそうだ。
この年齢でこの大きさ、将来が楽しみだ。
「ヒョットコーンさんは、うち達を助けに来てくれたのかな?」
巨乳修道少女の言葉に俺が「そうだ」と答える。
しかし、他の修道士達は一様に不審の眼差しを向けたままだ。
「貴様は炎に囲まれた中、どうやって私達を助けるつもりか」
ドズーター神父だ。彼もまだ俺を信用していないようだ。
明らかに俺の事を胡散臭い奴と見なしている。
素直に信じれば良いのに。
「方法は簡単だ。俺が担いで炎を跳び越える」
それを聞いて修道士達の表情が一層失望の色が濃くなる。
まあ、そんな反応を見せるのも仕方がないか。人を担いで炎を飛び越えるなんて普通の人は無理だからな。
「聞きましたか、皆の者。この男は炎の暑さにやられて頭が狂ってしまったのです。信じてはなりません」
そう言い放つドズーター神父。
すると修道士や修道女達は次々と祈りを捧げ始める。
「神よ、この哀れな男を救い給え」
「神よ、頭が悪そうな男を救い給え」
「神よ、妄想に侵された愚かな男を救い給え」
「神よ、女にモテなさそうな不細工な男を救い給え」
言いたい放題言ってやがる。失礼な。
仮面で顔を隠しているんだから不細工かどうか分からないだろ。実際不細工ではあるが。
全然信用されていない。
このまま放っておいて帰ろうか。
だけど、見殺しにすると目覚めが悪いし、ウォーカー男爵家と教会の関係が悪化する危険がある。
どうしたらいいものか。
ツンツン
先ほどの巨乳修道少女が俺の腕を指で突いている。
「どうしたんだ、シスター」
「うちはシェリー。シスターよりも名前を読んで欲しいかな」
巨乳修道少女シェリーは、そう言って人懐っこい笑みを浮かべる。
かわいい。
「ヒョットコーンさんはどうやってここまで来たのかな」
「どうやってって、こうやって跳んで来たんだ」
俺は跳躍を実際にやって見せる。助走はしていないからそんなに高くは飛べないが、それでも地面から建物の二階程度の高さまで飛べただろう。
おおぉ!
修道士達から歓声が上がる。
「すごい跳躍力だね。これだけ高く跳べるなら、うちは信用しても良いと思うけど。どうかな」
シェリーの呼びかけに、修道士達は皆賛同する。
「素晴らしいお力だ」
「このお方こそ私達の救世主です」
なるほど、俺の実力を見せて皆から信頼させようとしたのか。
仮面越しからシェリーと目が合う。すると彼女は可愛らしくウインクする。
機転が利く娘だ。
それでは救助を開始するか。
そんな時、問題が起きる。
「ヒョットコーン様、まず私をお助け下さい」
「貴様は下がれ。私が最初だ」
「宝石はいかがですか。最初に私目を助けて頂いたら差し上げます」
「金目で釣るなんて卑怯ですわね。私を最初に助けたら、この身は好きにして頂いて結構よ」
「誰があなたのやせ細った体を好むのよ。ほら、私の胸、素敵よね。最初に助けて頂いたら好きなだけ触って構わないわ」
「樽みたいな女が何を言っているのかしら、それなら私の方が魅力的ね」
「年増は黙れ」
「なによ。このメス豚」
誰が最初に救助をされるのかを巡って修道士、修道女の間で諍いが起きたのだ。
「皆、やめようよ。神様も呆れているよ」
「シェリーの言う通りです。見苦しい真似はやめるのです」
巨乳修道少女やドズーター神父が必死に落ち着かせようとしているが、なかなか収拾がつかない。
醜い。
人間の本性が垣間見えた気がする。
聖職者と言ってもこの程度か。
まあ、こんな炎の中にいたら一刻でも早く助かりたい気持ちも分かるのだが。
時間が限られている中で、どうするか。
すると意外な助け舟がやってくる。
「やめろ」
みすぼらしい格好の大男が、修道士の一人を持ち上げる。
見覚えがあるなと思ったら、以前山中で戦った盗賊達の一人だ。確か、俺のシャベルの一撃を受けてゲブゥゥゥと叫んで気絶した奴だ。今は他の仲間と共に奴隷の身となっているが、ここいるのは奴一人だけだ
なんでこんな所にいるんだろう。
「ならぶんだ」
そう言って元盗賊は二人目の修道士を持ち上げ、一人目の後ろに置く。力づくで整列させているようだ。
「ゲブさんの言う通りだよ。整列しよう」
シェリーがタイミングよく呼びかけた事もあって、我先にと争っていた修道士達は一列に並んでいく。
ゲブと言うのかこの元盗賊は。
「ゲブさんは、教会によく手伝いに来てくれるんだよ」
シェリーが俺に教えてくれる。
極悪非道を繰り返してきた盗賊と教会、意外な組み合わせだ。
「ゲブ、感謝いたします」
ドズーター神父からお礼を言われて、照れているゲブの姿が妙に印象的だった。
「さて、始めるとするか」
周囲を炎に囲まれている中、俺は救助活動を始めたのであった。
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