《6》引っ越し
拠点に帰ってきた、俺たちに先に帰ってきていた人たちは一斉に結果を聞いてきた。
とどめはさせなかったが気はそらしてきたとガリルさんが報告すると全員ほっとした様子で怪我人の処置に戻った。
俺にはとどめはさせなかった、という言葉に責任を感じていた。
ガリルさんが投げたあの袋。
最初に投げなかったところを見ると最終兵器のようなものだったのだろう。そう考えると責任感はさらに重くのし掛かってくるのだった。
「怪我人の応急処置がすみ次第必要なものを持って、移動するぞ。各自準備しろ!」
拠点がどんどん解体されていくのを見ると、あのときナイフを刺せればこんなことにはならなかったと思えてきて、胸が苦しかった。俺は用意することもないので、その光景をただ見つめていた。
ガリルさんがこちらを一度見たが何も言わず自分の支度をしに行ってしまった。
しばらくすると、拠点はすっかり消えて、石造りの廊下の行き止まりが残った。
最後に粉を振りかけて、自分達の匂いを消している。その光景を回りの人たちは黙って見守っていた。
しばらく歩いただろうか。
前の拠点に比べて一回り大きい行き止まりを見つけたため、そこに新しい拠点を作ることにした。
男達の動きは速くもうなれているようだった。俺も手伝ったが、てきぱきと動けるものではなかった。
今日はここで休むということになった。
晩御飯として、薄味のスープと硬いパン、でかい蜥蜴の焼いたものが支給されて俺以外の5人全員が集まりわいわいと食べていた。
俺は食べ物をみても食べたいと思わなくなっていた。
もう俺の体は人間のではなくなっていることを改めて感じた。
各自軽いしきりで分けられた部屋で寝る準備をしている。
俺は寝たいとは思わなかったし、それが自分にとって必要ではないこともわかっていた。
松明を消すと壁に生える苔が放つ光だけになり辺りは一気に暗くなった。
俺は外に出て見張りをしていた。
時おり闇の中に光小さな目が見えたりしていた。
「あれはナイトリザード。主に夜に行動する、でかい蜥蜴だ。」
声の主は顔を見ずともわかった。
「お前、本当に人間みたいなモンスターだな。」
声の主、ガリルさんは笑いながらこちらの顔を覗きこんだ。
ガリルさんは俺のとなりに腰かけると、ナイフを取りだし磨き始めた。
「俺はさ、昔国軍のひとつの部隊を任されていたいわゆる隊長だったんだよ。」
ガリルさんは真剣な顔で語り出した。
「二十人くらいの小さな部隊だったけどよ。大事な仲間達だった。俺が国王のところへ意見しにいったときも俺を慕ってついてきてくれた。」
今はもう戻らない自分の過去を話すように、ゆっくりと。
「だけど、俺じゃダメだったんだな。そんなこんなで残ったやつらはもうこんだけしかいねぇ。こいつらもあのとき、俺について来て、あんなダンジョン送りにされるようなことしなければもっとちゃんとした人生送れたのにな」
仲間達がいなくなったということはそういうことだろう。
この国は命というものを見る目が、日本とは全然違うということをはっきりと感じた。
「お前が何でこんなところにいるのかは知らないが、お前、あんまり責任とか感じるなよ。」
ガリルさんは俺の心を見透かしているようだった。
「こんなおっさんの昔話に付き合わせて悪かったな。見張りも大事だが、ここにはあの猫位のやつらがうようよいる。くれぐれも気を付けるんだな。」
と、さらっと怖いことをいって、拠点に帰っていった。
ガリルさんの話はいろいろと感じることがあったが、俺の心は少し落ち着きを取り戻していた。
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