第111話 聖職者の役目
ディアナをさらって欲しいと無茶苦茶な頼みをしてきたエリオット。
その遠因は自分である事を知ったリックは、その頼みを引き受ける事にしたのだが………
「ありがとう、感謝するぜ」
エリオットは俺の両手を握りしめ礼を言う。
頼みを引き受けてくれた事が余程嬉しかったらしい。
「それじゃあ早速やろうぜ!」
「早速じゃない。軽々しくできるものではないだろう」
流行るエリオットを抑える俺。
人を攫うのだ。失敗は絶対に許されない。
「あの、気になったのですが」
「どうしたエセル」
「ディアナ様は、この事をご存知なのですか?」
その言葉を聞いてエリオットは固まる。
嫌な予感がする。
「もしかして、ディアナは何も知らないのか」
「だってよぉ、あいつだって謹慎しているから話が出来ないんだ……」
どんどん声が小さくなるエリオット。
行き当たりばったり過ぎではないのか。
こんな調子では彼の将来が不安である。
「困ったな」
ディアナにその気が無ければ、わざわざ攫う意味が無い。むしろ逆効果だ。
どうしても本人の意思を確認したいが、現在謹慎中。会う事は難しい。
「ここはうちの出番かな」
シェリーが勢いよく立ち上がる。
その衝撃で胸がプルンと揺れる。
「何か良い考えがあるのか?」
「もちろんだよ」
俺の質問にシェリーは笑顔で頷いたのであった。
翌朝。
俺とシェリーは二人で王都を歩いていた。
「主さん。似合っているよ」
「そうか?」
着慣れない服というのは何とも落ち着かない。
「そうだよ。このまま聖職者に転職しても良いくらいだよ」
「それは褒めすぎだろう」
俺は今、修道服を着ている。
シェリーが知り合いの修道士から借りて来たのだ。
「本当に大丈夫なのか」
「大丈夫だよ。うちに任せて」
自信満々、笑顔満々なシェリー。
自信の大きさ故か修道服越しに見える胸の膨らみまでいつもより大きく見える。
「もう着いた」
俺達は目的地に到着する。
ヘストン子爵の屋敷だ。
「よしっ!頑張るかな」
そう言うとシェリーの表情が変わる。
人懐っこい笑顔から落ち着きのある顔。
仕事モードになったのだ。
「ごめんくださいませ」
言葉使いも口調も変わったシェリーは屋敷の扉を叩く。
「これは修道女様。ようこそ当屋敷へようこそおいでくださりました」
シェリーが扉を叩いてから程なくして、俺達は屋敷の応接間に通されていた。
目の前には身なりの良い女性、ヘストン子爵夫人がいる。
面識は無い上、突然の訪問なのに、門前払いされるどころか、もてなしを受けている。
恐るべし教会の影響力。
「先日も教会の方へ臥房修繕の為の寄付をさせて頂いたばかりですが、本日はどのようなご入用でございますか」
愛想笑いを浮かべながらも、言葉の中に刺が含まれている。
教会関係者の寄付金集めに辟易しているようだ。
その辺の認識はどこの貴族も同じらしい。
対するシェリーはそんな事を気にする様子もなく笑顔で話をする。
「本日はご令嬢ディアナ様に神の教えを説きにまいりました」
それを聞いたヘストン子爵夫人の表情が緩む。
「それは有難いお話でございます。準備いたしますので、しばしお待ちください」
そう言うとヘストン子爵夫人は応接間から出ていく。
愛想笑いというより本当に喜んでいる様子だ。
「どういう事だ」
二人きりになったので俺はシェリーに聞いてみる。
いくら教会関係者とはいえ、表向き面識が一切ないディアナとこんなに簡単に面会できるとは思わなかった。
「これも教会の仕事の一つだからだよ」
シェリーが言うには、教会関係者が謹慎中の人に神の教えを説くという名目で面会するのはよく有るのだそうだ。
謹慎をしているとどうしても気が滅入る。
そんな時に教会関係者が謹慎している当人の話を聞いて、暗い気持ちを和らげてあげるのだそうだ。
つまりカウンセリングだ。
教会関係者はカウンセリングの訓練を受けているので、実施すれば効果が期待できる。
だから家族からは歓迎される申し出だという。
「へぇー、教会って金集めするだけの組織ではないのだな」
感心する俺。
「金集めだけをしていたら嫌われちゃうからね。たまには人の為になる仕事もやらないとね」
シェリーは苦笑いしたのであった。
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