第72話 トラブルの後片付けは偉い人に押し付けよう
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「で、ヤーベ殿、悪魔王ガルアードを倒したのか?」
フェンベルク卿が俺に詰め寄ってくる。
「いや~、なんか石像しか置いてなかったっすよ?」
そう言って亜空間圧縮収納から壊したゴーレムを取り出す。
背中から腹をぶち抜かれて穴の開いた足2本、手2本の悪魔王ガルアード(偽)のゴーレムを。
「・・・これが悪魔王ガルアード?」
「・・・文献とだいぶ違うようだが・・・」
フェンベルク卿やガイルナイト卿が首を傾げている。
その後俺の方をジッと見てくる。
「ぴゅ~ぴゅ~ぴゅ~」
俺は明後日の方を見て頭の後ろで手を組んで口笛を吹く。
決してうまくはないが、口笛の音は出ている。
決して吹けていないわけではない。口で言っているわけではない。
うまくはないだけだ。
「いや、ヤーベ、その誤魔化しかたはどうかと思うんだ・・・」
イリーナが溜息を吐きながら言う。
あれ? ちょっと前まで立場が逆だったと思うんだが?
「おいヤーベ殿、どうなんだ!ホントのトコロ!」
フェンベルク卿が俺の胸倉を掴んで揺する。
「いや~、ここで悪魔王ガルアードを殺っちまいましたって報告、まずくないっすか?報奨金とか、額もメンドーでしょ? なら、石像壊れました。何にも起きませんでしたーの方がよくないっすかぁ?」
極めて軽い口調で説明する。これで事態も少し軽く見てください!
「い、いや・・・それはどうか・・・」
「報奨金は確かにうちの領から出すのはキツいレベルの敵だが・・・」
俺の説明にフェンベルク卿もガイルナイト卿も苦渋の表情を浮かべる。
「ま、その判断は後で考えるとして、フィレオンティーナ嬢を誘拐指揮した主犯らしき男と、その男を殺した黒幕の手先らしき魔術師の男の死体がある。そちらで確認、調査してくれ」
そう言って後ろから胸板を貫かれた男の死体と自分で首を切り落とした魔術師の男の死体を亜空間圧縮収納から取り出して引き渡す。
「すまない、助かるよ。おい、この死体を回収して調査せよ!」
「「ははっ!」」
ガイルナイト卿の部下が死体を回収して行く。
「それでは、王都に向かって出発しましょうか、コルーナ辺境伯」
そう言ってフェンベルク卿に声を掛ける。
「いやいや、フィレオンティーナ嬢を救って頂いたお礼も、悪魔王ガルアードを倒した功績評価もまだ・・・」
「シーーーー!!」
タルバリ伯爵がデカい声で話し出すので全力で止める。
悪魔王ガルアードは居なかったって設定で行きましょうよ!
「王都に向かわれるのですか?それではわたくしもご一緒させて頂けませんでしょうか?」
フィレオンティーナ嬢が申し出てくる。
「お、おいおい、君は誘拐されてきたんだろ?着の身着のままだろう?家に帰ってゆっくり養生したほうがいい」
まさかついて来るなどと言い出すとは思わなかったので俺は少し慌てたように言う。
「大丈夫ですわ! 体には問題ありませんし。必要な物は途中で買いますから・・・。少々お金を貸して頂けると嬉しいのですが・・・」
テヘッとはにかむフィレオンティーナ。
カワイイ。貸します。ご希望額をこちらの小切手に記入ください。
「お、おいおいフィレオンティーナ。妹であるシスティーナもずっと心配しているんだ。一度帰ってシスティーナを安心させてやってくれないか?」
「う・・・」
「そうだね、妹さんも相当心配していたようだし。とにかく一度帰ってゆっくりしたほうがいいよ。どうせ王都から帰る時にはまた寄らせてもらうしね」
そう説明して安心させよう。
「わかりました。一度帰ってシスティーナを安心させてきますわ・・・。心配かけてしまいましたものね。でも、ヤーベ様の帰りをお待ちしているわけにはまいりません。その後ヤーベ様を追いかけて王都へ向かわせて頂きますわ!」
「はいいっ!?」
俺は素っ頓狂な声を上げてしまった。
何故に追いかけてくる?
「占い師としてのカンですわ! 一刻も早くヤーベ様の隣に立たないと…間に合わなくなってしまう気がして仕方がないんですの」
カンって!?
しかも、隣に立つってどーいうこと?
何しろ売れっ子占い師のカン! 当たりそうで怖すぎる!
「と、隣に立つって・・・」
若干イリーナがプルプルしながらフィレオンティーナに問いかける。
「あら、貴女・・・もしかして、ヤーベ様の・・・」
「う・・・ヤーベの妻のイリーナ・フォン・ルーベンゲルグだ・・・」
うお――――い!!
いつの間に妻になったんですかねぇ!イリーナさん?
「はいはいはいっ! 第二夫人のルシーナ・フォン・コルーナでっす!」
「パチパチパチ」
ルシーナちゃん何の宣言ですかねぇ!そしてお母さん、その拍手何!?
「まあ、すでにヤーベ様にはお二人も奥方が・・・。わかりましたわ! わたくし、第三夫人にてよろしくお願い致しますわ」
ズゴーン!
増えた!ついに第三の候補者まで!そして何故か候補者たちは全て決定事項で話している!そう当事者たる俺の意見を聞きもしないで!
ラノベにある鈍感モテモテ主人公にありがちな設定だけど、何故に俺!?
鈍感ではないが、ぜひとも人間の時にモテたかった!!(魂の絶叫)
はっ!? これはもしかして、この先「早く人間になりた――――い!」とかいうパターンに!?
「ふええっ!? ヤーベの奥さんが三人に!? しかも、こんな超絶美人のお姉さんなんて、絶対ヤーベ取られちゃうよ・・・」
といってメソメソし出すイリーナ。保護欲を掻き立てられますな。
「イリーナちゃん、きっと大丈夫だよ! フィレオンティーナさんはとっても優しそうだから、みんなでヤーベ様を支えていけるよ!」
グズり出すイリーナの肩を支えて力強く宣言するルシーナちゃん。
なんだか一番ルシーナちゃんが頼りになる感じ!
「くすくす、こんなに可愛い先輩が二人もいるのね。わたくしも仲良くしてくれると嬉しいわ」
ヤバイっ!なんだか三人が仲良くなりそうだ!
ルシーナちゃん必殺のオペレーション・なし崩しが発動中か!?
「と、とりあえず早く王都に出発しましょうか、コルーナ辺境伯。王からの招集で向かっているので、あまり遅くなっては申し訳ないのでは?」
「お、おお。そう言えばそうであったな。それでは早速出発しなければ・・・」
「タルバリ伯爵、後の処理をお願いしますよ!」
俺は素早く馬車に乗り込むとタルバリ伯爵に大きく声を掛けて手を振った。
面倒な後処理はタルバリ伯爵に任せてさっさとおさらばだ!
「あ、ああ!必ず王都からの帰り道に寄ってくれよ!たくさん褒美とご馳走を用意して待ってるからな!」
タルバリ伯爵が両手で手を振ってくれる。
「ヤーベ様!すぐに王都に向かいますわ!待っていてくださいまし!」
フィレオンティーナも手を振ってくれる。
・・・王都でどうやって俺を探すつもりなんだろう?
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