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フェイカー  作者: 那上畑 潤
Because, you don’t understand yourself
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事務的な提案

 津田さんは、一言で言うと明るい女の子だ。


 だがゆりっぺのように、隠し事が下手なようには思えない。


 俺自身、学生時代は悲観的な思考の持ち主だったから、明るく、親しみやすいタイプの女性は大いに魅力的に見える……はずなのだが……陰謀が渦巻くこの学校で、逆にいつもニコニコしていると、その笑みの下に何が隠されているのかと警戒してしまう。


 だから、何気ない話題の一つであっても、中々言葉にできない。


「津田さん、休日は何をして過ごしているんだい?」


 スゲェ無難に、ともすれば異性として意識しているのではないか、と思われるような質問がこの口から出てきたことに、俺自身が驚いた。


 35年生きていて、女性に『休日は何をして過ごしている』なんて、言ったことないな、俺……そりゃ彼女が出来る訳も無い、とブルーな気持ちに、


「お休みの日? ACTの練習するのが多いかな」

「どんな内容のACTなんですかね?」


 今度は俺のトレーから小魚とアーモンドを奪おうとしたので、左手で反射的にブロック。


「…………」


 津田さんは笑顔で沈黙。先を聞きたければ、この小魚とアーモンドを譲れ、ということか。


 ため息をついて、小袋入りの小魚とアーモンドを差し出すと、うわーいアリガト、と拍手しながらアーモンドを頬張り出す。


「んぐんぐ、牛乳もあったら欲しいところだけど、そうそう、ACTだけどね、普段は全然やらないACTをやってみるよ。重力の操作とか」

「出来るんですか?」

「出来なーいー! 機械で計測すれば、あたしの周囲がほんのちょっぴり重力が増すけど、重さが自覚出来るレベルじゃないの」


 やろうとしていることが出来なかったら少しは悲観的になりそうなものだが、口調や会話の内容からは全く悲壮感が感じられない。


「だから、ケイ君には大いに期待しているのだ! あたしが出来ない物理法則の改変とか、凄い得意そうだし」

「津田さんが得意なACTは、物質の構成改変、及び物質の運動制御ですね。中でも熱量操作と、アカシックレコードで創造された物体の運動制御は、3年生を含めた全校でも、トップではないかと思われます」


 白鷺さんは鞄の中から薄型のノートパソコンを取り出すと操作を開始し、こちらに液晶画面を向ける。


 画面には津田さんと、恐らくは実技試験の対戦者と思われる相手が映し出されていた。


 審判が開始の合図をした瞬間、津田さんの周囲に夥しい数の氷塊が出現する。


「ちょ、コレってCGじゃないよね?!」


 思わずそう言ったのは、審判が開始の合図を言ってから1秒もしないで大きさ、厚さ、共に10センチ以上はある氷塊が100個以上は確実に作り出されたからだ。


「この他に、相手の背後と左右を取り囲む形で、ほぼ同数の氷塊が四方に作られています」


 パソコンのキーボードを操作すると、白鷺さんの言葉がウソではないことを証明するように、津田さんを360度、どこのアングルからも見られるよう視点が切り替わるが、どこの視点から見ても数え切れないくらいの氷塊が宙に浮いている。


「ど、どうしろってんだコレ?」

「んー、かわすか、叩き落とすか、攻撃される前にあたしを倒す?」


 内心が口からこぼれると、津田さんは小魚をポリポリと口にしながら何でも無いことのように答えるが、目の前の映像を見る限り、とても現実的な案には思えない。


「ちなみに、射出される速度は時速換算で1000キロ以上。ライフル弾には劣りますが、拳銃の銃弾とほぼ同程度の速度で打ち出されます」


 追加された絶望的な情報に、コレをどうにか出来るとはなおさら思えなくなる。


「これだけのことが出来るのに、どうして重力の操作とか、物理法則の改変とかに手を出そうとするんだよ」


 訳がわからん。


「え? ACTを使う以上、『奇跡使』と呼ばれたいのは、誰でも一度は夢見るものじゃない?」


 ん? そこでどうして俺を見る?


「だって、ケイ君の、さじょーのろうかく、って、物理法則を自分の都合の良いように改変した領域でしょ? 一時的とはいえ、物理法則をそこまで都合良く改変できるのであれば、『奇跡』に手が届きそうじゃない。宇宙の創生とか不老不死は無理でも、時間旅行はいけそうな気がするよ?」


 キーボードをタイピングしていた白鷺さんの手が、不自然に止まる。


「またまた。『奇跡』に手が届きそうな人なんてマジで存在するんですか?」

「んー、身近な所では、酒井さん?」


 小首を傾げながら天井を見上げる仕草と、そのイントネーションから判ずるに、言っている津田さん自身、よくわかっていなさそうだ。


「何で疑問形なんですか?」

「1年生の頃、1学期に彼女が実技試験に参加したんだけど、ユリちゃんと2回戦か3回戦であたってね。何だかわかんない内にさっちゃんが勝ってたんだよね」


 さっちゃん、って酒井さんのことか? さっちゃんなんてガラじゃねえだろうに……もの凄く、引っかかりのある、と言うか違和感を覚える呼び名だ。


 しかし、わかんない内に勝っていた? どういうこと? と白鷺さんを見る。


 が、白鷺さんは首を横に振るのみ。


「当時の映像は、酒井さんに関するものは何一つ残されていないので、検証することが出来ません……全て、当時の対戦者や観戦者の記憶が頼りなのです」


 酒井さん絡みのものは、資料が全廃棄、か。ここでも彼女はアンタッチャブルな訳か。


「完全にさっちゃんの攻撃を、ユリちゃんが見切っていたから、闘技場の隅っこにさっちゃんは追い詰められたんだよ。それで、さっちゃんが破れかぶれで打ち出した氷の弾丸が、どうしてかユリちゃんに当たっちゃった、って感じ」

「……それは、フロックなんでは?」

「うーん、でもあのユリちゃんが、正面から打ち出した氷の弾丸を避け損なう、ってのは考えにくいよぉー。当時は、ユリちゃんのこと何も知らなかったから、運よく氷の弾丸が当たった、って考えたけど」


 ゆりっぺのACTは予測とか予知に特化していたよな。偶然、とは考えにくいか。


「あたし達にはわからない、何かしらの『奇跡』でも使ったのかなぁって考えた方が、まだ納得できるよ」

「津田さん、『奇跡』の定義はわかっていますよね?」


 白鷺さんの目が、どことなく非難がましく見えるのは気のせいだろうか?


「うん、現在の科学じゃできないことー!」

「厳密には違います。現在の科学力では、どれだけの時間と労力、財力を費やしてもできない事柄で、なおかつ、世界中のリライターが不可能な改変事象が『奇跡』です」

「アレって確か、無から宇宙を創ることに死者蘇生、不老不死、並行世界を含めた時間旅行、あとは、非物質の物質化だったっけ? 他にも何かあるのか?」


 指を折りながら数えていくが、俺が教えられたものはこの5つだったはず。


「代表的なものはその5つ、とされていますが、詳細は不明です。定義しているのは世界中のリライターをまとめている機関や国になりますので」


 どれだけの時間と労力、財力を費やしてもできないって言われてもパッとは思い浮かばない。が、まぁ関係無いか。


「ところでケイ君は明日どうするの?」

「明日? 明日は金曜で普通に授業じゃないのか?」

「明日はこの東京国立第2ACT高校の創立記念日ですから、授業はお休みですよ、秦さん」


 ……ヤバい、祝日とかその辺、全然確認していなかった。


 こっちの世では祝日も違うかもしれないのだから、帰ったらチェックしておこう。


「リンちゃんにあっさり負けたら退学していたかもしれないんだから、休日の確認する余裕がなくてもしょうがないよー」


 津田さんはポリポリとアーモンドを頬張ると、再度白鷺さんからかぼちゃの煮つけを強奪、自身の口の中にポイっと投入。


「で、あひたふぁはふぇいふん、どうふるの?」

「いや、全く何も考えていなかったんですが」

「それなら好都合です。秦さん、そろそろデートをしましょう」

「……ハイ?!」


 白鷺さんの事務的な提案とは対照的な声が、自分の口から漏れ出た。

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