正真正銘のマヨイビト
「──おわり、とかさ」
「え?」
「だから、ヒロ君の回想の素晴らしい決意でお話が終わればよかったのにねえ、って話」
屈託のない笑顔の少女、シアに向かって、俺は深い深いため息をつく。
「シアはけっこう容赦ないよな」
「ずっと芋食べてくれないから」
「……選択肢は芋だけかよ」
「まあ芋じゃなくてもいいんだけどね。何か食べないと本当に死んじゃうよ? それが望みなの? 君がいままでおみくじにかけた情熱は何だったの? このおみくじのない世界に、君は本格的におみくじを導入した。おみくじが各地に行き渡ってからも、君は片っ端からおみくじ箱に数個しかない大凶を引いていった……驚嘆するほどの、おみくじ運のなさ。そんな君が目指していた大吉をやっと引けたのに、喜びもしないでどうしたの?」
──そう。
確かに俺は、この不思議な世界の各地を転々としながら、各地の神殿様式にあわせて、独自のおみくじを開発する──のに、ちょっとだけ関わった。
大部分は、異世界である日本のおみくじの存在に興味を示したシアの師匠らしき変な人の力添えで。
俺の記憶にあったおみくじは、瞬く間に具現化されたんだ。
この狭間の世界には、俺の世界では夢物語だった魔法なんてものが、当たり前に存在してる。
シアは指先から巨大な炎やら水やら手品のように出せるし、手品と違ってそれらは本当に種もしかけもない魔法。
万物の理がどうとかなんとかシアは言ってたが、とりあえずよくわからなかったから魔法という単語だけ理解した。
シアの師匠に至っては、俺の記憶にあったおみくじ箱を魔法と催眠術の融合術?で引き出しながら……俺が小さな頃に読んだ絵本の本文までうっかり引き出してしまったとか、もうなんか魔法使いというより宇宙人?
いや、ここ異世界だからみんな異星人なんだけど。
元の世界に帰らなくていいんですか?とか言いながら、シアの師匠が、遺伝子配列がどうとか血液はこちらと異なるのかとかデータは採取しても大丈夫かとか嬉しそうに語り出したから、とりあえずシアの安全の勧めで俺は一旦退却して──
次の日会いに行った時には『おみくじ普及計画書』という日本語仕様の分厚い冊子と、おみくじ箱の試作品が出来上がっていた。
驚きどころがよくわからなかった俺はそれを受け取りつつ、綿密な計画書にただ頷きながらOKを出して……
一月後には、嘘みたいにおみくじがこの世界に浸透していた。
神殿様式の巡礼みくじという名の、地球でいう和洋折衷な感じのそのおみくじは、名前や託宣の内容こそ神殿式だったが、表記や文字は俺の故郷の日本語で、そこに狭間の世界の共通語で翻訳がなされていた。
俺は各地を渡り歩き、巡礼みくじを引きまくったが、ことごとく大凶。
めげちゃいけない!とフリルつきのハンカチで涙を拭いながら、最後の地にたどり着いた時──
俺は、人生初の、大吉を引いてしまったんだ。