バーニングおみくじ改
俺はヒロ。
詳細は忘れた。
もう、いつからここにこうして座っているのかわからない。
夜が明けて日が暮れて、それを幾度繰り返しただろう。
…俺は、もうじき死ぬのかもしれない。
それでもいい。
もう、全てが終わってしまったのだから。
*
「ヒロ君、まだ生きてる?」
いつの間にか目の前に現れた少女は、俺に湯気がのぼっている紫色の物体を差し出した。
半分に割られたそれからは、甘い香りが漂っている。
「今日はお芋だよー、焼き上がりほやほやを持ってきたけど、いらないの?」
「いも…」
「ん?」
ぼそりと呟いた俺に耳を傾けた少女に向かって、俺は手にした芋を投げつけた。
「何が芋だ! あったかくて甘くてうまいだけですぐに胃で消化されて消えてしまうくせに…!!」
「な…!」
少女は放られた芋を片手で難なくキャッチすると、ぎらりとした眼差しで俺を一瞥する。
「てめぇ…。何様だと思ってやがる…? 焼き芋のあたたかさは確かに儚いかもしれない。でもね、一瞬でも口に入れた人を笑顔にするこの芋は、いわば人の記憶に刻まれる永遠の安らぎなんだよ! たかだか20年しか生きてないてめぇが、長きに渡り大地に根付いてきた芋の命を投げることが許されるとでも思ったのか!?」
冷めないうちにと芋を頬張りながら説教する少女を、俺は呆然と眺めた。
そうだな…俺は、自分しか見えていなかったな。
虚しさのあまり、大切な礼まで欠いてしまった…。
「すまない…俺は、君が毎日持ってきてくれたじゃがいもに里芋に山芋…たくさんの芋たちをないがしろにしてしまった。…俺のちっぽけな生き甲斐なんて、芋たちの歴史に敵うわけがないのにな」
「…いや、僕も言い過ぎた。ごめんね、君は人生に迷ってしまったというのに…」
事の発端は、少し前…だろうか。
俺は、人生初の大吉を引いてしまったんだ。
ずっと…
生まれてこのかた、おみくじで大凶しか引いたことのなかった俺が、あろうことか大吉を…。
…狂喜乱舞するかと思っていたその体験は、俺から全てを奪い去った。
そう、俺は、大吉を引くために人生を捧げてきて…
それから先のことなんて、考えていなかったんだ。
大吉という晴れ晴れとしたゴールは、絶望への入り口だった。