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貪欲添加物

「皆、ちょっといいかしら。密猟者の話が本当だとすると、私達はどこに行くにしても龍人の姿を隠した方がいいと思うの。翼と尻尾は服に隠して」


「窮屈だがそうしよう。」


「角はどうするの?」


「尖獣族ヲ名乗レバイイ。」


尖獣族も同じく角を持ち龍人と姿形が似ている。とても数が多く、密猟者による需要は恐らく無いであろう。そして、長らく龍人族と関わりがある。大昔から友好関係にあり俺達の村に来ては物資の取引をし外部へ村の情報を流さなかった。信用でき頼もしい味方だ。


『おい、あれがそうじゃないか?』


見上げると灰色の巨大な石壁が並んでおり門らしき物が小さく視認出来る。


「ついに来たわね、あれをくぐれば」


「何があるんだろう。楽しみだね」


「門に人がいる。皆、姿を装え」


『やっと戻れる…』


シュウウウウウ…


全員翼と尾を隠し、門の前に姿を現す。門番は恐らく人間か。特に不信な表情はしていない。


「なぁ、右側の門番なんか寝てやがるぞ」


「緊張感の欠片も無い」


うまく誤魔化し暗い門を通り過ぎるとそこには大勢の色んな人種が闊歩していた。


「すごい。こんなにたくさん人がいるんだ。」


狭い道ですらこれでもかと人が詰まっており色々な会話が聞こえてくる。今まで少人数で暮らしてきた龍人にとっては不慣れな光景が広がる。


「地面が見えないな。はぐれるなよ」


半分程尖獣族が占めているが、見たこと無い人種も多数いた。木人や鳥人。液状で動く人型まで様々だ。


「痛ってぇー!誰だよ俺の足踏んだ奴!」


「俺ダ…」


「お前かよ!」


「ねぇあれを見て!もしかしてキラじゃない?」


ツーが指さす方を見ると一人の少女が大きな荷物を背負って歩いていた。


「懐かしい匂いが微かにする。きっとそうだ」


人ごみをかき分け、少女のもとへ一直線に向かう。


「やっほーキラ!」


「久しぶりね。この町にいたんだ」


「え!皆どうしたの!?外に出ちゃいけないはずじゃ…」


少女は振り向くと同時に目をパチクリさせ足が竦みそうになる。


「村から抜け出してきた。元気そうで何よりだ」


「5年の間に結構大きくなったな。」


「………」


「ロッド。ほらあんたも黙ってないで何か言おうよ」


「……………コンニチハ」


「相変わらずロッドはぎこちないな。久しぶりの再会だってのに」


「あはは。皆昔と変わらないなぁ」


キラは俺達と面識のある尖獣族の女の子だ。小さいころから交易に来る親に付いてきてよく遊んでいた。商談中に俺達が遊んでいた時も大人の監視付きで外の情報を聞くことは出来なかった。


「荷物を持つぜ。こんな自分よりでかいもんを運んで大変だな」


「ありがとう。今日は特別多くて」


「似合ってるぞアーマー」


「もう外のお話はしていいの?」


「思う存分にね」


「一旦目立たない場所に行きましょ。あそこがいいかな」


キラの指示で人通りの少ない橋の下に連れて来られた。とても静かな所だ。


「この町は平和だけど南の国は無政府状態になりかけてるだって。密猟者のせいでもう二千種類の生き物が絶滅してて指名手配犯もいるの。」


「俺らさ、途中で密猟者に遭遇して話を聞いたら世界の半分以上で戦争が起きてるって言ってたんだけど本当なのかい?」


「確かに半分以上の国で戦争が起きてるんだけど人口比で言えば大きく見積もって2割程度かな」


「ああ良かったわ。超戦乱の世の中かと思ってたけどそこまで酷くはないのね」


セレネが胸を撫で下ろす。とはいえ2割もなかなかの数だ。


「五年前からめっきり来なくなったけど何かあったの?」


「三百年に一度だけ訪れるっていう疫病が流行って私とお婆ちゃん以外皆死んじゃって、私は交易はやり方知らないし森は一人で行くと危険だって言うから運搬の仕事で生計を立ててたの。連絡出来なくてごめんね」


「なるほど、でも手紙くらい欲しかったな」


「手紙書いても破棄されるのがオチだわ」


「キ…キラ……チョット聞キタイコトガアル」


「なぁに?」


「何故…人間ガコノ町ニイルンダ。アイツラハ争イシカ生マナイ劣悪ナ種族ダト村の人ガ…」


「本来人間立ち入り禁止だけど混血だったり100%安全って分かれば住んでいいことになってるの。何かトラブルを起こしたってことも無いから安心して。まあ戦争してる国は人間主体っていう事実があるから多少懸念はあるけど」


「ソウカ…」


ここまでの話を聞くと情報を遮断する必要性があるのか疑問だ。東の都市でトラブルに巻き込まれる可能性は低いし他の地域が危険ならそもそも近づかない。せいぜい森の中で襲われるくらいしかリスクがない上人間如きに捕まるってのも考えにくい。


「あの、私達これから泊る所を探してるんだけど一番安い宿って分かるかな?」


「私の家の裏に大きなカメを飼ってた家があるんだけど、今は空き家になってるの。お掃除をすれば住めるし家具も余ったのを持ってくるわ」


キラの家は町の端にあり小さな川が流れていた。カメがいたという家は村長の家より大きく五人で住むにはもったいないくらいの佇まいだ。


「あー!!やっと翼が伸ばせる!!」


勢いよく翼を広げ、尾をピンと立たせる。


「ココニイタカメ…死因ハ老衰ダナ。カナリ長生キシタノカ」


「ロッド。良く分かったね!そうなの、八代もかけて育ててきたカメだったの。でも、どうして跡形もないのにそれを…」


「………ア……イヤ……」


「ロッドは魂や過去を見れるんだ。」


「人の心も読めるんだよ。セレネが喜ぶことばっかり言ったり俺の嫌いな食べ物全部知ってたり」


「昔ハ隠シテイタ……」


「うーん、気にしないで。そんなに緊張しなくていいよ。もっと気軽にね」


「さ、まずは掃除よ!男諸君は箒持って。」


「俺眠いよセレネ。ツーはもう寝てるし」


いつの間にかツーは干し草の上で気持ちよさそうに寝ている。皆一日起きっぱなしだからな。気づかぬ内に疲れが溜まっている。


「男でしょ。ほら」


しぶしぶ男性組は床掃除を始めセレネとキラは壁や天井の手入れをした。作業は想像以上に長引き終わった時には夕方になっていた。


「これで家具が揃えば完成ね」


「ありがとうキラ。何てお礼をしたらいいか」


「いいのいいの。困った時は皆で助け合うのが尖獣族のしきたりだから」


「なあキラ。一ついいか?」


「ん?」


「セレネとロッドは孰れ村に帰って子孫繁栄に勤しむんだが、俺とツーとアーマーは村に帰らないで子を作らず生涯を全うするつもりだ。よく村長には生き物の使命から逃げてる臆病者だと罵られた時もあるが、それでも俺達は子供を作らない予定だ。どう思う?」


「そうね。私はいいと思う。確かに、龍人の存続はよりか細くなるけど村長みたいに自分の価値観を押し付ける人は嫌い。こうなる前に対処しとけばいい話でシン達は悪くないよ」


「すまないな、こんな話をして」


「でも、悪い人には絶対捕まらないで。龍人は希少価値がAなの。見つけたら何が何でも捕まえようとしてくるよ。多分、剥製にされるか変態に売り飛ばされるか、もっと酷いことをされるかもしれない。この町と北極と天空大陸は大丈夫だけどそれ以外は密猟者で溢れてるから行っちゃ駄目だよ」


「なんだい希少価値って?」


「びっくりした!後ろから急に話しかけられると攻撃しそうになっちゃうわ」


「何で干し草食ってんだよ」


「ごめんごめん」


「もう、パンあげるから。希少価値は南の国が決めた珍しい生物のレベルのことなんだけど一番上がAで一番下がNまであってNは普通のそこらじゅうにいる生き物、Aは存在自体が怪しまれてたりする種類で一人又は一匹納品するだけで巨万の富が貰えるの。」


「俺達を見つけた時血眼になってたな。」


「たまに人間じゃない種族も密猟者だったりするの。会わないとは思うけど大斬族には注意して。人間とは比べ物にならないくらい身体能力が高くて集団で行動するからとても危険よ」


「そろそろ皆寝た方がいいかな」


「明日私がベッドを持ってくるよ。今日は悪いんだけど干し草で我慢して」


「全然平気よ。何から何まで、感謝してもし切れないわ」


「当たり前だよ。友達でしょ。今日はもう寝といてね」


「ふわーぁ。おやすみぃ」


数十分もすると俺以外は寝てしまった。自分は疲れているはずなのにいくら寝ようとしても寝付けなかった。理由は分からないが。


ツーはあれから一切起きずアーマーは干し草から転げ落ちて鼾をかいている。…セレネとロッドはかなりギリギリの体勢だな。まあ俺には関係無い。


夜の町へ散歩に行くことにした。今日も雪星が輝く。昼間の光景が嘘の様だ。ほとんど人がおらず虫の囀りしか響いていない。


あれは、キラじゃないか。また大きな荷物を抱えて…。


「手伝おうか?」


「シン!眠れないの?私の事はいいから休んでて」


「女が精一杯運んで男が手ぶらじゃおかしいだろ」


キラの荷物を代わりに持つ。俺の体重と同じくらいある。


「こんな時間まで働いて、いつ寝てるんだ?」


「おばあちゃんの薬はちょっと高いの。だからこれくらい働かないと買えなくて。」


「それくらい俺達が何とかするよ」


「いいよ。せっかく楽しもうとして外に出て来たのに私の労働を手伝わせるのは悪いわ」


「別に俺は楽しむってより開放されたくてここに来たんだ。村長や司祭の顔を拝まなくて済むならどんなことだって苦じゃねぇ。ここを真っ直ぐ行けばいいか?」


「うん…ありがとう」


翼を使うのはやめた方がいいか。町の大通りを歩いていく。すると左側の路地から徐々に光が差す。


「やけにあそこ光ってるな。少し赤い」


「待って!あれは光人が出す警報光よ!」


音を立てず近寄り物陰からこっそり覗くと光っている少年が男二人組に捕まっていた。片方は辺りを見渡しもう片方は少年を壁に叩きつけ口を押さえている。あの肩にあるマーク…森で会ったのと同じ密猟者か!


「馬鹿!光るんじゃねぇ!」


「いいか。怪我をしたくなかったら黙って捕まれ」


光人の目からは涙が零れ落ち、首に突き付けられたナイフは少しずつ食い込んでいた。


「どうして!?光人は希少価値がM。捕まえたって二束三文にもならないはず。それに、何で町中にいるのよ!」


「俺達が来た時門番が寝てたからな。治安の良さの裏をかかれたんだろう。キラ。荷物を頼む」


「え?」


「十秒で鎮める」


見張りが目を背けた瞬間、助走を付け猛スピードで激突する。


バゴンッ!!


「ぐっっ!!!」


見張りは気絶した。


「なっなんだこい、うおぉぉ!!」


残った一人の首を掴み光人から拘束の手が解かれた。


「お前は早く行け!消えろ!!犯罪者共め!!」


「わああああああ!!!」


密猟者二人を壁より遥か向こうへ思いっきり投げ飛ばした。後遺症が残る大怪我をするが死にはしないだろう。


キラは厳烈になったシンを見てただならない風格を感じていた。


「なんて力なの。昔やったかけっことか腕相撲は本気出してなかったの?」


「本気出したら殺しちまう。夜は外出ない方がいい。出る時は俺かアーマーでも誘ってくれ。」


「うん。あと、あくまで噂だけど、奴隷制度を再建した国があるって話があるの。」


「さっきの光人のような若い男なら十分な金で売れるかもしれないな。外道極まりねぇ。急ごう。とっとと終わらせてキラも休め」


「そうするわ。ここの角を右に曲がって黄色の屋根の倉庫があるから2って数字の木箱に入れれば仕事は終わり。」


妙に中身がトゲトゲしてて微妙に刺さる。中に何が入っているのか。まず一つの目標はキラの生活を安定させることだな。体も心配だ。明らかに栄養が行き届いていない。


パタッ



振り向くとキラが倒れていた。

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