《7》採取藩
翌朝、といっても太陽がなくいつも暗いため、あまり実感がない。
朝起きたら全部夢でした。
みたいな感じだったら、何も考えず、それでいいのに。寝ることがそもそもできないので、叶わぬ願いだ。
「採取藩、出るぞ。」
ガリルさんの声だった。一番早く起きてきたようだ。ガリルさんの声でのそのそと起きてくる男達。
採取藩ということは出かけるのだろうか。見ると、ガリルさんの他に二人がすでに準備を始めている。
俺はガリルさんのそばにいって、自分をアピールした。
「お前も来るか?この際だし、外のことについていろいろと教えたいんだが?」
俺は大きくうなずいた。ガリルさんはそれを確認すると、自分の準備に戻っていった。
日本とはかけ離れたこの世界に少しでも慣れなければ。
「んじゃ。採取藩いってくるぞ。」
「おう、無事に帰ろよ。」
「この前みてえなへまはしないようせいぜい努めろよ。」
「うるせー。んなことわかっとるわ!」
前回の猫の襲撃で怪我をした、スレイさんも一応出れるようにはなったらしい。
俺も前みたいなことはないよう、覚悟を決めなきゃいけない。しかし、やはり動物を殺すのには抵抗がある。この世界で生きていくために、適応していかないといけない。
ガリルさんを先頭に、採取藩はどんどん進んでいく。
俺は後ろから二番目で、前から二番目だ。
出発してから少ししたところで、俺を背負っていくといい、俺をリュックサックのようなカバンに詰め込んで背負い、腰をやってしまったスレイさんはガリルさんに背負われている。
俺の後ろ、つまり一番後ろの大柄の人はダグラスというらしい。
細身のスレイさんと並ぶと、ダイエット番組の最初と後みたいで面白かった。
ダグラスさんはあまりしゃべらないが、それでも仲間とコミュニケーションは取れているようだ。
少しずつ、進んでいくと一番前のガリルさんが合図を送った。
ダグラスさんが止まったので俺も慌てて止まる。
すると、だんだん地響きが聞こえてきた。とても大きな足音のような、その音はある程度近づいたら、だんだん遠ざかっていく。
なぜわかったのか不思議そうにしていたら、ガリルさんがその様子に気づいたようで、解説をしてくれた。
「今のが俺のスキルだ。『危機感知Ⅱ』といって、まあその名の通り危険を感知できるスキルだ。門番などの兵士も持っているような一般的なスキルだが、俺のはⅡだから、危険の内容までわかるんだ。」
「親方、何でいきなり説明を・・・あぁ、スライム君用か。俺が持っているスキルは『逃げ足Ⅰ』ってやつだ。笑うなよ。俺も好きでこのスキルもらったんじゃないんだから。ちなみにダグラスが持っているのは、『抵抗Ⅱ』ってやつだ。いっちょまえにⅡのスキルを持ってやがる。ちなみに親方はもう一個スキルを持ってるぞ。」
「・・・。」
と、スレイさんはダグラスさんのスキルまで教えてくれた。
会って一日の相手にそこまで教えてくれていいものなのか分からないが、スキルを獲得できるのは抽選だということは分かった。
ガリルさんはスキルを二つ持っているそうだし、俺がスキル二個持ちというのも案外珍しい訳じゃないのかもしれない。相変わらず『粘着』の使い道は不明だが。
それにしてもガリルさんが立ち止まる頻度が高く、その度に大きな足音が聞こえる。
ダンジョン・・・。
ガリルさんはダンジョン送りにされたといっていた。
日本でいう、昔の島流しみたいなものだとおもう。
だが、あの猫やそれに準ずるものがたくさんいる場所。ガリルさんやこの仲間達のような人達でないと生き残ることすら、不可能だろう。
ガリルさんは、そんな重罪になるような人物には見えないのだが・・・。
「着いたぞ。ここなら安全だ。ほらお前ももう歩けるだろ。自分で歩け。」
そこは一つの大きな部屋のようになっている場所で、奥の方には植物が岩の間から生えていた。
ガリルさんがスレイさんをおろすと、ダグラスさんも背負っていたリュックサックをその場におろした。
大きなリュックサックには植物を刈るようの鎌や鍋、等が入っていた。
ガリルさんはその場にランタンを置くと袋だけをもってどこかへ行ってしまった。
「さて、スライム君。今から、食料や薬草になる植物をとるから準備してくれ。」
俺に声をかけたのは、スレイさんだ。すでに鎌を持っていて、見事な手さばきで草を刈っていく。
俺も鎌を取りに行こうと、ダグラスさんの方へ行くと、ダグラスさんは火を起こす準備をしていた。
俺とスレイさんで、草をとるのが終わる頃には、ガリルさんが帰ってきていた。
袋には手のひらより少し大きいぐらいの蜥蜴が満タンに入っていて、中身を見せてもらったが、ものすごく気分が悪くなる系だった。
「スライム君。ここからが見所だ。親方をよくみてな。」
突然スレイさんが話しかけてきた。見たところガリルさんに変化はないが。
ガリルさんはこちらを一回見て恥ずかしそうに頬をかくと、集めた木に向き合って何かを唱えた。
すると、ガリルさんがつきだしていた右手の上に炎が生まれた。
ガリルさんの手が動くと炎も動く。
驚いてポカーンとしている俺を見るとスレイさんが説明をしてくれた。
「親方、ガリルさんは魔法戦士なのさ。スキルの力で、3種類の属性魔法が使えるんだ。ちなみに魔法は覚えれば使えるが、親方のは、スキルによっての魔法だ。」
魔法があることに驚きだが、それ以上に、ガリルさんが魔法を使えると言うことに驚いた。
魔法があるなんてますますファンタジーになってきたかと思わせられる。
「ほら、さっさと草をいれていってくれ。早く茹でないとその植物枯れちゃうんだよ。」
俺は慌てて、ダグラスさんが用意してくれた鍋に入れていく。ガリルさんは枯れ木を拾っていたが、途中から、蜥蜴の内臓をとるのを始めていた。
「こんなもんあれば大丈夫か。親方、そろそろ帰りますよ。」
草を、熱湯から出したスレイさんが声をかける。
その声で、ガリルさんとダグラスさんも方付けを始めた。
帰り道、行きと同じ順番で並んで帰っていた。
すると突然、一番前のガリルさんが慌てて合図をする、しかしその合図は間に合わなかったのだろう。
目の前にいる3メートルほどの怪人はゆっくりとこちらを見たのだから。
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