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番外編45 パイル男爵4

久しぶりのパイル男爵です。

皆様、覚えていましたでしょうか。

 瓶詰めの封を開けた小生(しょうせい)は中身を小鍋に入れる。

 そこにミルクを少々混ぜる。

 そのままだと塩気が強いからだ。

 小鍋を(かまど)の火に当てて煮立たせれば小生特製『豆のスープ パイル風』の完成である。

「うむ。美味い」

 ミルクを混ぜた事で味がマイルドになった。

 この瓶詰め食品はとても便利だ。

 簡単に手の込んだ料理を食べる事が出来るし、今のようにアレンジすれば、より美味しくなる。

 (しゃく)なのは、製造者が忌まわしきウォーカー男爵家である事だ。

「パイル。食事中ですか」 

 キイザーがやって来る。

 艶やかな長い髪、(はかな)げな印象を与える中性的な顔立ち。

 一見すると深窓に(たたず)む美女。いつ見ても思うが、男であるのが勿体(もったい)ない。

「ほぅ。最近話題の瓶詰め食品ですか」

 キイザーは目敏(めざと)く空き瓶を見つける。

「そういえば、ウォーカー男爵家は瓶詰め食品事業をターミガン商会に売却したそうですよ」

 なぬっ!?

 小生は驚く。

 商売には詳しくないが、折角人気が出始めたものを他人に売り渡すなど、普通の行為ではない。

「リックがウォーカー男爵家を追放されたのが理由らしいですよ」

 なぬぅっ!!?

 小生をここまで落魄(おちぶ)れさせた元凶であるリック。

 彼奴(あやつ)が追放されただと!

 これは愉快!!

 しかし、いくら憎い相手でも小生は彼奴(あやつ)の実力は認めている。

 ウォーカー男爵家を支える中核的な存在。そんな人物が追放されるとは、いったい何を仕出かしたというのか。

「どうもヒューズ枢機卿に喧嘩を売ったらしいのです」

 なぬぅぅっ!!!?

 これは衝撃だ。

 小生は、法衣貴族として王宮に出仕していた頃、ヒューズ枢機卿に何回か会った事はある。

 近寄りたくないほど性悪な人物であった。

 喧嘩を売りたくなる気持ちが分からないではないが、次期教皇とも言われている教会の有力者だ。

 彼奴(あやつ)も案外未熟だ。

「流石はリック。この私奴(わたくしめ)が見込んだ相手です」

 キイザーは小生とは違う捉え方らしい。

 髪をかき上げ笑っている。

 フサァと髪が舞う。

 その仕草、よくやっているが、そんなに髪が気になるのか?

 それならば、早々に切れば良いものを……

 一方のキイザーは小生の心の声など気付かず話を続ける。

「それよりも面白いのはですね、リックが喧嘩を売った事への落とし前として、ヒューズ枢機卿が孫娘を嫁入りさせたそうなのですよ」

 なぬぅぅっ!!!?

 本日は驚きの連続だ。

 全然落とし前になっていない。

 何故、奇想天外な真似をするのか。

 もしや、ヒューズ枢機卿もアレを狙っているのではないか。

 きっとそうだ。

 以前小生がやろうとして失敗したが、ウォーカー男爵家の実権を掌握すればアレを探し出すのは容易だろう。

 しかし、これは不味(まず)い。

 今は小生のボスである、尖り耳の女ソランジュもアレを狙っている。

 明らかに競合する。

 これは何らかの手を打つ必要がありそうだ。

 小生はその懸念をキイザーに伝えるが、何と「ははははは」と笑う。

 何と無礼な!せっかく小生が心配してやっているというのに。

「心配無用です。サタンの辞典に頼るような輩なんて取るに足りません。近い将来、ヒューズ枢機卿はソランジュ様に平伏(ひれふ)すでしょう」

 自信満々に話すキイザー。

 そんなわけあるか!

 教会の枢機卿ともあろう人物がそんな真似はしないだろう。

 プライドが許さない。

 所詮(しょせん)は愚か者の妄想…………とは言い切れない。

 キイザーの自信には確固たる根拠がある。

 小生はそのように感じる。

 そもそもソランジュもキイザーも普通の人間では出来ない事をやってのけるのだ。

 何か知っているのだろう。

 ならばキイザーが言う通り小生が気にする必要は無い。

 むしろ、枢機卿が平伏すというとんでもない姿が見れるかもしれない。

 なんと愉快!!!

 高みの見物を決め込むとしよう。

「パイル。ニヤニヤ笑って気持ち悪いですよ」

 キイザーの声など右から左へと通り過ぎていく。

 最近娯楽に飢えている小生は、近い未来の光景を夢想した。


 




読んで頂いてありがとうございます。

これで2022年の投稿は終わりになります。

本年もお付き合い頂きありがとうございました。

来年もよろしくお願いいたします。

皆様よいお年をお迎えください。

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