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「俺は……」
力なく呟くと、シアは何を思ったのか、袖口から新たな芋を取り出して、俺の口に押し込んだ。
「む……ほれは……」
「この世界にしか育たない芋だよ。普通の芋よりさらに長持ちするから、非常食にもなるんだ」
思わず飲み込んでむせてしまった俺に、水筒の水をさっと手渡す。
「ずっと望んでたものが手に入る人なんて、めったにいないんだよ? それに君には、待ってる人や世界があるんじゃないの?」
「ん……」
「君はみんなと一緒に新年に大吉を引いて喜びたかった……それだけなんじゃないの? ……君の体にはちょっとした魔法の痕跡があったって、師匠が言ってた。あのね、こっちの世界から君の世界にできた歪みがあったんだって。君はそれに触れてしまって、一つの欲が暴走してしまったみたいなんだ。君をここに飛ばしたおじいさんは、君を放っておけなかったんだろね」
「──え?」
「君にかかった暴走の魔法は、ちょっとした時間をかけてその欲を満たすことで解けるんだけど……厄介なその魔法は、立ち去る時に空虚を置いていく。それは僕らには解けなくて、君が元にもどしてくしかないんだ」
シアはやんわり微笑むと、驚きを隠せない俺へと、言葉を繋いだ。
「教えてあげる。この狭間の世界での数ヶ月は、君の世界での数時間に過ぎない。安心して帰るといいよ。君のいうところのお正月休み中には、帰れるはず。君は何も失わない──」
「あ……その、どうやったら」
「君が食べたこの芋は、この世界をとっても愛してるから、この世界にとっての異物をもとの場所に戻すことができる奇跡の芋なの。もうじき君の体は、君の世界に飛ばされるはずだよ」
「は? 芋が?」
「芋を馬鹿にするんじゃねぇ! ……っと、まあ僕のこれは暴走じゃなくて単なる芋好きだから。芋には感謝してるけど、たどり着きたい場所は別にあるから」
シアの芋賛美を聞くうちに、俺の体は透き通って……
何故だろう、怖くはなかった。
帰れることを、体の中で消化されゆくこの芋が教えてくれている気がした。