第63話 教会を回って挨拶しよう
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俺の戦略はこうだ。
式典の後にフェンベルク卿が屋敷に帰るのに便乗。
疲れたとか疲労回復とか適当な理由を付けて本日は引き籠る。
明日は朝からイリーナの洋服などをルシーナちゃんに頼んで2人で出かけてもらう。
女性の買い物についていくのはナンセンスだろう。
時間もかかるだろうし、男の俺に見られたくない物もあるだろう。
それに久しぶりにお友達同士、会話が弾むに違いない。
そして俺はナイセーに貰った紹介状を持って、フェルベーン一の奴隷商人の店を覗きに行くのだ。
・・・もちろん、別に女性の奴隷を買ってウハウハ、なんてことは考えていない。
だが、この国で奴隷というシステムをどのように扱っているのか、この目で実際に見てみることは大事な事だと思っている。
・・・ほんとに奴隷の女性をたくさん買い占めてウハウハなんて考えてないからな!
考えてたら金貨2000枚なんて寄付しねーっての!
でも、金はやはり必要だな。理不尽に買われた奴隷を買い取りたいと思っても、先立つものが無ければ助けてもやれない。尤も、誰もかれも買って助けてやれないのだ。必要な時に必要なだけの金が有るように、ある程度持っていないとダメだろう。魔物狩りに精を出さねば。
・・・主にローガ達がだけど。
そんなわけで明日は奴隷商館でみっちりと社会勉強を行い、3日目には朝から出立の準備をして、昼には王都に向けて、タルバリ領タルバーンの町を目指して出発する。
そう青写真を描いていた。
だが、どうしてこうなったのか!?
確かに、式典の後はフェンベルク卿と一緒にうまく屋敷に帰る事が出来た。
疲労がどうとか、いろいろ理由を付けて引き上げたのだ。
おいしい夕飯と気持ちいいお風呂、ゆっくりできた。
ここまでは良かったのだ。
そして翌日、完全休養日の1日をイリーナとルシーナちゃんに買い物に行ってもらおうと伝えたところ・・・
「イリーナちゃんの洋服とか、必要なものはもうメイドに準備させていますよ」
そうニコニコしながらルシーナちゃんが答えを返してきたのだ!
しかも、イリーナと俺の部屋は別々になっていたので、ルシーナちゃんがイリーナの部屋に夜遊びに行っていろいろ話をして旧交を温めてしまっていたのも計算外であった。
俺様自身も辺境伯家に泊めてもらっている関係で、魔力感知を切っていたため、イリーナとルシーナちゃんの動向を把握していなかったのも痛かった。
そんなわけで、なぜかイリーナとルシーナちゃんは真っ白なローブを着て、さながら女性神官をイメージした衣装を着ていて、俺はというと、こちらも高級そうな真っ白ローブに金色の刺繍が入ったものを着せられ、顔は少し仰々しい仮面を付けられている。
そして、またまた準備されたパレードの時に乗った真っ白な馬車に乗せられている。
これから、各教会を回って挨拶しなければならないのだ。
魔法は使えない、そう伝えてある。
それでも、2人を従えて教会に訪問することが大事らしい。
いつもの魔導士の杖ではなく、青い宝玉の付いた神杖を持たされている。
なんでも、訪問して皆さん元気にしてますか?みたいに声を掛ければいいらしい。
俺は地球時代に避難所などを回られる天皇陛下の映像を何となく思い出してしまった。
・・・余りにも不遜な想像だったな。
大体、俺の<生命力回復>は精霊魔術であって、神霊魔術ではない。
水の精霊ウィンティアは生命の源を司る力を持っている。
後は俺のぐるぐるエネルギー(魔力)を高めて、ウィンティアの力を高めてやれば強力なヒーリング効果を得ることが出来る。
なので俺自身は神の信仰などまったく持ってない。
どちらかというと、若干恨んでいるくらいだ。オノレカミメガ。
そんな俺が教会に行って挨拶する・・・ほぼ詐欺じゃね?
どう考えても実際に神がいるならバチが当たる事間違いなしだよな。
・・・・・・
「御使い様に来ていただいたぞ!」
「ようこそ当方の教会へ!」
・・・どこへ行っても大歓迎だ。もはやここまで来ると罪悪感を感じるな。
元気になった人たちと握手をする。それ自体は問題ないし、それで喜んでくれるなら構わないのだが、神官たち教会関係者が俺を「御使い様」と呼んで、明らかに神の使徒として扱っている事に違和感を禁じ得ない。
尤も、暑苦しい勢いで「やればできる!」なんて講演するつもりもないけど。
それにしても失敗した。
よくよく考えれば、ルシーナちゃんとイリーナの2人だけで買い物に行くとか、日本じゃないんだからダメに決まってるよな。貴族令嬢が2人でプラプラ買い物とか、絶対アウトだわな。いろいろメイドなり護衛なりついてきちゃうとなると、俺も呼ばれてしまうだろうし。
呑気に俺だけで出掛けられると思っていた昨日の自分を殴りたい。
「御使い様は、いつこの世界に顕現されたのですかな?」
凄く白い髭の長い、まるで仙人かサンタクロースみたいな爺様神官が俺に声を掛ける。
「御使い様ではないんですけどね・・・」
「まあまあ、それよりこの世界はいかがですかな? 楽しまれておられましたら何よりなのですが」
ニコニコしながら髭を撫でる爺様神官。
なんだろう、デジャヴ。
これはカソの村の村長レベルで話が通じないと思われる。
最終的に通っていると御使い様で定着するパターンだ。
これで決まった。俺は教会にはもう来ない。心に固く誓おう。
大体、ものすごくまずい事に気が付く。
俺は神様のことなど何も知らない。
いろんな異世界モノがあるが、神が1柱だけではないパターンが多い。
それこそ、この世界にてどのような神が信仰されているのか全く分からない。
興味が無かったから学ばなかったな。
どこかで神について学ぶか・・・それとも完全に教会から距離を置くか。
今日の時点で全く距離を置けていないのが悲しくて泣けて来るが。
そう言えば何故かルシーナちゃんもイリーナも女性神官のようないで立ちで集まった人たちに対応している。えらく優しく声を掛けていると思ったら、子供たちが多いようだった。
教会と孤児院が併設されているわけではないのだが、俺が教会に挨拶に行くと伝えておいたため、近くの孤児院の子供たちも教会に集まって来ているようだった。その子供たちにお菓子などを配っているようだった。
「なんだ・・・、ちゃんと目的があったんだね。教会じゃなくて孤児院に直接行ってもよかったのに」
「ヤーベ様・・・教会に行かずに孤児院だけ行ったら絶対後で神官たちからクレームが出ますよ。もしかしたら孤児院の方にも悪影響が出かねません」
「そ、そんなに・・・?」
「孤児院の運営は教会が主導していますから・・・」
「そうなんだ・・・」
世の中世知辛いね・・・。
まあ、子供たちに少しでも元気になってもらいたいしな。ルシーナちゃんやイリーナに任せて俺は後をついていくだけにしよう。
奴隷商館には行けなかったが、子供たちを少しでも元気にできたことを喜ぶとしよう。
王様への謁見で報奨金が出たなら、孤児院を回ってアースバードの唐揚げ炊き出しをしてみようか。
俺はそんなことを考えながらルシーナちゃんやイリーナの後をついて回った。
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