表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

123/294

第101話 大広間 ~願望~

昨日に続いて久しぶりの二日連続投稿です。

「勝負は決した。降伏しろ。そうすれば、命は助けてやる」

 俺はキイザーに降伏を呼びかける。

 高圧的に言ってはいるが、内心では「お願いですから降伏して下さい」と懇願している。

 キイザーの驚きぶりから分析するに、人を眠らせる力は、彼の必殺技だったのだろう。

 その必殺技がティム君の泣き声によって無力化された上、カミラさんとオリーヴ義姉さんという猛者二人を相手にしなくてはいけない。

 RPGで例えれば、魔法使い一人で高レベルの戦士二人と肉弾戦をする状況だ

 キイザーの勝ち目は薄い。

 とはいえ、俺達も楽勝とは言い難い。

 エルフ耳のソランジュ程の強さはなくても、キイザーはそれなりに強いはずだ。

 戦えば、カミラさんやオリーヴ義姉さんが怪我をする危険がある。

 それに、俺はソランジュが何を企んでいるのか知りたい。

 キイザーはソランジュに近い人物のようだ。ポール兄さんよりも多くの情報を持っているだろう。

 その為には、致命傷を負わせずに捕まえる必要があるが、そうなると俺達側の難易度が格段に高くなる。

 だからこそ、キイザーには降伏してもらいたい。

 俺達にとって都合が良いからだ。

「ははははは。私奴(わたくしめ)を見くびらないで頂きたい。例え死んでもソランジュ様を裏切る真似はしない」

 キイザーは降伏勧告を一蹴する。

 やはり無理だったか。世の中は甘くない。

「見上げた忠誠心だな。何故、そこまでソランジュに尽くすのだ?」

 素直に感じた疑問だ。

 確かにソランジュは神秘的な美貌の持ち主で、普通の人が使えない力を使う。カリスマ性がある人物だと思う。

 ただ、俺が最初に出会った時の印象が悪かった為か、キイザーや兄さん達がソランジュを信奉(しんぽう)のか理解できないのだ。

「簡単な事ですよ。ソランジュ様は本気でこの世界を壊そうとしているからですよ。私奴の大切な人を虫けらのように殺した、この腐りきった世界を!」

 キイザーは笑顔で答える。しかし、目は笑っていない。

 瞳には悲しみと狂気が込められていて、異様な目力を感じる。

 何があったか分からないが、壮絶な過去があったようだ。

復讐(ふくしゅう)を果たしても残るのは(むな)しさだけだぞ」

 俺は(さと)す。

「うるさい!世間知らずのお坊ちゃんに何が分かる!」

 キイザーは眉を吊り上げ、声を荒らげる。

 彼にとっては触れられたくない事らしい。

 そうだよな。

 辛い思いをした当事者には、俺が言っているのは単なる綺麗事にしか聞こえないよな。

 波乱に満ちた人生を送ったピーター父さんなら説得力があったかもしれないが。 

 前世を含め、俺は復讐を誓うような残酷な経験をしていない。

 それは恵まれているのだろう。

 ふと前世を思い出す。

 前世で俺は飲酒運転の車に跳ねられて死んでいる。

 神様の手違いで、本来死ぬ予定だった娘とお腹の子の身代わりになって死んだし、そのお詫びとして様々な特典を貰って転生したので、まあいいか程度に思っている。

 だけど、残された家族はあの事故の後、どのような思いで過ごしているのだろう。

 俺が突然いなくなった喪失感で悲しみに暮れているのだろうか。

 酒を飲んで運転した相手を憎んでいるのだろうか。

 それとも俺の事なんてすっかり忘れているのだろうか。

「死んだ方からすれば、ずっと覚えていて欲しい。だけど、悲しみや憎しみに費やすより、自身の幸せに時間を使って欲しい。それはわがままな願望なのだろうか」

 俺は呟く。

 誰かに向かって言ったのではない。

 前世の家族の顔を思い浮かべたら、自然と口から出ていたのだ。

「ははははは」

 突然キイザーが笑い声をあげる。

 何がおかしい?

「リック・ウォーカー様。貴方(あなた)愉快(ゆかい)御方(おかた)だ。他の貴族とは一味も二味も違う」

 俺の呟きが彼の心の何かを刺激したらしい。

「それは俺の事を褒めているのか。それとも馬鹿にしているのか」

「もちろん褒めているのですよ。私奴の最大級の賛辞と思って頂きたい」

 素直に喜んで良いものなのだろうか。

「それでは、賛辞の証として良い事を教えて差し上げましょう」

 キイザーは右手の指をパチンと鳴らす。

 すると彼の左の手のひらに何かが現れる。

 光り輝く黄色の宝石。

 これはもしかして……

「ご想像の通りですよ。これは大地の宝石です」

 そう言うとキイザーは、わざとらしく髪をかきあげたのであった。


読んで頂いてありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ