第414話 オススメ肉料理を食べてみよう
肉フェス開催宣言の後、それぞれが思い思いの店をのぞきに移動し始める。
尤も、お偉方の連中は貴賓席を設けてあり、そこから各屋台の料理を注文できるシステムにした。
だから国王様軍団が練り歩かなくても大丈夫なようにしたのだが・・・。
「ルベルク! あれは何だろうか?」
「少々お待ちを・・・あれはラードスリブ王国の『オーク肉のから揚げステーキ』なる物ですな」
早々に我が国の一番偉い人が宰相を伴ってパンフ片手に屋台巡りをしている。
奥さんや息子の王太子放り出して何やってるんだこの人は。
なんだろうねぇ。狼牙たちが警備兵代わりに周りを固めているので、安心しきってないか?
よく見ればフィレオンティーナのご両親であるラードスリブ王国の王様と王妃が仲良く屋台をのぞいているな。
「まあ、いいけどさ」
そう言って俺もぐるりと立ち並ぶ屋台を見つめる。
このバルバロイ王国もお店を出している。
宮廷料理とも考えたようだが、国王も知るとある二人に白羽の矢を立てた。
高級レストランのオーナーシェフである、ドエリャ・モーケテーガヤーと喫茶店のオーナーシェフであるリューナちゃんだ。
俺はとりあえずドエリャの出している屋台に目を向けた。
『熱いパトス迸るオークジェネラルの分厚い大胸筋カツサンド』
「ネーミングセンス!!」
俺は全力でドエリャの店の看板にツッコミを入れた。
「おおヤーベ卿ではありませんか。ぜひお一ついかがですかな? 存分に味わっていただき感想を賜りたいものです」
ニコニコ顔のドエリャが揚げたてのトンカツをザクザクと包丁で切り分け、パンにはさんでソースをかけ、オークジェネラルの大胸筋カツサンドを完成させると、俺に差し出してくる。
「分厚っ!」
よくこれで火が中まで通ったなというくらい分厚い。
とりあえず一口かぶりつく。
「ウマッ!」
思わず声に出てしまう。
大胸筋と謳っているだけあって脂身が少ない赤身肉なのだが、処理がいいのかかなり柔らかく、肉汁ブシャーほどではないか、しっとりと味わいのあるうまみが口の中に広がる。
見れば得意満面のドエリャの顔が。
初めて会ったスイーツ大会では憎たらしい奴だと思ったものだが、こと料理に関してはストイックで真面目なんだよな、このオッサン。
ん? そういや、俺が調子に乗ってサンドイッチの事を「スラ・スタイル」と名付けて広めてしまったせいで、この王都バーロンまでサンドイッチの事をスラ・スタイルと呼ぶようになってしまったのだが、今この料理は「カツサンド」と銘打ってあったぞ?
「ドエリャ殿! ついにやっただでな!」
「見事な火加減だべ!」
見ればゲルドンとレッドの奴もカツサンドにかぶりついて感動している。
てか、ついにやったって、このカツサンドのアイデア、お前ら提供かよ。
「「「イェイ!!」」」
ドエリャとゲルドンとレッドの奴がパリピの人宜しくハイタッチをかましている。
そりゃウマイけどさ。
どんなテンションなんだよおまいら。
いつのまに仲良くなったんだ?この3人。
「ふふふ、ヤーベ卿はリューナ殿にばかりアドバイスして私にはアドバイスをくれませんので、ゲルドン殿とレッド殿にご協力を願ったのです」
ふふん、どうだと言わんばかりのドエリャの態度。
別にゲルドンとレッドをコキ使ってもらっても俺は一向にかまわんが。
それでうまいものが食えりゃ文句はない。
「えへへ・・・」
その隣でヤーベに贔屓されているとツッコミを貰った喫茶<水晶の庭>オーナーのリューナちゃんが照れている。
なんせ、ドエリャの言う通り、リューナちゃんには肝いりの魔導具貸しているからね。
「この魔導具、本当にすごいです! お肉の丸焼きなんて場所を取るし、火加減が難しいんですけど、この魔導具なら簡単にできちゃいますね!」
この魔導具は肉の塊を縦に用意した串に挿して、横に設置された熱源プレートによって自動で回転しながら肉が焼かれる様になっている。
肉串を横から縦にすることにより大幅なスペース削減になり、屋台でも使用できるようになるのだ。
「お肉の塊から焼けた外側を少しずつ削り出して・・・」
リューナちゃんが大きめのナイフで焼けた塊肉の外側を削るように肉を切り出す。
「それを薄いパン生地にのせてお野菜と一緒にくるりと巻けば・・・」
まるでクレープのような形の肉巻きパンが出来上がる。
「ミートロール、出来上がりました! ヤーベさんどうぞ味見してみてください!」
リューナちゃん満面の笑顔で渡されたミートロール、おいしくないわけがないよね!
「ウマイッ!」
一口食べて俺は同じく満面の笑みで答える。
リューナちゃんの花咲くような笑顔にお腹も心も大満足だ。
・・・ええ、ケバブですよ? リューナちゃんの作ったミートロールは地球時代に見たケバブ屋台の丸パクリですが、何か?
サンドイッチのようなしっかりとしたパンだと、すぐお腹いっぱいになっちゃうと思ってクレープのような薄い生地のパンを用意したのだ。
地球時代もクレープに鶏肉が入ったご飯系クレープもあったしね。
・・・美味しいは正義なのです。
それにしてもリューナちゃんの手際もよくなったね。
なにせ魔導具の使い方から焼き加減の調整、薄いパン作りなど、喫茶店の営業が終わってから夜遅くまで試行錯誤を繰り返しながら練習していたからね。
肉自体はありふれたオーク肉なのだが、じっくり焼くことによってジューシーに仕上がっている。
これならきっと肉フェスで大人気になる事間違いなしだな。
「アニキー! ウチの料理も食べて行って下さいよー!」
俺をアニキと呼ぶのはドラゴニア王国の国王バーゼルである。なぜか俺をアニキと呼んでまとわりついて来るうっとおしいヤツだ。
てか、お前なんで屋台に陣取ってるんだ? 各国のお偉いさんはちゃんと貴賓席が用意してあって、メイドさんに頼めば料理を運んでくれるように手配しているんだぞ?
「ウチの国の宮廷料理の一つなんですよ!」
嬉しそうに説明する を見ていると、なんだか食欲がわいてくるな。
「どんな料理なんだ?」
「マウントサラマンダーという山トカゲの上位種なんですけどね、これを大鍋で油をかけながらじっくりと表面に火を通して表面をパリパリに焼き上げたら、中の蒸し焼きに近いしっとりとした肉と合わせて食べるんですよ! 俺はこれがたまらなく好きなんですよ!」
嬉しそうに説明しながら料理人に皮を切り取るように指示を出す国王バーゼル。
だから国王自らやんなっての。
「俺なんかパリパリの皮だけでも行けちゃうんで、ついつい皮だけ食べ過ぎて妹に怒られてました!」
「兄上! ドラゴニア王国はマウントサラマンダーのパリジュワ焼きを提供しているのですか!? なんと贅沢な・・・」
見ればロザリーナがいつの間にか俺の隣に来て大きなサラマンダーが大鍋で油を掛けられながら焼かれているのを見てよだれを垂らしている。
「よだれよだれ」
「はっ!? 失礼しました御屋形様!」
俺がハンカチで口元を拭いてやると恥ずかしながらも敬礼を返してくるロザリーナ。ちょっと照れたような珍しい表情に思わずお得な気分になってしまった。
「ロザリーナも国にいるときはよく食べたの?」
「いえ、マウントサラマンダーはなかなか強敵な上にすばしっこく、捕獲が難しい魔獣ですのでなかなか食べられませんでした。それだけに料理として出た時の嬉しさといったら・・・」
あああ、またよだれがじゅるりと垂れそうだよ。
「じゃあ1つ頂いてみるか」
「どうぞアニキ! ロザリーナも、皆さんもどうぞ」
俺はがぶりと一口かじってみた。
「ウマッ!」
うん。これ北京ダックだな。それのすごいうまい奴だ。しかも肉付きだな。
皮だけでも美味しいだろうけど。
それにしても国王自ら売込みって気合入ってんな~。
尤もこの『肉フェス』の意義を開催前に各国のお偉いさんに語ってやったからな。
なにせ西方大同盟の締結により、国家間の移動が円滑になり、人の往来が増えている今、各国の名物料理や見どころなどを観光資源としてアピールすることにより、国へ訪れる旅人を増やし自国でお金を落としてもらう、観光産業の推進が目的だとな。
もちろん、まだまだその日暮らしが精一杯の村で暮らしている人たちだってたくさんいるんだろうが、下層の底上げはもちろん、金をため込んでいる商人や貴族の連中を動かし、珍しいものや食べたことのないものへの興味を引き、金と人を動かして経済を回していこうという戦略なのだよ。
そのため、より安全な往来のために盗賊討伐の報奨金をギルドに割り増しするよう費用補填を促したり、冒険者ギルドの少ない地域では国の騎士の演習を執り行うついでに盗賊たちに圧力をかける目的を追加して対応したりといろいろな手を打つことにしたのだ。
各国への旅がしやすくなれば、商人も冒険者も世界をまたにかけて活躍してくれるというものだ。
「おい、いつになったら貴様の用意した料理を食べられるのだ? いい加減待ちくたびれたぞ」
物思いにふけっていると、後ろから声をかけられた。
「ノーワロディじゃないか。お前も貴賓席に座っているのが飽きたのか?」
俺が首をかしげると、ノーワロディの目が吊り上がった。
「いつまで待たせる気なのだ! あの白い天幕の奥で何やら綺麗な賛美歌を歌く声だけが響いてくるが、いったいお前が用意した料理が何なのか全くわからんではないか! このパンフにも意味深なことしか書いていないではないか! なんだこの「かみんぐすーん」というのは!?」
パンフを目の前につきつけられ、白く天幕で隔離された俺の屋台ブースを指さすノーワロディ。白い天幕の奥からは美しい声で歌っているのか聞こえてくる。
その奥のスペースも広大な白い布で覆われており、その中をうかがい知ることはできない。
「ククク・・・そろそろ真打登場と行こうか」
俺は用意した食材で料理を振る舞う準備が完了しているか確かめに行くのだった。
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