第401話 創生の七英雄の伝説の真実を知ってみよう(後編)
まじゅい・・・。
気づけばもう今年も後数日・・・。
毎年の年越しゲルドン祭りも、本編400話記念もトータル500話記念も投稿三年半記念も、まだ準備が終わらず・・・。
年始のお年玉(?)がわりの新作投稿準備もまだ途中・・・。
西園寺、ヤバイです!
「ぐおお・・・一体どれほどの時間がたったというのか・・・」
「どれほど時間が経ったとしても私たちのやることに変わりはないはず」
頭を振りながら周りを見回す男と、まっすぐに男を見つめる女。
いきなり土から這い出てきて、そんなことを話している男女に俺は完全に固まった。
肌は赤黒く、ソンビヤグールとは違うが、普通に生きているようには見えない。
ちなみに俺は新しく出したバーベキューコンロの前でリーナのために肉を焼こうとしているところだった。俺の目の前では軽いやけどを負ったゲルドンがいそいそと炭に火をつける準備をしている。
奥さんズの面々は創生の七英雄の話でショックを受けている者たち以外はバーベキューの再開を準備していた。
そんな中、土の中から現れた男女に、俺だけではなく、誰もが固まっている。
「えっと・・・ゾンビか何かだべ?」
けっこう空気を読まないレッドがゾンビと口にする。
どうみても違う気がするけど、だからといって彼らが何者かと言われれば答えに窮する。
「・・・なんだ、誰かいるぞ? 人間に・・・魔族、か?」
「だとしてももう私たちに関係はないわ。私たちが殺さなければならないのは魔王でも魔族でもなくて貴方の弟と私の妹ですもの」
「はい?」
思わず俺は声が裏返ってしまった。
この二人、誰を殺すって?
「・・・弟と妹?」
「ん? そこのヤツ、カロッセルとエメロードがどこにいるか知らぬか?」
「・・・きっとあれから幾年も経っているはず。当人たちが生きていれば僥倖ですが、死んでいれば、その血筋末代まで滅せなければ」
やけに物騒な話をする土から出てきた二人。
それにしても・・・カロッセルとエメロード?
どっかで聞いたことが・・・。
「・・・創生の七英雄様を殺すと?」
「たとえ彼らが魔王殺しを成しえていなかったとしても、彼らの功績が色あせることはないのだ!」
「そのとおりだ、魔族ごときに七英雄を貶められてなるものか!」
創生の七英雄の二人、カロッセルとエメロードを殺すと発言した土人間(土から出てきたので暫定的にそう呼ぶ)の二人に激怒するイリーナ、フィレオンティーナ、ロザリーナ。
ただ、この土から出てきた二人、魔族じゃないだろうけど、人間でもないだろうし・・・。
「魔族ごときって・・・」
「あまり強く否定できないわ~、旦那さんがアレでしょ?」
「うむ、我が主の実力からすれば我らなど魔族ごときであろう」
魔王軍戦士団長エギゼグル、魔導師団団長のトゥルーフィア、亜人装甲師団隊長マイラ・アドモスフィアが魔族ごときと言われてへこんでいる。
「いや、すまないね妻たちが・・・、あと俺をアレって言うのやめてね?」
一応誤っておくけど、あの土から出てきた連中は魔族っぽくないんだよな。
「なんだと? 創生の七英雄?」
「どういうことですの?」
土から出てきた赤黒い男女が問いかけてきたので俺はかいつまんで創生の七英雄について説明した。
「ただし、魔王を倒したってのは事実と違うという話だけど」
と、一通り説明が終わったのだが、俺の話を聞いて二人が激昂してしまった。
「ふざけるなよ! あのカロッセルのクズ野郎が!!」
「よくもぬけぬけと・・・あの二人の血筋は末代まで皆殺しにしなければ!!」
「ちょっと待て、どういうことだよ?」
土から出てきた二人を宥めながら俺は話を聞いてみることにした。
「俺たちは魔王襲来の情報を得て、次元の扉の出現位置の情報をもとに迎え撃つべくこの地に集まったのだ。だが、侵攻が始まったと思ったら早々に次元の扉が閉じていったため、俺たちはこれぞ神の思し召しと先行部隊として出てきた魔獣たちを倒していったのだが・・・」
男の方が説明し始めたのだが、顔が曇る。
「カロッセルとエメロードが、共謀して私たちを魔法で作り上げた穴に落とし、そこで大勢の弓矢隊から矢を放ったのよ」
「あっという間に俺たちはハリネズミになった・・・。最後に聞いた奴らの声は、これで自分たちがこの世界の王と王妃になれる、だった」
「だから、私たちは未来永劫やつらを絶対に許さない、その血筋末代まで殺しつくすと決めたのよ」
え~、じゃあ土から出てきたこの二人って、弟と妹に裏切られたって、兄のカシムと姉のエトナってことか? しかも二人だけじゃなくて弓矢隊とか大勢に裏切られてんじゃん。
「え、じゃあアンタ達はカロッセルとエトナ? いや、その話だと君たち二人とも死んでるよね?」
俺の疑問にカロッセル?の方が答える。
「この地は所謂龍脈…地脈エネルギーの集積地点だったらしく、ほぼほぼ死んでいた俺たちの魂が消滅することなく長い間この地にとどまらせてくれていたようだ。肉体構成も土の中で人とは変わってしまったようだが、こうして生きているといえば生きているしな」
「え、生きてるのかなぁ?」
「それは正直どうでもいいですわ。私たちはとの子孫を含むすべての連中を殺せば気が済みますから」
「いや、それどうでもよくなくない?」
俺は頭を捻るが、ふとピコンッと頭の電球が点灯する。
「じゃあ、俺は大丈夫だな」
俺は腕を組みながらうんうんと一人頷く。
「いきなりヤーベが人類を裏切っただて!?」
「さすがヤーベさんだな。ちなみにオラもオーガ族だから大丈夫」
「レッドまで! そういう問題だべか?」
なぜかオークのゲルドンがおろおろしている。不思議だ。
「リーナは大丈夫でしゅか?」
「もちろんリーナは大丈夫だよ」
俺の前に来て首をかしげながら訪ねるリーナがかわいすぎて頭をなでなでしながら抱きしめる。
「やった―でしゅ!」
無邪気に喜ぶリーナ。リーナは元気が一番だ。
「いやしかし、そうなると、ここにいるのは結構該当しない人が多いのかね?」
お、加藤君・・・アビィ卿が周りを見渡しながらつぶやく。
「おいおい、その二人の子孫って、どうやって調べるんだ?」
「少なくとも異世界から転移で呼ばれたお前たちは関係ないから黙ってろ」
俺はじろっと自称勇者(笑)の皇洸太を睨む。
調べられないくらい時が経っているから、人間皆殺しって言いだしたらどうするんだよ! 空気読め!
それにしても・・・彼らの話を信じるならば、大陸創世記の混迷の時代に、人々の安寧を願って魔族との決戦に挑み、兄弟姉妹から裏切られ、最後殺される・・・。
相当につらいな。そして自分たちを殺した弟と妹が大陸の覇者として悠久の王国を築き上げたのだとしたら、そのすべてをぶち壊したくなるのもわからんではないのだが・・・。
もうすでに数千年も前の話だしな。今平和に生きている人々からすれば迷惑極まりないわなぁ。
「貴方たちも人間なら奴らの血筋の可能性があるわ・・・」
「可能性があるってだけで人を殺さないようにね」
「じゃあどうすればいいっていうのよ!」
女性の方が切れやすいのかよ。怖いねぇ。
「知らんよ。俺に聞かないでくれ」
「だいたい貴方もヤツらの子孫かもしれないでしょ!」
「俺は違うよ? ホレ」
そう言って俺はデローンMk.Ⅱの姿にかわる。
「な、なに貴方!?」
「少なくとも君の妹さんの血は絶対引いてないでしょ?」
「ええ・・・」
エトナさんはとりあえず納得してくれたようだが、そのかわりめちゃめちゃドン引きされたようだ。
なんでだよ。
「そこの貴女。随分高貴な人柄なのではなくて?」
エトナが目を付けたのはカッシーナだった。
「え、ええ・・・まあ」
「では貴女から血祭りにあげて復讐の狼煙を上げると致しますわ」
「ひっ」
あまりにも深い憎悪の表情をうかべるエトナにカッシーナの身がすくむ。
今のカッシーナはただの元王女ではなく、強敵との戦闘経験もある。そのカッシーナをひるませるほどの憎悪。あまりにも数千年の恨みは深いのだろうか。
「悪いが彼女は俺の奥さんなんでね。殺されてはかなわん」
カッシーナに向かおうとしたエトナの前に俺が立ちはだかる。
「関係ないわ」
「俺もあんたらの弟と妹に直接恨みを晴らすってんなら見逃したかもしれんが・・・。残念なと言っていいかわからんが、すでにもう世界は数千年の時が過ぎ、平和な時代を享受している。お前さん方が恨みを晴らすべき相手はもうどこにもいない」
「黙れ!」
激昂するエトナを押さえ、カシムは前に出た。
「だからと言って、はいそうですかと引き下がるわけにはいかんのだよ。我々がなぜ数千年もこの地で復活を待ちわびたのか・・・そのすべては復讐のためなのだから」
カシムもエトナもまるで憎悪の塊の様に黒いオーラが噴出する。
話し合いのためにも、まずはこの二人を止めないと。
「そうか・・・ならとりあえずお前たちは勇者が止める!」
「えっ!?」
後ろで自称勇者が驚いて逃げようとしているが、お前じゃねーよ。
「いでよ我が眷属! 勇者使いミーナと使役勇者の白長洲君!」
ポンッ!と小気味いい音とともに現れたのはひらひら魔法少女の衣装を着たサキュバスミーナと悪名高き勇者白長洲久志羅であった。
「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン! 愛と勇気とちょっぴりエッチな恋心を応援するマジカル美少女、サキュバスミーナが丁稚の元勇者白長洲君を引き連れて登場だゾ!」
「誰が丁稚だコラァ!!」
目の前に現れたミーナと白長洲にカシムとエトナも目を丸くしてその足が止まる。
・・・もっともいきなり現れた二人に奥さんズの面々や他の仲間も目が点になっているが。
「よし、とリあえずあいつらに白長洲をけしかけろ!」
「あいあいさー」
俺の命令に笑顔で答えるサキュバスのミーナ。
ここが出番と張り切ってるな。
魔法のステッキを振り回すと、元勇者の白長洲が壊れたマリオネットみたいにぎくしゃくしながら二人に殴りかかる。
「うわっ!? こらっ! 勝手に操るな!」
あの白長洲でどれだけ時間が稼げるか・・・、マイッタネ。
年の瀬によく聞くセリフ・・・「一年早いねー」を身をもって実感しております・・・。




