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フェイカー  作者: 那上畑 潤
Because, you don’t understand yourself
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精神的な頭痛 ~ACT アカシック・レコード・コントロールテクニック~

 まったく……物理的にも、精神的にも、頭が痛くなってくる。


 今、俺が把握している範囲でおかしいと感じていることは、



⓵ 今は西暦1997年で、年号は『平成』ではなく、『正化』

⓶ 俺は35歳のサラリーマンではなく、15歳の学生



 この2点だ。


 夢なら覚めて欲しいが……物理的にズキズキと痛む頭が、これは夢ではないと文字通り痛烈に思い知らせてくれる。


 頭痛を鎮めるため、または記憶の整理をするために、覚えている限りの事を思い出す。


 俺の名前は秦啓一。


 青森のホームセンターに勤める、35歳の男、独身、彼女無し。


 最近、ようやく副業と株の投資が軌道に乗り出したので、独立を考えていた……はずである。


 仕事場である地元のホームセンターに出勤し、いつも通り仕事をしていた事は覚えている。


 10時ぐらいに、テレビを買い求めにきたお客さんがいたので、その在庫を取りに、倉庫まで行った事も覚えている。


 あるはずのテレビの在庫が無かったので、脚立を使って上のスペースを調べ……


 その先から、全く、記憶が、無い。


 気付いたら、俺は病院のベッドの上にいた、という訳だ。


「俺、色々と記憶に混乱が見受けられるんだけど、あの人達からは、どのくらい聞いている?」

「こちらの高校には2学期から転入する予定であったこと、横断歩道を歩いている最中に、子どもを庇って撥ねられた結果、頭蓋骨を骨折し、病院に運び込まれた、と」

「こちらの高校って、どこなんだ?」

「東京国立第二ACT高等部になります」


 東京は、あの東京で良いとして、エーシーティー?


「すまん、エーシーティーってなんなのかわからない」

「どのあたりからわからないのでしょうか。ACTがどういった現象を起こすとか」

「一切合切、全部わからない」

「……3分程、時間を下さい。どこから何を説明するか、まとめますので」


 ハクロさんが俺の発言を受け、眼を閉じて黙考すること3分。

「まず、ACTとはアカシックレコード・コントロール・テクニック、という単語の略称になります。アカシックレコード、という言葉はご存知でしょうか?」

「世界がはじまってからの出来事とか感情とか、そういったものが過去から未来に及ぶまで全部記録されているモノ、だったかな?」

「そうです。宇宙がはじまってからの全存在についての情報が蓄積されている、とされているのがアカシックレコードです」

「待って。文字通りの意味があるのだとすれば、それを操る技術、ってことになるんだろうが」


 そんな事が出来るなら……不老不死が実現するし、タイムトラベルも出来てしまう。


「そうなると、今の人間社会が成り立たないんじゃないか?」

「全てが改変可能であるならば、その通りになるかと」


 彼女の物言いからすると、全部は操れないのか。


「具体的には、どういった事柄が改変不可能なんだ?」


「代表的な改変不可能事象を、私達は『奇跡』と呼称します。奇跡という呼称は、ACTが昔は魔術や魔法と呼ばれていた名残ですね。『奇跡』の代表例としては、宇宙の創生のような、『完全なる無からの有の創造』、『パラレルワールドへの移動を含めた、一切の制限・条件が無い完全なる時間旅行』、『非物質の物質化・可視化』、『不老不死の実現』、『死者の蘇生』などがあげられます。このような、改変不可能事象の行使者は『奇跡使』と呼ばれます」


 パラレルワールドへの移動を含めた完全なる時間旅行、ね。


「とりあえず、エーシーティーって奴が、アカシックレコードをいじくって操作することと、不可能な事柄は奇跡って呼ぶことはわかった。わかったけど、具体的にエーシーティーってのは、どうやってアカシックレコードとやらを操作というか、改変するんだ?」


「病室で本格的なACTを行う訳にはいかないので、手順だけになりますが」


 ハクロさんは薄紫のハンドバックから、スマホを少々大きくしたようなモノを取り出した。


 スマホ、と言うにはやや大きいし、小さめのキーボードがついているのもおかしいし、液晶の裏面に持ち手があるのは盾のように見えなくもない。

 

 何より、スマホにあんな長い配線はついていない……って、エ、えェェェェッ?


「あの、ゴメン、それ、どういう手品?」


 スマホもどきから伸びている配線が、ハクロさんのうなじの辺りで、合体? 溶け込んだ? 融合? どう言えばいいのかわからん……! いや、言い方の問題ではなくて、


「手品ではありません、生体コードです」


 俺のしかめっ面で、全然理解出来ていない事を察したハクロさんは、うなじにつながったままのコードを伸ばし、それを右の掌に乗せる。


「一見すると電化製品のコードに見えなくもないですが、人間のDNAと因子的には全く同じモノで出来た生体素材です」

「い、いや、素材的には全く同じモノだったとしても……何で、コードを押し付けるだけでズブズブとコードがうなじに沈んでいくんだよ、有り得ねえだろ!」


 ああ、この気持ち悪さと言うか不快さと言うか不自然さと言うか、とにかくそういう感情を、ハクロさんは全く理解してくれない。


「そんなに不思議なんですか?」

「不思議だけど、それ以上に不気味だ」


 そうでしょうか? と小首を傾げる様は可愛らしいのに、そのうなじからコードが伸びているので、彼女の無表情と合わさってロボットのように見える。


 清潔感が漂うロングの黒髪をたくしあげたうなじと言うのは、異性から見れば魅力的なはずなんだけど……


 そのうなじから、コードさえ、見えなければ……!

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