表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/10


「俺は……」


力なく呟くと、シアは何を思ったのか、袖口から新たな芋を取り出して、俺の口に押し込んだ。


「む……ほれは……」


「この世界にしか育たない芋だよ。普通の芋よりさらに長持ちするから、非常食にもなるんだ」


思わず飲み込んでむせてしまった俺に、水筒の水をさっと手渡す。


「ずっと望んでたものが手に入る人なんて、めったにいないんだよ? それに君には、待ってる人や世界があるんじゃないの?」


「ん……」


「君はみんなと一緒に新年に大吉を引いて喜びたかった……それだけなんじゃないの? ……君の体にはちょっとした魔法の痕跡があったって、師匠が言ってた。あのね、こっちの世界から君の世界にできた歪みがあったんだって。君はそれに触れてしまって、一つの欲が暴走してしまったみたいなんだ。君をここに飛ばしたおじいさんは、君を放っておけなかったんだろね」


「──え?」


「君にかかった暴走の魔法は、ちょっとした時間をかけてその欲を満たすことで解けるんだけど……厄介なその魔法は、立ち去る時に空虚を置いていく。それは僕らには解けなくて、君が元にもどしてくしかないんだ」


シアはやんわり微笑むと、驚きを隠せない俺へと、言葉を繋いだ。


「教えてあげる。この狭間の世界での数ヶ月は、君の世界での数時間に過ぎない。安心して帰るといいよ。君のいうところのお正月休み中には、帰れるはず。君は何も失わない──」


「あ……その、どうやったら」


「君が食べたこの芋は、この世界をとっても愛してるから、この世界にとっての異物をもとの場所に戻すことができる奇跡の芋なの。もうじき君の体は、君の世界に飛ばされるはずだよ」


「は? 芋が?」


「芋を馬鹿にするんじゃねぇ! ……っと、まあ僕のこれは暴走じゃなくて単なる芋好きだから。芋には感謝してるけど、たどり着きたい場所は別にあるから」


シアの芋賛美を聞くうちに、俺の体は透き通って……


何故だろう、怖くはなかった。


帰れることを、体の中で消化されゆくこの芋が教えてくれている気がした。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ