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エスポワールの反抗期

雲の上まで聳え立つ巨大な山脈。


その山頂の一角で、老人の怒号が鳴り響く


「何故許可なく村から出た!!シン!!」


「うるせぇよ。こんな娯楽も何も無ぇ所、今すぐにでも出てやっていいんだぜ」


「民全員が大人になるまで村で過ごしてきた!何回掟を破れば気が済むんだ!」


さっきから怒鳴りまくってるのはペルム村長。とにかくうるさい老いた金龍だ。


「やめなはれじいさん。叱って通じる子じゃありません」


「お前…寝ていろと言ったであろう…」


部屋の奥から現れたのはニリル司祭。村長の妻であり銀龍である。力の無い体でフラフラしながら歩み、村長が支える。


「シン。頼む。お前を含めて若い龍人は5人しかおらん。儂らも未熟な時はどんなに里から出たかったことか。じゃが、状況が変わった。勝手に村を出ることだけはやめておくれ。外には密猟者、危険な生物がわんさかおる。もう少しの辛抱じゃ」


「…待てねぇよそんなもん。」


聞く耳を持たず、屋敷を後にした。


俺の名前はシン。黒龍人だ。


俺の種族はもう100人に満たない。殆どが老人で消滅の危機に瀕している。


だがそんなことは知ったこっちゃねぇ。外に出たい。俺は檻の中のペットじゃねぇんだ。


ガサガサッ


大きな草村が不自然に揺れる。


「ガオーーー!!」




「ツーか。驚かすなよ」


「驚いてないでしょ」


ツーは白龍の女の子。元気が取り柄のやんちゃ娘だ。


「またばれちゃったの?」


「あのじじぃ、俺より飛ぶのが速ぇ」


「また聞かせて。外のお話」


半月に一度は里を出て、見てきたものをツーや他の皆に話す。これが俺の日課だ。


「今日はあの日だったな」


「そう!五人で脱出の計画をする日!」


「おい。聞こえたらまずいぞ」




その夜。民が寝静まった頃、禁断の計画が始まった。


黒龍のシン。 白龍のツー。赤龍のセレネ。緑龍のアーマー。青龍ロッド。


この五人の若者が種族繁栄を担う最後の切り札。


次に若いのは五人の両親なわけだが皆老年期に突入した。


セレネはツーとは違い真面目な性格だ。風紀的な立ち位置にいる。


アーマーは体が大きくとても優しい。和ませ役か。


ロッド…こいつは何を考えているのか分からない。常にフードを被っておりかなりの無口だ。しかし人の話はちゃんと聞いている。


「あんたこれで何回捕まったの?村長がストレス死にしちゃうわ」


「別に死んだっていいだろ。あれだけ恨みを買って今日まで生きながらえてるのが不思議だ」


「あんなに強い結界を張れるのは村長だけなのよ」


「で、話を本題に戻すけど、決行は明日の夜でいいのね?」


「ああ。まず廃井戸を降りて俺が塞いだ岩を退ける。古代生物が掘った洞窟に出るから右の穴に進む。そしたら見通しの悪い森に出るから低空飛行して察知されないよう東に進む。そうすれば大都市が見えるはずだ」


「しばらく外を満喫したら私とロッドは戻るわ。近親婚ばかりになるけど、しょうがないわね」


「セレネとロッドは偉いね。」


俺には分からない。種を残すことはそんなに大事なのか?少なくとも、俺達が子を授かったとして、その子供は俺達以上に苦労するのが目に見えてる。絶滅したって何とも思わん。


「どうしたシン。浮かない顔をしてるな。」


アーマーがスープを飲みながら、俺に話しかける。


「俺は二人の考えが気に入らねぇ。何故自分から縛りを受け入れるのか。」


「冷たさは相変わらずね。自分のことしか考えないで、少しは村長達のことも考えて…」


すかさずロッドが手を(かざ)す。


「待テ、セレネ。シンノ言イ分モ一理アル。俺タチモ、言ッテシマエバタダノ自己満足、エゴダ」


「おぉ、ロッドが喋った!」


「…フン」


またセレネを不機嫌にさせたか。ロッドも何でこんな気難しそうな女子を好きになったのだろう。


「でもいいじゃんかぁ。シンにはツーがいて、ロッドにはセレネがいるけど俺には相手がいないんだぜぇ。」


「俺は子孫残す気が無いからツーと結婚しろよ」


「えーー」


嫌そうな顔をするツー。この際それでいいと思うんだけどな。


「ツーと俺じゃ釣り合わないよ。化け物が産まれちまうぜ」


アーマーは高らかに笑う。


次の日、全く怪しまれないように平然と暮らした。


俺は武器を鍛造し、ツーは装飾品を作り、アーマーは野菜果物を採集し、セレネは魔法を勉強し、ロッドは龍を育てる。いつも、そして最後の日常を送った。


夜はすぐに訪れ、民の目を避けながら村はずれの井戸に集まった五人。


もしかしたら誰かが来るかもしれないという恐怖がわずかにあった。


無言で井戸を降り岩を退かし洞窟に入る。済んでみればあっという間の時間だ。


「あーー緊張した。意外と何もなかったね」


ここまで来れば声を出しても大丈夫だろう。いくらあのじじぃでも寝てる時間はある。しかし急いだ方がいい。狭い洞窟を飛んで進んだ。


「あの虫何?」


「あれは搭虫だ。死んだばかりの生物に寄生して移動を繰り返して繁殖する」


「生物の本も禁止されてるんだよね。外に行きたい欲望を駆り立てられるっていう理由で」


そう。俺達はそれほどまでに外の世界を知らない。歪なんだよ、村のしきたりが。


「左ニ行クトドウナル?」


「行き止まりしか無いな」


「ちょっとアーマー。ランプもっと照らしなさい」


「セレネは灯りの魔法使えるんじゃなかったのかよ」


「体力消耗したくないのよ」


奥に微かに見える深緑。森が見えてきた。


「やったー出口だ!」


ランプを消し低木を抜ける。


少しだけ暗闇に慣れた時、それはいた。五人は一番見たくない物を見ていた。


「どこへ行くんじゃ?」


そこに待ち構えていたのは村長と側近二人だった。


「もうあんたに縛られるのは勘弁なんだよ。死んだ方がいいくらいだ」


「せめて俺を女に産んでくれたら考えたんだけどな」


「お願い村長。ほんの少しだけでいいの。私は必ず帰ってくるから」


「………」


「なんで、なんで私達を閉じ込めておきたいの?」



「たわけっっっ!!!!!」


怒号。でも、いつもの怒号では無い。本気だ。


「如何なる理由があろうとお前達を外には出さん」


「もう出てるけど…」


「刺激スルナ…」


「もしお望みなら都市で流行の物資を支給します。どうかお戻りを」


「外は危険だらけです。密猟者に襲われたら何をされるか分かりません」


側近の必死の説得。だが、五人は決意してしまっいる。


ビュオオオオオ


何の前触れもなく暴風が吹き荒れる。


「あのじじぃ魔法何種類使えるんだよ!」


「イヤ違ウ。他ノ仲間ノ匂いだ」


目も開けられない程に強い風が舞う。


その中心に一人降り立った。


「希望よ、ここから逃げるんだ」


あまり視界が良くないが、紫色の…龍人?今まで見たことが無い。


「早く行くんだ」


「誰だか知らないけど助かったよ!」


「あ、ありがとうございます!」


五人はすぐさま飛び立つ。


「あいつは、ギュヴォグ!?すでに死んだはず!」


「お前達は五人を追え。儂はこの馬鹿者を始末する」


側近二人は紫龍人の上を通過する。


「何故儂等の邪魔をする。ギュヴォグ」


「決まってんだろ。龍人を崩壊させるためだ!」


ゴゴゴゴゴゴゴッ


両者共に龍化し始める。


神々しい金龍と禍々しい紫龍。二体の巨大龍は睨み合い凄まじい迫力を放つ。


『お前は龍人の面汚しだ!絶対に生かさん!』


『偽善に飲まれた老いぼれが偉そうなこと言うんじゃねぇ!』


金龍と紫龍は巨体をぶつけ合う。


激しい戦闘の轟音は五人にも響いていた。


「嘘でしょ。村長が押されてる!?」


「セレネ。後ロヲ見ルナ。モット早ク飛ベ」


「なんとか助かったんだな」


「あの龍。すごく気持ち悪い」


金龍は輝く鱗を持ち威厳のある姿をしているが、紫の龍は体のあちこちで骨が露出し血液か髄液ともつかない液体を垂れ流している。


紫龍が金龍を押し倒す。金龍の甲殻は10mを超す爪に圧迫されメキメキと軋む。


『ウグアアァァアアァ!!!』


『どうした。俺を殺らなきゃ龍人は滅びるぜ』


「ペルム様!やはり我らも加勢します!」


側近が村長の元へ戻り攻撃にさしかかろうとしたその瞬間


バサッ


『ヒュルルルル!』


銀龍が紫龍の喉笛に喰らい付いた。


『ヴゴォォォォォウ!!!』


裂ける肉と砕ける骨の音と共に不気味な咆哮が広がる。


「ニリル様!何故ここに!」


ガンッ!ズガン!!


銀龍は紫龍に噛み付き返され投げ飛ばされた。


『やってくれるじゃねぇか…首がいかれそうだぜ…』


「今だ!奴を抑えろ!」


側近も龍化し、金龍も体勢を戻した。


『あばよ。厄災に愛されて滅びろ』


流石に三体の龍では歯が立たないと思ったのか、紫龍は毒ガスを撒き散らしながら飛び去った。


「申し訳ありません。ですが、あなたがいなければ村はますます存続出来なくなります」


「いいんだ…何としてでも、探し…出すん…だ」


「ペルム様!気を確かに。クソッ!ニリル様も連れて村に帰るぞ。」


「ああ。五人は東に向かったな。しかし何ということだ。ギュヴォグが生きているとは。まさか、子供たちを殺すつもりでは」


「いや、そうだとしたらここでしているだろう。認めたくないが、奴が存命してる龍人では最強だからだ」


「ともかくペルム様とニリル様の容態が心配だ。」


謎の龍人に助けられた五人。一方、外の世界では大きな危機に直面していた。


無知な未熟者達は非情な現実を叩きつけられることとなる。

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