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賢者が獣耳娘に転生して、前世で弟子入り志願してきた少年の弟子になるお話

作者: 笹 塔五郎

 いつも通りの朝が来た。

 少女――アルサはむくりとベッドから起き上がると、そのまま再びベッドに横になる。

 山奥にある木造の小屋――人気のないここが、彼女の家であった。

 アルサは一人、ここで生活をしている。


(あと、一時間はゆっくりしよ……)


 これが彼女の生活のサイクルであり、いつも通りのことであった。

 頭から生える動物の耳と、腰のあたりから生える尻尾。

 白色の毛並みのそれが、時折ふわりと動きを見せる。

 《獣人族》であるアルサには姓がなく、幼い頃の記憶もうっすらとしかない。

 その代わり、彼女に色濃く残るのは前世の記憶だった。

 かつて《賢者》と呼ばれる 、魔法を極めた者の一人と呼ばれた男の記憶――来世で記憶が甦るのなら、それは転生という事象だろうとアルサは冷静に解釈した。

 そして、慌てるようなこともしない――賢者として記憶が、今の彼女としての人格を作り上げたのだから。


(獣人は本来、《魔法》を得意としない種族だが……魔力は魂と関わりが深いもの……。記憶もそれに繋がっているからこそ、私の魔力は前世の状態とほぼ変わりはない)


 つまり、アルサには前世の記憶と共に、前世と同じレベルの魔力量を保持していることになる。

 その上若い身体――性別は変わってしまったが、今のアルサが特に気にするようなレベルではなかった。

 記憶を取り戻してからかなり経過している……今更気にするようなことでもない。


(今日は午後から魔法の研究でもするか……。ふふっ、一日を有意義に使えるというのもいいものだな)


 時間に余裕のある生活――それが、アルサにとって何よりもありがたいものだった。

 より自身が魔導師として高みにたどり着くことができるのだ、と。

 もちろん、あくまで自らの探求心のため。誰かのためだとか、アルサはそういうことは考えていない。


(前世のことはちょっとした好奇心だった……失敗だったがな)


 アルサはそんな風に、ベッドの上でかつての記憶を思い出す。

 《魔神》という、魔法そのもののような存在と相対したこと。

 それは頼まれて、というよりも、自らの力を試したかったというのもある。

 結果として、アルサの前世である《賢者》は《魔神》と相討ちになった。

 多くの人々は救われ、アルサの前世もまた英雄として讃えられることになる。


(だが、そんなことは私には関係ないことだ……。死んだらそれで終わりだったのだからな……ふふっ、まさに不幸中の幸いと言える)


 ごろりと寝返りを打って、アルサはまた眠りにつこうとする。


(……しかし、やけに私に話しかけてきたあの子供は、今どうしているだろうか。弟子にしてほしいなどと……私が弟子を取るわけなどないだろう)


 ふと、アルサは思い出す。

 魔神との戦いの前に、一人の少年と知り合った。

 少年の名はガリウス・レンサー。かつて《賢者》と呼ばれた者を親に持っていたそうだが、ガリウス本人にはそこまでの才能はない――アルサにはそう思えた。

 それでも魔導師としての実力は高く、魔神と戦うためのメンバーに子供ながらに選ばれていたのだが……。


(かれこれ二十年くらい前か……? 生きているなら三十代を超えるくらいか。まあ、私には関係のないことだが)

「アルサ、アルサはいるか!?」

(そうそう、丁度こういう感じの――)

「君がアルサか!?」

「――っ!? だ、誰だ!?」


 耳元で不意に声をかけられて、驚きのあまりベッドから飛び上がる。

 耳と尻尾の毛も思わず逆立ってしまい、アルサはとっさにそれを隠した。

 男が窓越しから、アルサを見ている。

 その姿を見るなり目を輝かせて、


「おお、君がアルサか! ははっ、本当に可愛らしい女の子じゃないか!」

「な、ななな……? だ、誰だと聞いている……!? 人の家に勝手に!」

「ああ、すまない。僕は王都の魔法学校で教師をしているガリウス・レンサーと言ってね。丁度仕事でこの地方にやってきていたのだが……随分と魔法に詳しい獣人の女の子がいるという噂を聞いてね。是非、話を聞いてみたかったんだ!」

「魔法学校……? ガリウス――ん、ガリウス・レンサー……!?」

「お、僕の名前を知っているかい? ははっ、まあ仮にも《賢者》の一人と呼ばれているくらいだからね」

「い、いや、別に知らな――って、賢者だとぉ!?」


 冷静沈着なアルサも、驚くことが立て続くと冷静ではいられなかった。


 目の前にいるのは、かつてアルサに弟子入りを志願してきた少年と同姓同名。そして、現賢者の一人であるという。

 賢者と呼ばれる者は複数いるが、それでも多くの人々に認められる功績がなければなることはできない。

 あの少年がなれるとは思えなかったが……目の前にいる男にはその面影があった。


(金髪……年齢を考えれば若く見えるが、面影はあるな。賢者……賢者だと? それなら私と同じかそれより若く賢者になったということじゃないのか……!?)


 色んな意味で衝撃だった。

 アルサは魔法の天才を自負する。周囲に自慢するようなことはしないが、もちろんのことプライドというものがある。


「ははっ、まあ僕が賢者に見えなくもないのは分かるよ。よく言われるからね。実は君みたいにまだ若くて優秀な子がいると聞くとね。一先ず学校で色々学んでみないか――なんて誘ったりもしているんだが……」

「学校だと? 私がお前の学校に、か?」

「僕も雇われてる身だから、僕の学校ではないけどね。もちろん、話だけさ。しばらくここらに滞在する予定だからよければ――」

「はっ、冗談を言うな。何故、私が学校などに行かねばならない」

「ん、何故って……学校なら色々学べることがあるからさ。こんなところにいるよりも、君みたいに優秀な子なら――」

「お前に私の何が分かる。ましてやお前に教えてもらうようなことなどあるはずもない……」

「そんなのやってみないと分からないだろ?」

「分かるとも。何だったら、私と勝負してみるか? 魔法で私の上をいくと言うのなら、お前に教わってやってもいいが」


 アルサは上から目線でそう宣言する。

 かつてのガリウスの実力を考えれば、成長していたとしてもアルサが負けるはずはない。

 そう考えてのことだ。

 それに対して、


「お、いいじゃないか。僕はそういうのは好きだよ。じゃあ、僕が勝ったら今日から君が僕の弟子ということで!」

「……舐めたことを。では、お前が負けたらこの山には二度と近づくな」

「もちろん、それで構わないよ」


 ガリウスの答えを聞いて、にやりと笑みを浮かべるアルサ。

 そこから、二人の死闘が始まる――数十分後、もの見事に敗北することになる。

 アルサの予想を遥かに超えて、ガリウスが強くなっていたのだ。


「これで今日から君は僕の弟子……ということでいいのかな?」

「ぐ、ぬぬ……」


 なにも言い返すことのできないアルサは無事、ガリウスに弟子入りするのことになるのであった。

偉そうなTS獣耳娘ちゃんが負けて弟子入りさせられるお話が見たくて書きました。

このあとの展開としては学校に連れていかれて魔法よりも私生活について色々注意されながらもきっと成長してくれるだろうと思います!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白いです。続き、続きを下さい。
[一言] 凄く面白い。ぜひ学校編を書いてください。
[一言] 面白かったです
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