女
物語性には乏しいですが、小説のつもりです。
今後似たようなものを投稿し、短編集として纏めていけたらば、と思っております。
物語を読んでいると、時たま、昔の女に遭遇することがある。古今東西、ジャンルの別なく、ある時には屈託のない笑みを浮かべ、またある時には私の浮薄な内面を軽蔑するかのように睨み付けつつ、彼女らは私の脳内に出現する。
その女達の年代もまちまちで、十代の頃にプラトニックな恋愛をした少女もおれば、異常なほど互いの肉体に執着し、尻の穴まで知り尽くした女もいる。あるいは、かつて通った風俗の商売女までもが、それがあたかも己の当然の権利でもあるかのように、しばしの間私の脳内を占領せしめる。
無論、彼女らが出現すると、私の読書は暫時中断されねばならない。それが過去を慈しむといった類いの追憶であるならばまだしも、大抵の場合、直ぐにでも焼却せしめたいような、私の人生における恥部とでもいうべき記憶ばかりであるのだから、どうにも始末がおけない。時には、まるで神経病者のように、呆けた奇声を上げてしまうこともある。
「貴方って、自信がないのね」こんな些細な軽口の記憶ですら、私の胸を締めつけ、その日一日を憂鬱にせしめる。読書どころか、仕事をすら、散漫にしてしまう。
いっそのこと、女と付き合わねば良いのだろうか。女と付き合わねば、このような苦しみを抱くこともないのだろうか。否、どうあがいたところで、私は同じ辛酸を嘗めざる得ないのだろう。女と関係を断ったところで、より一層過去の女たちに、あるいはまた別の対象に、私は苦しめられるに違いない。
逃れる術など、どこにもないのだ。ただ新しい記憶を上塗りし、新たな苦痛の種を植えて行くしか、他に仕様がないのだろう。それが生きるということなのだから。