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番外編47 枢機卿の孫娘 中編

前回のあらすじ

 ヒューズ枢機卿の孫娘を迎えに行く為に、兵士隊長ベンジャミンを使者として送ったポール。

 ベンジャミンから届いた書簡によれば、孫娘はウサギの着ぐるみ姿で現れたという。

 ベンジャミンの書簡が届いてから、さらに10日が経過した。

 僕ポールはウォーカー男爵領の領境(りょうざかい)へ向かう。

 ヒューズ枢機卿の孫娘を迎える為だ。

「いらっしゃいましたね」 

 一緒に来た執事ターナーの言葉に僕は頷く。 

 数台の馬車が(つら)なる隊列が見えて来る。

 その中に一際立派な馬車が一台ある。

 あの馬車に孫娘は乗っているのだろう。


 そして、僕の予想は当たっていた。

 立派な馬車は僕の目の前で停止する。

 扉が開き、車内から二つの人影が降りて来る。

「ウォーカー男爵。お出迎え恐れ入ります」

 そう言って、人影の片方、ふくよかな体型の中年女性が深くお辞儀をする。

 態度や体格からとても貫禄がある人物だけど、服装から察するに孫娘の側近なのだろう。

此方(こちら)の御方は、ヒューズ枢機卿のご令孫ソフィア様で御座います」

 ふくよかな女性はもう一方の人影を紹介する。

 ピンクを基調としたウサギの着ぐるみだ。

 ベンジャミンの報告通りの姿だね。

 ウサギの着ぐるみは、僕に向かってコクンと頭を下げる。

 お辞儀をしたらしい。

 ソフィアというのか。

 嘘のようだけど今初めて彼女の名前を知った。

「ソフィア様はウォーカー男爵にお会いできて嬉しいと申しております」

 ふくよかな女性がウサギの着ぐるみの代わりに言う。

「僕もソフィアと会えて嬉しいです」

 そう言うと僕は(ひざまず)き彼女の手の甲に口づけをする。

 もちろん着ぐるみの手だ。

 布地のゴワゴワした感触が伝わる。

 不思議な気分だけれど、如何(いか)なる時も紳士は淑女を敬わなければならない。

「……………」

 ソフィアは微動(びどう)だにしない。

 まるで置物のようだ。

 どうしたのだろう?

「ソフィア、大丈夫?」

 僕が声を掛けると、ソフィアは我に返ったのか動き出す。

 手をバタバタさせている。

 慌てているは明らか。

 僕は何か失礼な事をしたのだろうか。

「ソフィア様!落ち着いて下さい」

 ふくよかな女性がウサギの着ぐるみを(なだ)める。

 程なくしてソフィアは落ち着く。

「御当主様。ソフィア様は王都からの長旅でお疲れなのかもしれません」

 それまで黙って僕の傍に控えていたターナーが周りの人達にも聞こえるような声量で言う。

 そうだね。そういう事にしておこう。

「屋敷に部屋を用意しているから、ゆっくり休んで下さい」

 少しでもソフィアが安心するように、僕は口角(こうかく)を上げて笑顔をつくる。

「……」

 ソフィアはまた動きを止める。しかし、それは一瞬の事だった。

 ウサギの着ぐるみは動き出し馬車に乗り込む。

 こうして僕達は屋敷へ向かう。


 結局、着ぐるみの中身を見る事は出来なった。

 ある意味オリーヴよりも手強い相手かもしれない。

「御当主様、如何されますか」

 ターナーがそんな事を聞きに来るけど、どうしようもない。

 気長に待つことにした。

 一生着ぐるみ姿でいるなんて無理な話だ。

 それに結婚式も間近に控えている。

 近い内に着ぐるみを脱いでくれるだろう。

「御当主様も成長されましたね」

 そんな僕を見てターナーが言う。

 そうかもしれないね。

 僕は苦笑する。 

 昔の僕なら取り乱していただろう。

 無理やり着ぐるみを脱がせたかもしれない。

 これもリックやオリーヴのおかげだ。

 彼らの影響でちょっとやそっとでは動じなくなった。

 遠い地にいる弟と元妻に皮肉ではなく純粋な気持ちで感謝した。


あとがき

 読んで頂いてありがとうございます。

 最近更新期間が空いてしまいすみません。

 次回は久しぶりに早期更新を目指したいと思います。

 明日、遅くても明後日には更新の予定です。

 これからもよろしくお願いします。


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