第409話 目の前で消えゆく命は見捨てられないので適度に助けよう
肉フェスねぇ・・・。
ただただ各国の自慢の肉料理を一堂に集めてふるまってもいいのだが・・・。
何か目玉が欲しいよな。
「だけど順位を投票とかで決めるのはまずいよな・・・」
大通りの屋台街をぶらぶら歩きながら俺はぶつぶつと一人呟く。
王都の下町にある一番大きな屋台街だ。
まさしく人の坩堝。多くの屋台が道の左右に所狭しと立ち並び。店主が客の気を引こうと大声を張り上げている。
そんなわけで俺様が妖しい仮面をかぶってどこにでもある灰色のローブを頭からすっぽりとかぶった怪しいいで立ちで通りを歩いていても、特に気にされることはない、はずだ。うん。
なんでそんな怪しいカッコして歩いているかって?
悲しいことに辺境伯として顔が結構売れてしまったので、人が多いところに行くと、なぜか市民が集まって来てプチパニック状態になってしまうのだ。
どこぞのいきなりブレイクしたお笑い芸人かアイドル張りの人気ぶりだ。
・・・解せぬ。
貴族は結構怖がられて一般の平民からは遠巻きに近寄られることはないって聞いていなのに、ウソじゃん。めっちゃフレンドリーに近寄って来るし。
まあ、遠巻きに胡乱な目で見られるよりは遥かにマシだが、こうも人が酔ってくると、さすがにおちおち買い物もできない。
・・・貴族当主が人の多い屋台なんぞに歩いて買い物に行く方が間違っているというツッコミはあえてスルーする。
「おお! ヤー・・・仮面の旦那! お元気そうですな! 今日もイイ肉入ってますぜ! どうですか!」
最近馴染みの肉屋の屋台の親父が俺を見つけて声をかけて来た。
・・・ヤーって言わなかったか? ヤーベの旦那って言おうとしてた?
この完璧な変装が見破られたなどと・・・考えたくはないからスルーの一択だ。
「ほう、イイ肉が入っているのか?」
「おうよ! オモテにゃ出してないが、最近この冷蔵魔導具を手に入れてね。新鮮なままいい肉を王都まで運べるようになったんでね」
店の親父が後ろにある大きな箱状の物に手を置いて自慢する。
そうなのだ、俺は魔石の価値を少し下げるため、魔の森の魔物を多めに狩り、ジャンジャン市場に流したのだ。そのおかげで魔物の素材がバルバロイ王国内で潤沢になり、それらの素材を使った商品の開発に拍車がかかり、そのおかげで品質が揚がりコストも下がって来たというわけだ。
我ながらいい取り組みだったな。特に魔導冷蔵庫と魔導冷凍庫の開発、これにかかわる魔石の値段引き下げを宰相のルベルクと話し合い、その結果魔導冷蔵庫と魔導冷凍庫の普及を一気に推し進めることができた。
さすがに平民家族の一家に一台というところまではいかないが、生の食品を扱う商人や大手のレストランだけでなく、小さめの食堂でも導入するところが増えてきた。
これで素材を長持ちさせることができるため、食事のバリエーションが広がるとともに、食中毒などの危険なリスクも軽減できるはずだ。良い事づくめの対策だったな。
「で、どんな肉なんだ?」
「コイツは北の国境近くでしか取れないという、フロストサラマンダーの肉でさぁ! 何せ今までは気温が温かくなるとすぐダメになっちまう肉だったから、その地域の人たちでのみ食べられてたんですがね。魔導冷凍庫のおかけで凍らせたまま王都まで運んでこれるようになったので、この王都でも売れるようになったんでさぁ!」
「ほう! それは珍しい肉だな。ウマイのか?」
「ウマイなんてもんじゃありませんぜ、旦那! まず食べ方からして特殊何でさぁ!」
「ほう?」
「このカチカチに凍ったフロストサラマンダーの肉をいきなり鍋で煮込んだりしちゃいけねぇ! この凍った肉をまずは魔導冷蔵庫に移して丸1日間寝かせるんでさぁ」
「ほう」
なるほど。凍った肉をいきなり解凍したり調理せずにじっくり解凍しろと。
「1日たった肉はまだ中が少し凍ってる状態なんでさぁ。そこを半分切ってもう半分は魔導冷蔵庫に戻す」
「半分は戻すのか?」
「ええ、せっかくのフロストサラマンダーの肉ですからね! 二度おいしい食べ方ってやつでさぁ!」
「ふむ」
「半分凍ったフロストサラマンダーの肉を薄切りにして皿に並べます。ネギと薬味を包みながらちょいとこのオレッち秘伝の肉ダレをつけてそのまま口に放り込む!」
「おお!」
「口の中には少し冷たくシャリシャリ感の残るフロストサラマンダーの肉か暑い日にはとても気持ちいいんでさぁ! シャリシャリ感も噛んでる間にとろけて肉のうま味が出てきまさぁ」
「なんと!」
あれかな、サーモンのルイベみたいな。夏の暑い日には最高だな。
「半分残った肉はもう1日魔導冷蔵庫で寝かせると完全に解凍出来てシャリシャリ感のなくなったしっとりとした肉になるんでさぁ! それを今度は少しだけ厚めに切って塩と胡椒、レモンと数種類の香草をあえてサラダの様に食べるんでさぁ! もう病みつきですぜ!」
「ぬう!」
なるほど! 牛肉のカルパッチョみたいなもんだな。塩も胡椒も決して安価ではないが、胡椒が金と等価何て話はこの世界ではないからな。ちょっと頑張れば庶民でも十分食卓に並べることができるだろう・・・まあ、さすがにフロストサラマンダーの肉はおいそれと買えんだろうがな。
「フロストサラマンダーの肉をもらおうか」
「ヘイ! 毎度!」
全部と言いたいところだが、オヤジの用意した肉の8割方にしておいて、話題の肉を少し残しておいてやるとするか。
その他、仮面にローブで変装している俺をなぜか各屋台の店主が「ヤー・・・」と口ごもってから仮面の旦那と呼びなおすのには理解に苦しむが、俺は目当ての食材を大量購入することができた。やはり活気のいい下町の屋台街は最高だな、うん。
「チュ、チュ~~~~!!」
「うん?」
俺の自発型<スライム的地獄耳>が何か小動物の悲鳴を聞きつけてしまった。思わず立ち去りたい衝動に駆られるが、やはり聞こえてしまったものは仕方がない、俺は薄暗い裏路路地へと足を向けた。
そこには・・・
ざっくりと腹をえぐられて息も絶え絶えのドブネズミ?と猫とは思えないほど凶悪な表情で恐ろしげなツメを持ったドラネコ3匹がいた。
聞こえたのはネズミの鳴き声だったのか。
腹に一撃喰らったのかごっそりと肉をえぐられ、もう助からないのは一目見てわかる状況。
猫とは思えないほど凶悪な顔のドラネコ3匹の食料になるのだろう。
俺は踵を返して大通りに戻ろうとした。
「チュ・・・チュ~~~~・・・」
弱弱しく鳴き声を上げるネズミ。
見るな! そんな目で俺を見るな!
雨の日に捨てられて寂しそうにお座りしているチワワのような目で俺を見るな!
俺はなぜか薄暗い路地裏で葛藤した。
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