《3》状態変化
何時間経っただろうか、しばらくすると俺は袋から出された。
そして落とされる。深い穴の中へ。
ボチャッ
どうやら水の上に落ちたようだ。
水面に写った自分の姿がよく見える。
そう、鉄の塊が。
拳より一回り大きいぐらいの、角がとれた立方体。輝く鉄には、申し訳ない程度の黒い点が2つ。
俺の視線に合わせてキョロキョロ動く。
恐らく目だろう。
やっぱり予想違いなんかではなかった。
俺はスライムメタルとかいう鉄の塊になってしまったようだ。
何がなんだか分からないがひとまず置いておいて、考える。
次、どうしよう。
動けないのだ、一歩も。
スライムメタルだかになったところで生きているが、このまま動けなければいずれ死んでしまうだろう。
しかし、鉄の体はびくともしない。
その場で跳び跳ねてみたり、転がろうとしてみるが体は重すぎて動きそうにない。
ぐにゃぐにゃとなればまだいろいろと出来るだろうに。
こう、なんかドロッと溶けて・・・
『スキル《状態変化》を使用しますか?』
うお!?
いきなりでビックリした。
えっ?状態変化?何それ。スキルってゲームですか?
・・・でも、とりあえずやってみないと分からない。
それにこのままなにもしないよりはまだいい。
決心をつけた俺はこころの中で強く唱える
(はい!)
・・・・。
しかし何も起こらなかった。
おい。なんだそりゃ。
(イエス!)(実行!)(スキル発動!)
だが特に体が変わるようすはなし。
しばらく考えて、ひとつ考える。
・・・まさか、状態を指定すればいけるのか?
(液体)
ドロッ。
おお!いけた!
なんか、大の字でうつ伏せで倒れているような感覚だが成功だろう。
ズルズル。
そして動ける!
テンションが高くなってしまったが、これはしょうがないだろう。
そこそこ速く、一歩前進したと言えるだろう。
やっとできるようになった移動をしつつ考える。
先ほど発動したスキルとはなんなのか。
そのテの小説なら・・・。
(ステータスオープン)
《ステータス》
種族:ハイ・スライムメタル
HP:9/15
攻:E
守:B
魔:E
速:C
耐:C
スキル:状態変化Ⅰ 粘着
もしかしたらと思ってやってみたはいいけど、ゲームみたいだな。
こういう小説はみたことある。
主人公がチートして無双してた。
でも、これはそれじゃないだろう。
チート系主人公は体の動かしかたで悩んだりしない。
っていうか、このステータスが文字の通りなら、やっぱりアイツだな。
「守」ってのは守りで、「速」ていうの速さだろう。
あの兵が言っていたのが本当ならば、経験値をたくさん落とす、固くて速いヤツ。
もう、お分かりだろうか。
やられ役だっ!
経験値でステータスが上がるのならば、俺は狙われるだろう。
というか、ペット用にって言われてここに来たのだが、ペットとやらがまだ見当たらない。
先ほどの自称国王が言っていた単語で気になったものがあった。
(「モンスター」。)
俺の嫌な予感がフル稼働する。
「みゃーお」
後ろをつい見てしまう。
背後に立つ異様な気配の正体を知ってしまった。
4メートルはあるかと思わせる巨大な体。
とんがった耳はもはや絨毯のようだ。
圧倒的な威圧感を放つその猫の首輪には『ミーちゃん』とかかれたネームタグが付いている。
殺気を感じ、跳ぶ。
ズシン。
先ほどまでいたところに巨大な肉球が。
水しぶきが起き、地面がめくれあがる。
必死に逃げ惑うなかで、俺はずっと考えていた。
(もう少しあってる名前あっただろ・・・っ!)
※※※※※
ヤツはどこかへ行った。
俺を襲ったのも、ほんの気まぐれだったのかもしれない。
思ったよりも逃げられるものなのだ人間は。俺、もう人間じゃないけど。
いつの間にか通路に入っていた。
古い遺跡のようにも見えるがいったいどこなんだここは。
とりあえずそこの角を曲がったところで休むか。
「うお!?」
(おう!?)
現れたのは人間だ。
二十代後半ぐらいの鎧を来た男と角でばったりでくわした。
「おおお、スライムメタル・・・違う!ハイ・スライムメタル!?」
俺を見ていきなり大声を出す男。
仲間なのかぞろぞろと人が集まってきた。皆、男だ。
「マジじゃねえか!」
「おい早く捕まえろ!逃げられるぞ!」
武器を手に取りじりじりと歩み寄ってくる。
殺される。そう確信した瞬間だった。
「おい!止めねえか、みっともねぇ。こんなところで大声出すな、見つかるぞ。」
髭が濃いおっさんが叫び、男達の歩みが止まる。
おっさんはこっちに歩いてきて言った
「ほら、ちゃんと家に帰るんだ。こんなやつらに捕まるなよ。」
なんだ優しいおっさんじゃないか。
このおっさん達の、まとめ役だろうか。
顔で人を判断するのはよくない。
「すいません。親方、ハイ・スライムメタルなんて珍しくて。でも、確かにこんなところで経験値を手にいれてもなあ。」
確かに何でこの人達はここにいるんだろう。
あとさっき、おっさんが、見つかるぞといっていたのをみるとさっきの猫だよなあ。
ここにも来るのか。
逃げ切れたと思ったのに。
「親方、このスライム帰らないですけど。」
「俺たちの仲間になりたいんじゃないのか?」
考えごとをしていたら、勘違いされていた。
でも、よく考えるとそれはこっちにとっても都合がいい。
ここのことをある程度知っているようだし。
「お前、俺たちについてくるのか?」
おっさんの言葉に俺は大きく頷き返した。
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