偽装なのか本気なのか
12組の『瞬間移動を疑似体験しよう!』でオレがやること自体は、簡単。
オレは、近辺で何らかのACTを発動したクラスメイト達に乗じる形で、クラスメイト達が総出で作成したACT余波集約装置を携帯し、『絶対領域』を起動。体験希望者を『絶対領域』に取り込み、廊下に出て走り始めるだけ、という言葉にすると実に簡単な内容だ。
『絶対領域』内では、大抵の物理法則はオレの意のままになる。そのため、ただ走るだけで、0・1秒もかけずに廊下の端から端まで、およそ50メートルを跳躍する疑似的な瞬間移動となり得る。
こうして説明すると移動に便利なACTをアピールするというイメージだが、クラスメイトの、と言うよりはこのアイディアを提起したクラス委員長を務める工藤佳苗の真の狙いは、仰木縁が先程言ったように、ACT使用者人口の拡大だろう。
そう考えると、今、オレの隣で「次のお客様はもうちょっと待って下さいね、あと1分ほどしたら準備が整いますのでー」と営業スマイルを振りまく工藤佳苗は、ACTの才には乏しいのだろうが、戦略的な思考に長けていると言える。
この仮定が正しければ、工藤佳苗はACTの能力をあえて低く見せているだけの、潜入工作員の可能性を考慮しておくべきだろう。潜入工作員だったとしても、こちらに実害が無ければ構わんが、無害な生徒だと思い込んでいては、いざという時に身動きが取れなくなる。
故に、ある程度の余力は残したいし、オレの限界点を低く見せておくべき。
オレは両膝に手を当て、肩で息をしつつ、頬を流れる汗を拭う余力も残されていないよう、息もあえて乱れ切っているようにふるまって見せた。
「くどう、さん……たの、む……もう、むり」
休憩時間を5分ずつ挟んだとはいえ、午前8時から開始された学校祭で、11時までおよそ30回も『絶対領域』を起動させたのだから、いくら『秦啓一』がACTに関するスタミナをあげていたとしても、ここで『もう限界』と訴えるのは、全くおかしなことではないはず。
なのに、工藤佳苗は渋い面持ちで腕組み。
乱れた息を整えられないオレを見下ろし、
「むー、秦君もっと頑張れるでしょ。お客さん、待ってるんだし。あ、大丈夫ですよお客さん、もう少しで準備整いますんでー」
……コ、コイツ……確かに今のオレの振る舞いは演技なのだが、実際に相当な疲れは感じているんだぞ?!
オレの限界点を探るための偽装か、本心から接客魂を発露させているのか、今は判別できないが―
「お、に……」
『秦啓一』ならば、もっと早い段階で音をあげているのだから、この主張は決して間違ってはいないはず。
「なぁ委員長。俺達は全員で交代してACTを発動させるだけでいいから負担は少ないが、あの疑似的な瞬間移動は啓一にしか出来ないから、負担がめちゃくちゃあるはずだぜ。これだけ頑張ってるんだしよぉ、お客さんには悪りぃけど」
「お客さんは、神様っ!」
見かねた大滝が工藤佳苗に意見したが、彼女はその愛嬌のある丸顔をやや赤らめ、クワッと目を見開いて大滝を威嚇。
その迫力に大滝も後退りしたが、最後の抵抗として仰木縁を横目で見ることで助けを求めた。
仰木縁は苦笑しつつ工藤佳苗に歩み寄り、その肩を叩く。
「工藤さん。学祭でケガ人が出るかもしれないことは、さすがに許容出来ないわ。待ってくれているお客さんには申し訳ないけど、私から事情を説明するから、彼を休ませてあげなさい」
「うっ……わ、わかりました。秦君、ゴメンね、無理させて」
オレはゼェゼェと息を継ぎつつ、右手だけあげることで了解の意を示し、背を丸めた疲労困憊の体で教室を出た。




