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巨万の業

「おいどうした。立てるか?」


「うん…何かすごく疲れた」


「無理するな。後は俺がやる。背中に乗れ」


キラをおぶり片手で全荷物を抱える。


「ごめんねこんなことさせちゃって」


「なぁキラ。これって何が詰まってるんだ?」


「黒硝子の実。船や機関車の燃料に使われてる」


何かとんでもない物を運んでるかと疑ったが俺の考え過ぎか。


言われた通り2と書かれた箱に荷物を入れ家に戻ってきた。


「家に着いたぞ」


「すー。すー」


困った。出来れば不法侵入は避けたかったが…


キイィィィ


あれはキラのお婆さん?隣のベッドがキラの寝床っぽいな。キラをベッドに乗せそっと布団を被せる。これでも起きないんだから俺達と同じくらい疲れが溜まっているんだろう。


「おやすみ」


家を後にする。夜が明けたら仕事探さないとな。


************************************************************


南の国モートゲッタ


戦死者の骨が散乱する荒れ果てた海岸に大勢の難民が集まっていた。


「これで全員ですか?」


「はい。負傷者が出ましたが命に別状はありません」


「あの、私達は何処へ向かうのですか?」


「あなた達はこれから北の国に向かいます。国外逃亡をしてきた人々によって建国された都市クリフーベンはどんな方でも温かく歓迎してくれます。少し寒いことを除けば不自由の無いとても良い所なので安心してください。」


「ティムディ様、もう出航です。今回はお乗りになりますか?」


「私はまだ用がある。先に行ってくれ」


準備が整い橋が下ろされる。


「さようならー!ティムディ様ー」


「あんたは命の恩人です!」


「本当にありがとうございました」


民が一斉に手を振る。それに答えて笑顔を返した。


「三日の辛抱です。それまでは頑張ってください。神のご加護があらんことを!」


絶望の地からまた一つ、希望を乗せた船が錨を上げ旅立つ。


バサッ バサッ


「相変わらずだなティムディ」


草臥れた港に一人の男が降り立った。


「ギュヴォグ。また凝りもせず人間狩りをしたな。」


「密猟者しか殺ってねぇよ。もう人間しかいねぇのかこの国は?」


「殆どの亜人は南の国を出れた。後は戦争が終結するのを待つだけだ」


「人間は束の間の快楽を求めて蛮行に及ぶ屑だ。助けた所で感謝してくれるわけでもなく当たり前だと抜かしいらなくなったら淘汰する。あらゆる生物より愚かだ。龍人より先に滅んでしまえばいい。」


「讒謗な発言を慎め。変わってしまったなお前も。聖なる翼と呼ばれた姿は幻となったか」


「その話はやめろ」


「子供達は?」


「東の町に行った。そこから先はあいつらの自由だ。これで借りはチャラだぜ」


「すまないな」


「言っとくが手助けは昨日ので最後だ。後は俺の好きにさせて貰う」


「分かってる。私もお前が完全な悪とは思っていない」


「人間だけにはやられんなよ。じゃあな」


ギュヴォグは颯爽と飛び立ち、何も無い砂漠へと消えていった。


「私もプリエステスに向かわなければ」


************************************************************


「シン、起きなさい」


「寝たのが遅いんだ。まだいいだろ」


「ベッド届いたから移動して。」


布製のベッドが五つ並ぶ。キラの手際の良さには驚きだ。


「ツー起きて。」


「ZZZ」


「ほーら」


まるで起きる気配が無い。ツーは一度睡眠に入ると中々起きない。


「寝カセテヤレ」


「あー腹減ったぁ干し草飽きちまった」


「本当に何でも食べるわね。この前溶けた鉄食べてたでしょ」


「あれは不味過ぎる」


ガチャッ


「おはよーみんなー。お腹すいたでしょ?朝ごはん作ってきたよ」


キラが大きな鍋を抱えてやって来た。ぐつぐつと煮えた鍋からは仄かに良い香りが漂う。


「ありがとう!私達もうペコペコだよ」


「とても助かるんだが、体の方は大丈夫か?」


「平気だよ。さ、皆食べて」


一日ぶりの食事だ。空腹は最高の調味料とはよく言ったものだ。


「どぉ?余り物で料理したんだけどお口に合うかしら?」


「ああ、美味い」


「すごく美味しい!村で食べてたスープより全然いい!」


「まったく、ツーの分も残しといてよ。これって何の材料使ってるの?」


「七年草と砂底芋と、あとは彗星の実で作ったわ」


「へー、肉を使ってないのにこんなにおいしく作れるなんて、ノウハウを教えて貰おうかしら?」


「そんな、これくらい皆出来るよ」


「ゴチソウサマ。仕事ヲ探シニ行ッテクル」


「私も行く」


「俺も探さなきゃ。」


セレネとロッドとアーマーは外出した。


「キラ。鍛冶屋ってこの町にあるか?」


「もちろん。私が案内するよ」


鍛冶屋は町の南東にあるらしい。そこには何十人もの鍛冶屋が働いているそうだ。俺とキラも外出する。


「あの、昨日私途中で寝ちゃって本当にごめんなさい」


「謝ることでもないだろ。気にするな」


工業地帯に入った。あちこちで金属音がし周りから鉄や銅の匂いがする。老人が力を込め真っ赤な鉄を叩いている。


「グレおじいさん。仕事中だけどちょっといい?」


「誰だそいつは。」


垂れた髪の毛のせいで顔が見えないが恐らく尖獣族か。腕に何か所も火傷の痕がありこの道の熟練者だろう。


「あの、私の友達なんだけど爬焔族との混血で火を吹けるの。鍛冶の経験もあるわ。」


爬焔族?キラは色んな種族を知ってるな。いや、俺が知らな過ぎるだけか。


「そりゃあいい。二重加熱出来る奴を探してたんだ。ほれ、ちょっとこれで武器を作ってみろ」


「我流でいいなら」


村の粗末な道具と違い、町の製錬炉や金鎚は全体的に優れていて扱いやすかった。二重加熱は多分俺がいつもやってる手法だ。性質の違う二種類の炎を使いより良い武器を作れる。


「とりあえず剣を作ってみたけど」


まだ熱が残る剣を鍛冶屋に渡す。老人の髪が揺れわずかに鳶色の目が見えた。


「年相応の出来だ。左右非対称な点を除けば文句は無い。キラ。こいつと何処で知り合った」


「実はね、名前と職業以外覚えてなくて気づいたらこの町にいたみたい。私の家に空きがあるから泊まらせてるんだけど」


「記憶喪失…まあいい。来たい時に来てくれ。お前なら月に五回も来りゃ生活出来るだろ。あと…キラに妙な気起こすなよ」


「ありがとうじいさん。精一杯働くよ」


「もう一つお願いがあるの。ペンダントとか衣類を作るのがとっても上手な子がいるんだけど、グレさんの従弟の所で働かせてもらえないかしら?」


「明日言っとくよ。だが、その二人だけにしとけよ。お前は優しすぎる」


「分かってるって。それじゃあさよなら。体に気を付けてね」


思った以上に良い人だ。あれくらい年のいった爺さんは皆おっかなくて短気だと思っていたが俺の偏見に過ぎなかったか。


昼になり家に戻るとロッドとセレネが先に帰宅していた。


「仕事は見つかったか?俺は鍛冶屋で働く」


「私は本と巻物を作る仕事にしたんだ。十日で三千三百ミスト。魔法暴走保険付きよ」


「俺ハ牧場ノ世話係。主ニ養殖ニ携ワル」


ガチャッ


「おーこんなに貰っちまったー」


アーマーが大量の紙を持って帰ってきた。


「見てくれ皆、金稼ぎの良い方法見つけたぜ」


自身気に数枚の紙を差しだす。そこには顔と個人情報と大きな数字が書いてあった。


「何これ、怖い顔の絵が描いてあるけど」


「役所にめっちゃ貼ってあったんだよ。これと同じ奴を捕まえてきたら書いてある金額を貰えるらしい」


「指名手配書ね。確かにたくさんお金を稼げるけど…」


「たまに顔が真っ赤な手配書があるんだよ。しかも額が人間より高い」


「大斬族よ。実は大斬族も希少価値がCでよく狙われてるの。」


「Cだって?何で捕まる側の存在が指名手配に密猟者として出てるんだ?」


「大斬族の酋長一家が南の国で捕まって返還を条件に一万人くらいが参加してるのよ」


「人間ガ約束ヲ守ルトハ思エン」


「でもこれ、私達を狙う人が減ってお金も稼げて一石二鳥じゃない?多少危険を伴うのは承知してるけどさ」


何十人か捕えれば金銭的な心配が無くなる。悪魔で最後の手段として考えるならばいい方法だ。


「この赤いおじさん四百万ミストもするの。半世紀以上暮らせるじゃん」


「ツー。起きてたのか」


ようやく目覚めたツー。ジト目で手配書を眺める。


「髪の毛に干し草付いてるわよ」


「温め直しだけどスープ食べる?」


「うん」


「ちなみに大斬族はどれくらいの強さか分かるか?」


「確か一キロメートルを五十秒で走れて女の人でも帝王樹を持ち上げられるって聞いたわ」


身体能力はかなり高いな。龍化すればどちらも上回れるが通常では勝てるかどうか分からない。それに武器も持っているだろう。


ガタッ!!


ロッドが突然立ち上がり辺りを見回す。


「急にどうした?」


「誰カガ、怯エテイル。森ダ」


扉を乱雑に開け家を出ていく。


「アーマー来い!他の皆はここで待ってろ!」


続けて俺とアーマーも家を出た。あの慌てよう、ただごとじゃないな。ロッドが門に向かって走っていくのが見えた。門を潜ってもまだ走り続ける。数分経った所で漸くロッドが立ち止まる。


「待てロッド。いきなり走るんじゃねぇ」


「足速えーよ」


「静カニ。アレヲ見ロ」


木に隠れ様子を伺う。密猟者か。これまた数が多い。武器も以前より強力そうだ。一匹の大きい動物を囲っている。


『フーッ!フーッ!』


大きさ八メートル程の白い獣が血まみれになって縛られていた。


「機関銃でようやく静かになったな。手こずらせやがって」


『ピー!ピー!』


網に絡まれパニックを起こした幼獣が鳴いている。


「クソッ。人間メッ」


ガサッ


怒りの眼差しで密猟者に近づく。


「テメェ等、密猟者カ」


「なんだ小僧。」


ガッ


素早く手を振り下ろし、首に大きな一撃を当てる。


「い…いきなり何を…」


「あーあーやっちまったよ」


「行くぞっ。ケリをつける」


気づいた密猟者達が三人に銃を向け発砲。しかし一度武器の形態を知った龍人にとって銃はただの玩具に過ぎなかった。


「なんて素早さだ。全然見えない!」


「おかしい。集中砲火で一発も…ぐあぁぁぁ!!」


俺は腹に一発、アーマーは締め技、ロッドは手刀を主な方法として次々と相手を気絶させる。どれが一番効率が良いかは知らないが


「隊長!あいつら強すぎます!」


「何とかしろ!!」


グッ


「テメェガ隊長カ」


ロッドが背後から隊長の首を締め上げる。


「は…離……せ!…………が…」


ドサッ


龍人と密猟者が交戦してる中、セレネとツー、そしてキラもその場に駆け付けた。


「テレパシーなんて使わせないでよ。消耗激しいんだから」


「あそこにいるのは…イルレシス!?酷い…国の天然記念物にまで手を出したの!?うー久しぶりに使うけどこれしかない」


「キラ。何を持ってきたの?」


キラは体の半分以上もある巨大な鉤爪を取り出した。


「…ッ!そんな爪で切り刻んだら殺しちゃうわ!」


「これは麻酔爪って言って捕獲用の武器なの。命を奪うことはしないよ」


「それならOK。二人共、用意はいい?」


「いいよ」


「いつでも。お掃除しなくちゃ」


潤滑装甲(ミズバレーク)!」


セレネは詠唱を始めた。潤滑装甲は仲間の体を硬質化させ体の動きを速める魔法だ。


キラが木々を飛び回り敵を翻弄しつつ敵の背後を突いた。龍人の猛攻も凄まじく少しずつ敵が減っていく。


「野郎!蜂の巣にしてやるよ!!!」


一人の密猟者が機関銃に乗り上げ迎撃の体勢に入る。


「そうはさせない!」


ツーは大きく息を吸い、広範囲に白い炎を吐き出す。ツーの炎はあらゆる物体を炭化させる。


「アチッ!何だこれ…銃が打てねぇ」


バキンッ


「なっ、機関銃が真っ二つに折れただと!?」


「余所見すると危ないよ」


ザシュッ


キラの斬撃が見事に命中。機関銃と共に崩れ落ちた。


「残るは…七人か。覚悟しとけ」


アーマーが仕上げに取り掛かる。


「お願い、殺さないで」


「え?女の人?」


武器を置き震える密猟者達。よく見たら女子供ばかりだった。


「アーマー。何ボーっとしてんだ」


「女は無理だって!」


アーマーは一番小さな小女に話しかける。


「えーと、すまない、君は何歳だ?」


「…十一歳」


「マジかよ。どうなってるんだ!」


「コイツカラ話ヲ聞コウ。指名手配犯ノ可能性モアルカラナ」


「あんたら、南の国へ帰るか逃げた方がいい。こんなの間違ってる。暫くすればこいつらも起きる。すぐに立ち去るんだ」


「ちょっと用があって隊長は持ち帰るけど別にいいよね?」


「は、はい…」


「恐かったね。もう大丈夫よ」


網を解き幼獣は親元の傍に寄り添う。だが白い獣は血が止まらず虫の息だ。


「どうしよう、このままじゃ出血が多くて死んじゃう」


「私の魔法だと応急処置が限界だわ。医者を呼んで」


「シン付いて来て。」


「ああ」


その後、俺とキラは医者を呼び、助けられたイルレシスの親子を町中に移動させロッドの働く牧場で面倒を見ることになった。密猟者の隊長を役所に連れて行き、話を聞くことにした。

ミスト=この世界での通貨。1ミストは日本円で11円。

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