噴出する怒り
「凜のACTによるものか、あるいは柳雄平の手によるものか、本物の『酒井玲於奈』によるものかは断定できないけれど……その身体が『柳雄平』のものであることだけは、貴方も否定できないでしょう」
「……以前にも説明したと思うが」
「事実を隠しているのは貴方でしょう。ACTによる改変は、基本的に永続しない。私を例に出せば、熱量操作を用いて生み出した氷は、効果が切れれば溶ける。そして、氷を作るために奪われた熱量は、どこかに放出しなければならない」
津田香は伏せていた顔は上げずに、視線だけを上げてこちらを見据えてくる。
「今の貴方は最善で、ACTの揺り戻し前である『バックファイア』が発生する前の段階。最悪で、すでにその意識は『柳雄平』に変わっている。
こんなリスクを承知の上で、凜を守るという名目のもと、全ての手札を曝け出せる訳がないでしょう。少なくとも、あの時、あの場にいた『秦啓一』なら、私が貴方を疑う理由に納得すると思うのだけど」
……ここでも貴様が邪魔をするか、『秦啓一』……!
何故、謀略に生きてきて、保身のためであれば他者を切り捨てることを躊躇しない津田香にすら、疑う理由に納得するはず、と疑われながらもある種の信用を得ている?!
どうする? 考えろ。忌々しいが奴ならば、『秦啓一』ならば何と切り返す?
オレはバリバリと頭を掻きつつ、不機嫌そうな面持ちで腕組をし、ソファに腰を下ろした。
「……その可能性、もっと早くに気付いて欲しかったな。そうすれば、加藤さんへの負担を減らせた」
「ウソね。貴方は、私の能力や性格を信頼はしても、加藤さんのように信用はしない」
「よくわかっているじゃないか。俺は、津田さんの能力と性格を信頼しているから、いざとなれば俺を切り捨てられると踏んでいるから、もっと早く気づいて欲しかったのさ。何故って聞くなよ。俺は君が言ったように、信頼はしても、加藤さんのように信用はできないんだ」
視線を眼前の小柄な少女から切り、明日の方向へ視線を向ける。
「加藤さんにその辺りをやらせるには、忍びないしな」
「……加藤さんと同い年の私には、汚れ仕事を押し付けても良い訳?」
「そりゃそうだ。加藤さんと違って、君の中では、多分槇原君が1番で、2番が白鷺さん、3番目が自分って優先順位が確立しているだろう? 4番以下はいつでも切り捨てる覚悟を、君は固めているだろうし、槇原君を救うので精一杯という最悪のケースなら、2番以下も切り捨てるだろう、君は。その在り方の是非は問わない」
オレは、『秦啓一』としてではなく、オレ自身の胸の奥にしまい込んでいた、マグマのように鬱屈としていた想いを眼前の女にブチ撒けた。
「ただ、オレはそんなアンタが嫌いだから、事実だけを言ってやる。アンタがそんなだったから、あんなことになったんだ。
そうでなければ、会ってたかだが1カ月や2カ月の人間に、白鷺さんがあそこまで縋る訳が無い」
『秦啓一』であれば、そうぜざるを得なかった津田香に同情し、あるいは津田香の長所を引き出すにはどうすべきかと考えたかもしれないが―そんなの、知るか。
八つ当たりであるのは百も承知。そもそも『正化』の秦啓一を殺したのは、俺なのだから。




