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閑話73 ゲルドン御一行様世直しハネムーン(前編)

年内の「まさスラ」更新もこの閑話で最後になります。

年の最後は恒例(?)の年越しゲルドン祭りでお楽しみください!



「・・・えっ!? もう一度言ってもらってもいいだか?」


自分の雇い主・・・というか、上司と言うか。

ともかく上位の存在であるヤーベから言われた言葉に、ゲルドンはすぐには理解が追い付かなかった。


「だから、ハネムーンだよ、ハネムーン! 新・婚・旅・行!」


「ええっ!?」


ゲルドンは二度聞きしてなお驚いた。


「せっかくデュグラント皇国第一皇女の皇女マリアンさんと子爵家長女のレイナクルト殿と結婚したわけだし。両手に花なんだから、新婚旅行くらい連れて行ってやりなよ」


ニコニコ顔で説明してくるヤーベ。

その言葉の意味自体になんらおかしなところはないと言えばない。

折角奥さん貰ったんだから新婚旅行くらい連れて行ってやれよ・・・。と友人が説明してくれるだけならゲルドンもここまで驚きはしない。


「だども、9人も奥さん貰ってるヤーベが新婚旅行に行かないのに、おでたちだけが新婚旅行に行くのはいささか気が引けるだが・・・」


「オイ、形式上は受け入れているが、リーナとミーティアを奥さんズの枠に入れるんじゃない!」


執務室の豪華なデスクを両手でバンッ!と叩きながらヤーベが声を荒げる。


「正妻のカッシーナを筆頭に、イリーナ、ルシーナ、サリーナ、フィレオンティーナ、アナスタシア、ロザリーナの七名は奥さんズと認めようではないか! だか、幼女枠(リーナとミーティア)は断じて奥さん枠ではないからな!」


「いや、おでに魂の絶叫を上げてもらってもどうしていいだか・・・」


ゲルドンの戸惑いに、ヤーベはばさりと数枚の用紙をデスクに投げるように置いた。


「お前はとにかく奥さんを連れて休暇を楽しめ。道中の馬車や宿の手配、行く先の選定などは全てコチラで決めてある。詳しくはその用紙を読め」


「そりゃありがたいだが・・・」


机に広げられた紙を集めて目を通すゲルドン。


「鉱山都市マーロの北東にある町が最初だべか・・・」


「ああ、コスィーネン男爵領のメインタウンであるコスッカラーの町だな。町を出て北の山裾にものすごくきれいな湖があるらしいぞ?」


「最後は他国なんだな・・・それも北東・・・東の方だべか。どうせならこの時期だし南の方がよかったべな。ガルガランシアとか」


年末に近い寒い時期だからか、暖かい地方へ行きたかったとブーたれるゲルドン。


「基本お前たちの滞在費はすべて俺持ちなんだ、文句言わずに楽しんで来い」


「それはシンプルにうれしいだで」


「あ、土産代や道中のオヤツ買い食い費用くらいは持って行けよ?」


「さすがにおごりの旅行だからって一銭も持って行かないなんてことはないだで。奥さんにお土産買うくらいは自分で出すだで」


旅のしおりともいうべきヤーベのメモ書きを手にしながら、胸にどんと手を当てて胸を張った。


「ならいいけど。王都の東側は広大なドライセン公爵領が広がっている。だが、その北や南には小さな男爵領や騎士爵領も点在しているからな。そんなところと誼を結ぶのも大事な事だと思うのだよ」


へんな笑みを浮かべて力説するヤーベを見て、ゲルドンは些か心に引っ掛かるモノを感じる。

なにせヤーベが貴族同士の付き合いを大事にするはずがないと知っているからだ。

貴族なんてなりたくない、しがらみ多くてやってられないと文句ばっかり言っているヤーベから、王都に呼ばれることすらない小さな男爵領や騎士爵領との誼など、意識して出てくるはずがない。

なにかウラにあるかもしれない。そんな疑念がゲルドンの心に沸く。


だが、ハネムーンのために長期で休みをくれて、旅行も手配してくれて、費用も負担してくれる。ゲルドンに断るという選択肢はなかった。


「まあせっかくだし、ありがたく好意として受け取ることにするだよ」


そう言って旅のしおりを手にヤーベの執務室を出ていった。

ゲルドンが背を向けた時、ヤーベがにやりと邪悪な笑みを浮かべたことに気づくことはなかった。






「あ、そろそろコスィーネン男爵領のメインタウンであるコスッカラーの町みえてくる頃ですよ」


「じゃあ、その町でまずはゆっくり逗留することになるんですね」


レイナクルトの説明にマリアンが嬉しそうに答えた。

ヤーベの用意した馬車はサスペンション機能付きで椅子にも綿が詰められており、お尻が極端に痛くなるようなことはなかったが、それでも長時間馬車に揺られていると首や肩の一つも痛くなってくる。

ゲルドンは首をぐるりと回し、コキコキと音を鳴らすと、馬車の窓から外に視線を向けた。


ヤーベはこのコスィーネン男爵領では、木屋の山裾にある湖がきれいだと言っていた。

一体いつそんな情報を仕入れてきたのだろうか?

まったく、ヤーベのそばにそこそこ居続けているというのに、いまだにわからないことの方が圧倒的に多いなとゲルドンは溜息を一つ吐く。


だが、今回のハネムーン企画については素直にヤーベに感謝していた。

ヤーベ自身が非常に忙しいこともあり、ヤーベの『左腕』として護衛―――ヤーベに必要かどうかはともかく―――一緒にいることが多く、そのためゲルドンも忙しかった。

そんなわけで娶った妻たち・・・マリアンとレイナクルトとの時間を十分に取ってやれているかと言えば、胸を張ってイエスと言えない状況であった。

そのため、今回のハネムーン斡旋はまさにゲルドンにとっては渡りに船であった。




「領主の町であるコスッカラーへ入るためには一人金貨1枚だ」


「ええっ!? たっか!」


コスッカラーの町の門を守る衛兵の説明に思わずゲルドンは声を上げてしまった。

それほど高い金額であったし、なによりより上位の辺境伯位を持つヤーベの部下であり、自身も男爵位を預かる身である。その自分たちから、街に入る税金として一人金貨一枚を払えと言ってきているのである。ぶっちゃけゲルドンはコスィーネン男爵にケンカを売られているのかと思った。


だいたい、ヤーベの情報網からすれば、このコスィーネン男爵領がろくでもない状態だというのは事前にわかっていたはずである。であるにもかかわらず、自分たちのハネムーンに組み込むなんて・・・と思っていたら、なんと御者が素直に人数分の金貨を払っていた。

ゲルドン達は馬車に自分とマリアン、レイナクルトの3名だけだが、後ろに続く馬車にはマリアンたちのお付きの者が乗っており、その周りには護衛の騎士たちが馬に乗ってついて来ている。総勢15名程度の集団である。その費用をポンと払うのだからゲルドンが驚くのも無理はない。


 ヤーベという人物は、確かに金持ちであるし、必要だと思う事にはいくらでも金をつぎ込むタイプである。それこそ奴隷のシーナをオークションにて金貨7000万枚で購入したことは今でも伝説級の語り草となっている。


その反面、無理無茶無駄筋の支払いにはトコトン渋る傾向にあり、たちの悪い相手には徹底的に無視するか対向してぶっ潰すかしている。

そのヤーベがシンプルに超高額な町への入場料を素直に支払うよう指示を出している・・・それ自体に何か不穏なものを感じるゲルドンだった。




「やたらいろんなものが高い気がするけど・・・」

「なんだか働いている人たちも元気がない気がしますね・・・」


町で一番高級な宿というふれこみにウソはなく、チェックインした宿は部屋も大きく綺麗だった。出てきた夕食もそれなりにおいしかった。


「前金でお付きの人が支払っていた金額にドン引きですが・・・」


レイナクルトの顔が幾分青ざめている。何しろ彼女は騎士団に勤めていて給料をもらっていたため、このコスィーネン男爵領での金銭のやり取りに目を点にして驚いていたのだが、どうやら驚き疲れてしまったようだ。


「まあ、今日は馬車で長旅だっただで、早く休んで明日、ヤーベがお勧めだと言っていた綺麗な湖でも見に行ってみよう」


ゲルドンは二人にそう告げると早めに休むのだった・・・ハネムーンなのにいいんかい。






-早朝-


「む~~~、ヤーベさんも人使いが荒~い。こんな遠くまで出張させるなんてね~」


フワフワと湖の前に浮いている水の精霊・・・ウィンティアだ。


「さて・・・このキッタナイ湖を、世界有数の透明度を誇る湖に変えてくれ――――ね」


水の精霊ウィンティアが見つめる湖――――それは誰がどう見てもキッタナイ淀んだ湖であった。大きさこそそれなりであったが、それだけに濁った湖が見る者を暗くさせる――――そんな湖であった。


「ピュリファイピュリファイピュリファイ・・・」


水の精霊ウィンティアは両手を広げると呪文を唱え始める。


「<聖域水質浄化セイント・ピュリフィケーション>!!」


水の精霊ウィンティアの両手から聖なる水が溢れだし、湖に浸透していくと湖全体が光り輝いていく。


「ふうっ、お仕事完了っと! 早く帰ってヤーベさんにいっぱい褒めてもらおーっと!!」


満面の笑みを浮かべて水の精霊ウィンティアはその姿を消した。






「朝食もそれなりに美味しかったですけど、どうも働く人たちの表情が暗いのが気になります・・・」


マリアンが馬車の外を見ながら、その表情を曇らせる。

元来優しい性格のマリアンは、働いている人々が何か苦しい思いをしているのを感じていた。


「おっ、噂の湖に着いただよ」

「早速湖畔まで見に行ってみましょう」

「はいっ!」


ゲルドンを先頭にマリアン、レイナクルトが馬車から降りて湖の湖畔まで歩いていく。


「なーんにもないところだでな」

「すごいですね! 湖の底まで透明で見ることができますよ!」

「すごいっ! とても綺麗ですね!」


ゲルドンはぼやくが、女性二人は大興奮のようだ。


「・・・タツコ、すまない」

「いいえ、ハチロウ様とご一緒ならばタツコは何も怖くありません・・・」


そう言って二人は湖の中へ歩いて入って行った。


「うおおおおい!? な、なにしてるんだでか!?」


周りをボーッと見ていたゲルドンは、二人が湖の中に入っていくのを見つけて、慌てて走り出した。




2021年も本日で終わりですね!

みなさま一年本当にありがとうございました。

なかなか思うように更新できない中、お読みいただき感謝の念に堪えません。

来年も皆様に少しでも楽しく読んで頂けるような物語を準備していきたいと思います。

皆様よいお年をお迎えくださいね!

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