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番外編35 シェリーの夢 ~孤児院~

前話のタイトルを「シェリーの夢1」から「シェリーの夢 ~旅~」に変更しました。


前回のあらすじ

 シェリーは幼い頃の夢を見る。

 大好きだったパパとの旅。

 そして死別。

 夢はまだ続く……

 パパが死んで独りぼっちになってしまったうちは、孤児院に入る事になった。

 教会はうちみたいに身寄りのない子供達の世話する孤児院を各地に持っている。

 その中でもうちが入る事になった孤児院は総教会直轄(ちょっかつ)の特別な施設で、ヒューズ枢機卿が院長を務めている。

「ヒューズ枢機卿は孤児院への理解が深い御方です」

 孤児院のスタッフである老齢の女性が説明してくれる。

 曰く、ヒューズ枢機卿は人格の優れた人で、彼が孤児院長に就いてから、孤児達への待遇が格段良くなったらしい。

「ヒューズ枢機卿は子供達が立派に成長する姿を楽しみにされています。だから貴女もその期待を裏切らないように頑張るのですよ」

「はい」

 こうして、修道院での生活が始まった。


 老齢の女性の言う通り、修道院での待遇はとても良かった。

 着ている服は()みも継ぎ()ぎも無い。新品の綺麗な服ばかり。

 食事は、毎日のように肉入りのスープが食べられ、鶏の丸焼きや仔羊のステーキが食卓に並ぶ日もあった。

 何より教育が凄かった。

 王侯貴族の家庭教師を務めていた人が教師となり、数学や外国語、武術や礼儀作法等々、高度な教育を施された。

 庶民では決して体験できない生活。そんなうち達を見て人々は「幸せだね」と言っていた。

 だけど、うちは幸せなのか自信が持てなかった。

 確かに、生活環境と教育は普通の人では得られないほど充実している。

 そんな生活を「幸せではない」と感じてしまったら、()(まま)に他ならない。

 ただ、うちには友達がいなかった。

 うちだけでは無い。

 孤児院にはうちと同じ年頃の子供が多いのに誰も友達がいなかった。

 孤児院の中はいつも殺伐としていた。

 何故?

 それは熾烈(しれつ)な競争があったから。

 孤児院が要求する水準に達しない子供達は「頑張る努力を(おこた)っている」と一方的に言われ、容赦(ようしゃ)なく追い出されたからだ。

 ……路上で生活している姿を見た……

 ……奴隷として売られた……

 ……食べる物に困り痩せ細っていた……

 ……盗みに失敗して袋叩きにあっていた……

 孤児院内では追い出された子供達がどうなったのか、耳を覆いたくなるような噂が絶えず流れていた。

 惨めな目に遭いたくない。

 孤児院に残りたい。

 だから子供達は皆、必死だった。

 自分が生き残る為に他人を(おとしい)れるなんて行為は日常茶飯事だった。

 うちはそんな酷い真似はしなかったけれど、やられた事はたくさん有った。

 (いわ)れのない悪口を言いふらされたり大事な物を壊されたり、本当に酷かった。

 そんな状況でも孤児院の大人達は何もしてくれなかった。

 むしろ、やられた方が悪いと言わんばかりの態度だった。

 だからうちは、誰も信用しなくなった。

 いや、一人だけいたかな。

 リリアン様。

 炎のように真っ赤な髪が印象的なヒューズ枢機卿の奥様。

 たまにしか来られなかったけど、いつも笑顔で()(へだ)てなく優しく接してくれた。

 彼女と会えた時だけが、うちの心の癒しになった。

 きっと、他の子供も同じかな。

 ただ、リリアン様は笑顔であっても、何かに(おび)えるような目をされていた。

 うちはその事が気になった。

 

 こうして、孤児院での生活は二年余り続いた。

 

 うちはいつもニコニコと愛嬌(あいきょう)を振りまいていた。

 それは自然と身に着いた処世術だった。

 だから、心の中では常に警戒していた。

 その頃には、孤児院は地獄だと思うようになっていた。

 

 しかし……

 今になって思えば、孤児院は地獄では無かった。

 より悲惨(ひさん)な地獄が待ち受けていたのだから……


 ある日、うちはヒューズ枢機卿に呼ばれた。

 二年余り暮らしているのに、ヒューズ枢機卿に会うのはこれが初めてだ。

 院長なのに。

 ヒューズ枢機卿と直接会えるのは優秀な者に限られるらしい。

 とても名誉な事だと孤児院の大人は言っていた。

 うちは緊張しながらヒューズ枢機卿がいる部屋の扉を開ける。

 その扉が地獄に入口になっているなんて、うちは想像すらしていなかった。


読んで頂いてありがとうございます。

更新が遅くなりましてすみません。

最近、何かと忙しく、当面の間、更新が遅れるかもしれませんが、何とか週一更新は維持していこうと思っています。

次回もよろしくお願いします。



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