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第140話 謹慎15日目

前回のあらすじ

 教会の有力者ヒューズ枢機卿に無礼をした件で謹慎中のリック。

 その最中、メイドのエセルが修道女のシェリーを連れて来る。

 リックはシェリーに告白。

 リックとシェリーは心も体も結ばれた。

 謹慎15日目の朝を迎えた。

「失礼致します」

 老執事が朝食を持って来る。

「今朝はターナーなのか」

 俺は軽く驚く。

 謹慎中の俺の元に彼が来たのは初めてだ。

 いつもなら、ヒューズ枢機卿の手先である、あの女が仏頂面でやって来て『ガシャン!』と乱暴に食事を置いていくのだが。

「あの女は二日酔いで寝込んでいます」

 テーブルに皿を並べながら老執事ターナーは答える。

 マーカスがワインを勧めて酔い潰させたとエセルが言っていた事を思い出す。

「マーカスに礼を言わないといけないな」

「その必要はございません。彼も二日酔いで寝ていますので」

 そう言ってターナーは「ハハハ」と軽く笑う。

「たくさん飲んだのか?」

「そうですね。二人で樽一個は開けたのではないでしょうか」

「そんなに!?」

 俺は絶句する。

 ちなみに樽には225,000ml(ミリリットル)のワインが入る。

 ワインボトルには750mlのワインが入るので、一樽にはボトル300本分のワインが入っている事になる。

 単純計算しても一人当たりワインボトル150本……二日酔いになるのも無理は無いだろう。三日酔いや四日酔いぐらいするかもしれない。

「彼も酒豪ですが、手強い相手だったと申してました。ヒューズ枢機卿側もこうなる事は想定していたのでしょう」

「酒と異性と金は相手を(つぶ)常套(じょうとう)手段だからな」

 俺の言葉にターナーは頷く。

「どうしてあの女を酔い潰させようとしたのだ?」

 あの女の振る舞いが目に余るというのが最大の理由かもしれないが、何故昨夜にしたのか疑問に残る。

 あの女からすれば酔い潰れて二日酔いになるというのは大失態に等しい。

 これに懲りてあの女は警戒するだろうから、この手の作戦は今後通用しない。()わば、ウォーカー男爵家側はカードゲームの切り札を切った形だ。

 マーカスもターナーもそれは分かっている筈。

 つまり昨夜、何かがあったのだ。

「さすがはリック様でございます」

 ターナーは声を落として話を続ける。

「実は昨夜遅くにマイエット子爵がお越しになられました」

「子爵が!?」

 オリーヴ義姉さんの父親で、ウォーカー男爵家の親戚でもあるマイエット子爵。

 彼は王都に住んでいる法衣貴族。王城勤めが忙しい身でありながら、遠く離れた僻地(へきち)のウォーカー男爵領までわざわざ足を運んだという事は、相応の理由が有るのだろう。

「もしかして、子爵はあの女が酔いつぶれた後に来たのか」

「左様でございます」

 つまり、あの女は子爵が来ている事を知らないのか。

 ポール兄さんと子爵の会談を探らせない事が目的だったのか。

「ちなみにポール男爵とマイエット子爵は徹夜で話し合われておりました」

 それはつまり、二人が真剣に議論を交わしている間、俺とシェリーは楽しい事をしていたという事か。

 恥ずかしい。事の原因が俺なだけに、申し訳なく思ってしまう。

 ん?俺はある仮説を思い付く。

「もしかして、兄さんと子爵の話し合いは、俺にも探られたくなかったのか?」

 だからターナーはエセルを俺の部屋へ行かせたのだろうか。

 あの女には酒、俺には異性を当てつけたという事か。

「ご想像にお任せします」

 表情も口調も変えず穏やかに話すターナー。

 その様子からは何を思っているのか読み取れない。

 流石は長年ウォーカー男爵家に仕えている執事。食えない男だ。


「お待たせいたしました。朝食の用意が出来ました」

 朝食のメニューはオートミールの(かゆ)山羊(やぎ)の乳、林檎(りんご)

 朝の定番と言えば聞こえは良いが、代わり映えのしない料理。

 だが、今朝はとても美味しそうに見える。

 料理の置き方一つでこんなにも印象が違うのだろうか。

「いただきます!」

 俺はスプーンを手に取りオートミールを食べ………ようとして手が止まる。

 ターナーの様子が変なのだ。

 逡巡(しゅんじゅん)していると言えば良いのだろうか。何か言おうとして迷っている。

「どうしたんだ?」

 俺に問われて意を決したらしい。

 ターナーは真剣な眼差しで俺を見る。

僭越(せんえつ)ではありますがリック様にお伝えしておきたい事がございます」

 なんだろう。俺も緊張しながらターナーの言葉を待つ。

「この(たび)の件、御当主様であるポール・ウォーカー男爵はリック様の為にご尽力されました。そして、御当主様はリック様を大事に思われています。それを忘れないで頂きたいのです」

「分かった」

 俺は頷く。

「それでは、一旦下がらせて頂きます。後ほど片付けに伺います」

 そう言うとターナーは(うやうや)しくお辞儀をして退室した。

 

 意味深な言葉だったな。

 勘でしかないが、不気味なフラグが立ったように感じる。

 俺は(あらた)めてオートミールを口に運ぶ。

 しかし、ターナーの言葉が気になり食べた気がしなかったのであった。

 

読んで頂いてありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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