おまけ4 リックのため息 続き
前回のあらすじ
リックの兄ポールがやらかした一件のせいで、貧乏になったウォーカー男爵家。
豪華な屋敷もあちらこちら傷んでしまっていた。
翌朝。
俺は屋敷の廊下を歩いていると遠くから釘を打つ音が聞こえる。
トン トン トン トン
日本の某トラックメーカーのCMを思い出させるくらいリズミカルな音。
2トントラックがこの世界に有ったら便利なんだけどなあ。
マーカスが木窓を作ってくれているらしい。
流石だ!仕事が早い。
俺は彼を労う為に音がする方へ向かう。
「リックさん。おはようございます!」
そこにいたのはマーカスではなく、金色の髪の美少女ディアナ。彼女は元気よく挨拶してくる。
「変な顔をしてどうしたの?」
ディアナが首を傾げる。
彼女の輝く笑顔に照れた事もあるが、それ以上に驚いたのは彼女の格好だ。
前髪が邪魔にならないようにバンダナを巻き、濃紺色のつなぎを着ている。
手には軍手をはめ、金槌を握っている。
その姿に貴族の令嬢の面影はない。
「ディアナが木窓を作るのか?」
「そうだよ」
俺の質問にディアナは当然のように返答する。
「マーカスさんは庭の手入れで忙しいから、代わりにボクがする事になったんだ」
ふと窓から外を見ると、マーカスが庭木の剪定をしている。庭も広い。確かに忙しそうである。
「大丈夫か?」
大工仕事をする貴族の令嬢なんて聞いたことが無い。
槍を振り回して無双する令嬢は身近にいるが……。
「あっ!疑っているね。これを見て」
そう言うとディアナは金槌で釘を打つ。
手慣れている。
さっきの音の主はディアナで間違いないようだ。
「いつの間にそんな事を覚えたんだ?」
「マーカスさんに教えてもらったんだ。何も仕事をしないでお世話になるのは申し訳ないからね」
何と素晴らしい心構えだろう。
俺は感動する。
酒浸りの誰かさんにも聞かせたい。
「そうだ!これを見て」
ディアナは傍らに置いてあったスケッチブックを開く。
「どれどれ……おぉっ!」
俺はそこに描かれている絵を見て驚く。
絵が得意な彼女が描いているそれは、木窓にガラスが埋め込まれたおしゃれなデザインの窓だった。
「木窓だと光が入らなくて暗いからね、ガラスの大丈夫な所を使おうと思うんだ」
俺が驚いたことに満足しているようだ。ニコニコしながら教えてくれる。
「素敵な窓だな。けど、どうやってガラスを切るんだ?」
「もちろんこれだよ」
ディアナが取り出したのは、先端が細く尖った金属製の工具。
「ガラスカッターって言うんだ」
そう言うと彼女はガラスカッターにオイルを塗る。
「最大の秘訣はね、躊躇わないで一気に切る事なんだ」
ニコニコ顔から一転して真剣な眼差しに変わったディアナは、一気にガラスカッターを引く。
ガラスに直線が入る。彼女が少し力を加えるとガラスは綺麗に割れる。
「成功!」
ドヤ顔のディアナ。
納得の出来らしい。
「昼頃までには完成させるから期待していてね」
胸を張って自信満々のディアナ。小柄な彼女が大きく見える。
全てが手慣れている。
昨日今日始めたわけではなさそうだ。
人知れず努力を積み重ねてきたのだろう
そんなディアナを俺は心の底から尊敬したのであった。
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