表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

118/294

第96話 大広間 ~切札~

前回のあらすじ

 兄ポールは国を建てると言うものの何もかもが足りない。

 弟のリックはその懸念を伝えるが、ポールは全てを覆せる切札を持っていると自信満々の様子であった。

「疑っているようだね」

「そりゃそうだ」

 ポール兄さんの言葉に、俺は正直に返答する。

 兵力は少ない。

 財力は足りない。  

 世論の後押しは期待できない。

 そんな状況を(くつがえ)せる切り札なんて都合良く有るわけがない。

 ゲームや漫画の世界ではないんだぞ。

「仕方ないね。特別に見せてあげるよ」 

 そう言うと兄さんは胸の前で両手を合わせる。

 合掌(がっしょう)のポーズだ。

 目を閉じ、何やら呟いている。

 まるで念仏を唱える僧のようである。

 いったい何をするつもりなのか。

 

 フワァ~


 不意に風が顔にあたる。

 感覚としては団扇(うちわ)をパタパタとさせた強さだろうか。

 大広間の中は蒸し蒸しとしていたので心地良い…………って、そんな場合でない。

 大広間の窓は全て閉ざされている。

 入口の扉が開いているが、俺の背後にある。

 普通であれば顔に風が当たるような事はあり得ない。

「ポールさん……」

 オリーヴ義姉さんが呟く。

 ポール兄さんの髪や衣服が揺れ動いている。

 兄さんの周囲に風が吹いているのだ。

「驚いたかい」

 ポール兄さんが念仏を止め、話し掛ける。

 それと同時に風は止む。

「ああ」

 俺は頷く。

 俺だけではない。カミラさんもオリーヴ義姉さんもノーマも驚いている。 

 ティム君はキャッキャッと喜んでいるが。

 ほぼ密室である空間で風を吹かせるなんて、普通では無理だ。

 超常現象、(すなわ)ち魔法を使ったとしか説明のしようがない。

 そう、ポール兄さんは魔法を使ったのだ。

 この世界は地球と同様に普通の人が魔法を使う事は出来ない。

 人間社会で生活している限り魔法に接する機会はない。

 念仏を唱えないと発動できないので、実用性がどの程度あるかは分からない。

 しかし、相手に強烈な印象を与える事は出来る。

 取り巻きの若者達が兄さんを持て(はや)しているのも魔法が使える事に依るところが大きいのかもしれない。

「特別な力を使える事をアピールして人々の人気を得る。それを足掛かりにして兵力や財力を得ていくつもりか」

「さすがリック。理解が早いね。父上が認めていただけあるよ」

 兄さんが言う切り札、それは魔法だ。

 人は自分が出来ない事を畏怖(いふ)する。

 演出次第で人々を魅了する事は可能だろう。

 そうなれば、ポール兄さんを新しい王にさせたいと思う人も現れるし、兵士に志願する者や資金を援助する者も現れる。

 確かに強力な切り札である。

「それにしても兄さん。この力はどうやって手にしたんだ」

 ウォーカー男爵領に居た頃は魔法を使う事は出来なかったはずだ。

 そうなると王都へ来てから習得した事になる。

「ソランジュ様から授かったよ」

「なっ!?」

 彼女は何らかの形で今回の件に関わっているので、有り得るかもしれないとは思っていたが………。

 いざ、その名を聞くと驚いてしまう。

「ソランジュの事は話したよな」

 一年前、俺は小人達の住処である地下空間に迷い込んだ時、エルフ耳の美女ソランジュと出会った。

 何やら不穏な事を企んでいる様子で、彼女は小人達が守っていた深緑(しんりょく)宝石(ほうせき)を奪う為、吸血ゲルという凶悪生物を放ち、小人達を混乱に(おとしい)れた。

 魔法は使えるし、俺のチート能力『超人』の力を発動させても互角以上の戦いをする。とてつもない強者だ。

 深緑の宝石を死守できたのも、偶然が重なって出来た奇跡のおかげであった。

 また何か仕掛けてくるかもしれない。

 そう思った俺は警戒すべき人物として、ピーター父さんとポール兄さんにソランジュの一件を説明した。

 俺は(こぶし)を握り締める。

 その時は、理解してくれた………そう思っていたのに………。

「リック。君はソランジュ様の事を誤解している。素晴らしい御方だよ」

 心酔した様子で語る兄さん。

「僕はこの国を救う事しか出来ないけれど、ソランジュ様は世界を救ってくれる」

 兄さんだけではない。エリオットとかグレゴリーとか取り巻きの若者達も目をギラギラと輝かせ心酔している。

「ご主人様、あの子だけ変よ」

 ノーマが囁く。 

「そうだな。俺もさっきから気になっていた」

 皆が目をギラつかせている中、一人金髪の少女だけは冷めた目をしている。

 兄さんはディアナと呼んでいたな。

 全員が同じ思想に染まっている訳ではないらしい。

 それにしても、国を救うとか、世界を救うとか妄想が膨らんできた。

 前世、日本人だった頃、似たような症状を見た事がある。

 中二病だ。

 ほとんどの日本人が罹患(りかん)経験あると()われている恐ろしい症状。

 ただ、日本人の場合は、後年自分自身が思い出して赤面したり闇に葬りたい衝動に駆られたりする後遺症を残す自己完結型中二病が多数を占めるので、国も社会も半ば放置状態だ。

 単に自分の古傷を(えぐ)りたくないだけかもしれないが………

 しかし、兄さん達は症状を(こじ)らせて、暴走型中二病に悪化してしまった。

 これは当事者のみならず、無関係な人々にも多大な迷惑をまき散らすので、大変危険な症状である。

 早期の治療が求められる。

 そこで俺はあるアイデアを思い浮かぶ。

 上手くいくかは分からないが、何もしないよりは良いだろう。

 やってみよう!


読んで頂いてありがとうございます。


今夜から台風10号が東日本に接近するそうですね。

避難は素振りと同じです。

経験を積めば積むほど上手になります。

少しでも危険だと感じたら、ためらわず避難してください。

今回は何も無くても、その経験が次の災害の時に役立つかもしれません。


それでは次回もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ